備忘録
内側の壁②(①を読了してから、どうぞ)
「よかったら、座られませんか?」
乗り換えの流れに乗じて近づき、私は彼の服を引っ張った。
通勤のいつものザワザワの中に、異質な一言が飛んで、その空いた座席に座る人はいなかった。
青年は少し驚いた後、素直に応じた。
「ありがとう」を言われたかもしれない。多分言われただろう。
そんなことは、どうでも良くなる程、見れば彼の顔色は悪かった。
昔、海の近くで偶然、いわゆる「ドザエモン」を見たことがある。
人間死ぬと、あそこまで血色がなくなり、青くなるのか、と、こちらまで血の気が引いたことを思い出す。
死人の顔色が比較対象になるほど、この青年の顔色は青ざめていた。
「顔色、かなり悪いですよ。どうかご無理なさらないように」
この言葉が、彼に響いたかどうかわからない。
いや、聞こえなかったんじゃないだろうか。
座ったからといって、軽減されるしんどさではなかっただろう。
急に
自分の内側の壁が高くそびえて、厚みが増したような感覚がした。
…今日(3/2)中に続く。