プロが使用する「コンデンサーマイク」のランキング
マイクの購入を検討する時に1つの参考になるのが、プロのエンジニアさんさんが使っているマイクです。
レコーディングスタジオやフリーのエンジニアさんなどは、より良い音を求めてマイクを探し求めている人も多いですし、クライアントさんに納得してもらえるような定評のある機材を揃えている場合が多いです。
そこで今回はレコーディングスタジオやフリーのエンジニアさんが使っているコンデンサーマイクのランキングについて書いていこうと思います。
以下のランキングは私が普段からお世話になっているスタジオだけでなく、全国各地の数十件のレーコディングスタジオの機材リストなども参考にした上で作成したものですが、初心者の方にとっては価格が高いと思われる機材も多いかも知れません。
初心者向けのコストパフォーマンスの良いマイクは別の記事でまとめていますので、そちらも参考にしていただければです。
◆プロが使用するコンデンサーマイクのランキング
◇Neumann(ノイマン)を置いている比率 【97%】
予想どおりという感じですが、最も使用されているコンデンサーマイクは後記のAKGと並んでNeumann(ノイマン)でした。
Neumannのマイクの中でも使用率が高かったコンデンサーマイクは以下のとおりです。
(ヴィンテージなども含んだ割合です。)
Neumann U87 【88%】
ボーカル用のレコーディングと言えば「U87」というくらい定番のマイクですね。
レコーディングスタジオに歌録りをお願いするとファーストチョイスとしてU87が使われることも多いですし、FIRST TAKEでもU87が最も使われている頻度が高く、ノイマンの「集大成」と言われることもある評価の高いマイクです。
昔から使われているマイクですが他のマイクと比べて感度が高く、にもかかわらず最大SPL127dBと大きな音を録音しても歪みにくいという特徴があるため、失敗するリスクが低いといいう安心感もあると思います。
また適度なコンプ感もあり録音した後の処理もやりやすい、というのも多くのプロに選ばれている理由だと思います。
そして他の業務用のマイクと比べるとコストパフォーマンスは良いほうなのでスタジオとしては本数を揃えやすいという事情もあると思います。
CDやYoutubeのMVなどのアーティストの歌声もU87で録音されていることが多いのでU87を使うと「聞き慣れた音」になりやすいです。
ボーカル以外にも、ドラムのトップやアンビエンス、弦楽器などの録音に使われることもあります。
U87は現在は価格が高くなってしまいましたが昔は30万円代で買えたんですよね・・・。
Neumann U47 【31%】
ノイマンのマイクの元祖的な存在のU47は1949年に発売されましたが、1965年に生産終了されているためオリジナルのマイクが置いてあるスタジオはかなり少ないと思います。
現在は「NEUMANN U 47 fet i」という名前で生産・販売されており、スタジオに置いてあるのも復刻版の機種がほとんどです。
Neumann U67 【22%】
U47が爆発的に普及した後に、U47のサウンドの要であった真空管が製造中止になってしまい、U47に代わるマイクとして新しく開発されたのが「U67」です。
こちらもオリジナルは生産終了していますので、スタジオに置いてあるものは復刻版がほとんどです。
Neumann KM184 【19%】
KM184はKM84という名器の後継機種で、管弦楽器、アコースティックギター、ピアノなどに録音に使われることが多いコンデンサーマイクですが、ドラムの録音に使われていることもあります。
Neumann KM149 13%
「KM149」はボーカルのレコーディングに使われることの多い真空管コンデンサーマイクです。
多くのスタジオにU87が置いてあるので、差別化を図ってスタジオの「顔」にするためにKM149を置いてあるということも多いのかなと思います。
横に大きい個性ある見た目はレコーディング風景を動画にする時にもインパクトがあると思います。
その他のノイマンのコンデンサーマイク
その他、真空管コンデンサーマイクの「M147」は9%でした。
宅録勢に人気の「TLM103」は、レコーディングスタジオでは6%と少な目なのが意外でした。
TLMシリーズは、作曲家さんや歌い手さんだともう少し使っている人の割合が多いような気がします。
ノイマンのマイクは個人にとっては高めの価格帯ですし、ショックマウントも高かったり、マイクに重量があってスタンドもしっかりしたものを買う必要があるので、個人で購入するよりも、レコーディングスタジオに置いてあるものを使うほうがコストパフォーマンスが良いかも知れません。
◇AKG(アーカーゲー)を置いている比率 【97%】
ノイマンと同じくらい使用率が高かったのがAKGのコンデンサーマイクでした。
AKGがサムスンに買収されたり、AKGのエンジニアが抜けてAustrian Audioが設立されたりという出来事があったので、最近はAKGのシェアは減ってきているのかなとも思っていたのですが、全くそのようなことはなく現在でもスタジオなどに置かれていることが多いようです。
AKGのコンデンサーマイクの中でも特に使用率が高かった機種は以下のとおりです。
AKG C414 【84%】
「C414」は比較的リーズナブルですが、ノイマンのU87と並んで定番のコンデンサーマイクです。
AKGの「C414」は1962年に販売開始された歴史の古いマイクで、C414comb、C414EB、C414EB-P48、C414-ULS、C414B-TLⅡ・・・などがありますが、現行では「C414 XSL」と「C414XLⅡ」の2機種が販売されています。
(上記の84%という割合は「C414 XSL」と「C414XLⅡ」以外の機種も含めた割合です。)
「C414 XSL」は比較的フラットでバランスの良い特性で、「C414XLⅡ」のほうが高域が煌びやかで存在感のある印象です。
ボーカルやピアノの録音などに使われることが多いですが、ギターの録音などに好んで使われることもあります。
他の業務用マイクに比べると価格が安めで、見た目にも高級感があってブランド力もあるので、クライアントの受けが良いというのもスタジオに常設されている理由の1つかなと思います。
「C414 XSL」は以前は7万円以下で買えたこともあったので個人で持っているという人も多いと思います。
AKG C451B 【72%】
「C451B」ボーカリストの方にはあまり馴染みがないマイクだと思いますが、アコースティックギターの録音や、ドラム(ハイハット、オーバーヘッド)などの録音に使われることも多く、多くのスタジオに置いてあります。
AKG C12 【13%】
AKGの「C12」は1953年に販売された人気の高い真空管ヴィンテージマイクですが、現在は「C12VR」という復刻モデルが販売されており、スタジオに置いてあるものも基本的には復刻版のほうです。
ボーカルの他に、金管楽器やギターの録音などに使うことが多いようです。
AKG C214 【9%】
「C214」は価格が安く初心者におすすめされることも多いマイクなので商用のレコーディングスタジオには置いてないようなイメージだったのですが、意外にもC214を置いてあるスタジオが複数ありました。
「C214」は上位機種の「C414 XLII」と同等のダイアフラム1枚を装備したマイクとしてコストパフォーマンスが良いので、一定の品質が保証されているマイクを何本も揃えるには都合が良いのかも知れません。
個人で使う分には「C214」の録り音で十分だと思いまし、オケと混ぜてしまえば上位機種との違いはあまり分からない人が多いんじゃないかなと思います。
C214を使っているとC414などの上位機種でマウントをとろうとしてくる人もいると思いますが、それさえ気にしなければ非常に良いマイクだと思います。
AKG C480B ULS 【9%】
単一指向性のコンデンサーマイクでドラムのシンバルの音などを狙って録音するに便利です。
◇audio technica(オーディオテクニカ)を置いている比率 【47%】
意外に使用率が少ないように感じたのがオーディオテクニカのコンデンサーマイクです。
ダイナミックマイクはオーディオテクニカが置いてあることが非常に多いので、コンデンサーマイクについてもほとんどのスタジオに置いてあるようなイメージでした。
しかし意外にも半分程度のスタジオの機材リストにはオーディオテクニカのコンデンサーマイクは載っていないという結果でした。
オーディオテクニカのコンデンサーマイクは安価なものも多いので、敢えて機材リストに載せていないということもあるかも知れません。
audio technica AT4050 【22%】
AT4050は「プロも使っているコストパフォーマンスの良いコンデンサーマイク」とか「一生使えるマイクを買うならコレ」みたいな形で紹介されることもあり、多くのスタジオに置いてあるというイメージでしたが、2割程度のスタジオの機材リストにしか載っていませんでした。
AT4050は癖が少なくて何の録音にも使える汎用性があるので個人が「1
本だけ良いマイクが欲しい」という場合には相性の良い機種だと思います。
他方で商用スタジオの場合には用途ごとに特徴のあるマイクを使い分けるので、AT4050は「器用貧乏」的な立ち位置になってしまい採用されないこともあるのかも知れません。
業務用としては価格が安い割に性能が高く宅録DTMerの強い味方でしたが、残念なら2024年春頃に値上げとなってしまいました。
それでもAKGのC414などに比べると安いです。
audio technica AT4040 【13%】
AT4040は非常にコストパフォーマンスの高いコンデンサーマイクで、指向性を変える必要性がないのであれば、AT4040かAKGのC214を持っていれば十分という場合も多いと思います。
「AT4050を1本買うよりもAT4040を2本買ったほうが使い勝手が良い」という人もいたりしますし、AT4050よりも低域がカットされたような扱い安いサウンドで個人的には大好きなマイクです。
AT4040とAT4050は価格が倍くらい違いますが音質が倍に良くなる訳ではないので安い費用で良いマイクを何本も揃えたいという場合にスタジオでもAT4040のようなコストパフォーマンスの良いマイクを買っているのかも知れません。
その他のaudio technicaのコンデンサーマイク
その他に「AT4060」と「AT5040」がそれぞれ6%という結果でした。
「AT4060」は真空管が使われているモデルですが、真空管タイプの中では価格が安くコストパフォーマンスが良い製品です。
「AT5040」はオーディオテクニカのフラッグシップモデルですが、バックエレクトレット式です。
バックエレクトレット式は「AT2020」などのエントリークラスのマイクにも採用されている方式なので「安物」というイメージを持たれることもありますが、意外に高級機種でもバックエレクトレット式を採用しているコンデンサーマイクがあったります。
人によってはノイマンのU87よりもAT5040の録り音のほうが好きという人もいますし、録り音の個性を出すには良いマイクかも知れません。
◇Sony(ソニー)を置いている比率 【41%】
Sony C-800G 【22%】
「C-800G」もアーティストのレコーディング映像などで見かけることがあるフラッグシップモデルのマイクです。
「アシスタントが落として壊したらクビになるだけでは済まない」と言われるくらい高額なマイクです。
「C-800G」は個人が簡単に手を出せる価格ではありませんが、ダイアフラムの一部にC-800Gと同等の素材を用いた「C80」というリーズナブルなコンデンサーマイクが販売されています。
Sony C -38B 【19%】
「C -38」は漫才用のマイクとして使われることが多く「サンパチ」と呼ばれています。
漫才で使われることが多いように劇場やホールに常備されていることもありますが、実はボーカルのレコーディング用マイクとしても優秀でレコーディングスタジオのデシケーターの中に置いてあるのをたまに見かけることがあります。
エンジニアさん曰く「合う人には合う良い非常にマイク」で声質によっては「C -38」で録音すると良い感じで録れることもあるようです。
ただ漫才のマイクとして見慣れてしまっているのでボーカルの方にとっては自分の世界観に入りづらい、テンションが上がりにくいというデメリットはあるかも知れません。
◇RODE(ロード)を置いている比率 【28%】
RODEは2003年に「NT1-A」という安価なコンデンサーマイクを発売し、宅録ミュージシャンにとって爆発的なヒット商品なりました。
そのためRODEは初心者向けのマイクというイメージも強いですが、プロの中には「初心者は最初にRODEを買うのが良い」という人もいたと、評価の高いメーカーです。
今回データを取った中では「NT5」というペンシル型コンデンサーマイクが置いてある率が13%と比較的高かったです。
NT5は安いので、ドラムのオーバーヘッドマイクとして使ったり、アコースティックギターなどの録音をしたりする他、マイクの本数が足りなくなった時に活用されているのかも知れません。
NT5に次いで置いてある率が高かったのが「NT2-A」の 9%でした。
インディーズでバンドをやっている知人からNT2-Aで録音したボーカルが送られてきてミックスしたことがありますが、オケに混ぜると自然と良い感じに馴染んでくれて作業が楽でした。
エンジニアの方もYoutubeで初心者が最初に買うマイクとしてNT2-Aをおすすめされていて非常に納得しました。
4万円以下で買えた時はコストパフォーマンスが良かったと思うのですが、最近は値上がりしてしまったのでちょっと高いかなという印象はあります。
◇SHUREを置いてある率 【25%】
ダイナミックマイクと言えば「SHURE」というくらいお馴染みのメーカーですが、コンデンサーマイクでみると意外に置いてある比率は低めの結果でした。
SHUREの中で置いてある比率が一番多かったのが「BETA91A」というバウンダリーマイクです。
ドラムのキックの他にピアノの低域の収音などに使うようですが・・・私はドラムを叩くことが無いこともあってか見たことがありません。
その他、SHUREの中では「SM81」が9%と若干置いてある率が高めでした。
ドラムのハイハット、オーバーヘッドの他、 アコースティックギター、弦楽器,、ブラスなどの録音に適しているようです。
◇DPA(B&K)を置いてある率 【25%】
「DPA」というメーカーを聴いたことが無い人も多いと思いますが、レコーディングスタジオにはDPAのコンデンサーマイクが置いてあることも多いです。
今回のデータではDPAのコンデンサーマイクのうち「4006」(無指向性)が16%、「4011」(単一指向性)が9%という結果でした。
オーケストラのレコーディングの他、大き目のアコースティック楽器やドラムのオーバヘッドの録音に使ったり、アンビエンスマイクとして使われることが多いようです。
◇EARTHWORKSを置いてある率 【22%】
ドラムのオーバーヘッドの録音で良く見かけるイメージのEARTHWORKSですが、置いてある率は22%と意外に低めでした。
EARTHWORKSの中でも率が高かったのが「QTC40」の19%でした。
ドラム以外にも、管楽器、打楽器の録音や、野外での自然音の収録などにも適しているようです。
◇Soundeluxを置いている率 【22%】
Soundeluxのマイクは馴染みがない人も多いかも知れませんが、レコーディングスタジオに置いてある率は22%と意外に高めでした。
Soundeluxの中でも比率が一番高かったのが「U99」(真空管)の13%でした。
◇Blue(ブルー)を置いている比率 【19%】
インパクトのある見た目が印象的な「Blue」のコンデンサーマイクを置いてある率は19%でした。
一番比率が大きかったのが「Bottle」の13%でした。
BlueはLogitech(ロジクール)に買収されたということもあり、現在は「Spark SL」「Bluebird SL」「Baby Bottle SL」の3機種があるのですが、国内では流通量が少なく機種によっては海外から取り寄せないと入手しづらいものもあるようです。
音の良さは以前から定評がありますが、見た目がお洒落なのでレコーディング風景の撮影の時なのに1本あると便利かも知れませんが、日本国内では在庫切れになっていることも多く、今のうちに入手しておかないと将来的に手に入らなくなるのではないかという不安もあったりします。
◇その他のコンデンサーマイク
その他、意外だったのがAustrian Audioのコンデンサーマイクを置いてある率が3%と非常に低かった点でした。
AKGが買収された後、AKGの元エンジニアがAustrian Audioを立ち上げて開発したマイクが良いという評判を耳にすることが増えてきました。
「Austrian Audioを知らない」という人は、↓のロサンゼルス音楽情報RA'Z CHANNELさんの動画で設立の経緯や性能などが詳しく説明されていて分かりやすいと思います。
しかしレコーディングスタジオでもAustrian Audioのマイクを置いてあるところが増えてきているのかなと思っていたのですが、やはり老舗のAKGは強いなという印象を持ちました。
◆色々なコンデンサーマイクのサウンドを試す方法
コンデンサーマイクは高額な機種も多く手軽に色々なマイクを試すことができないのがデメリットだったりします。
予算が厳しいという場合にはUniversal Audio の「SC-1」に付属するHemisphereというプラグインを使うと、AKG C12、NEUMANN U47、U67、U87、TLM 103、Telefunken 251、AKG C414、SONY C-800、といった高額なマイクのモデリングを使うことができます。
自分にとってどのようなマイクが良いか全く分からないという場合には、一度モデリングマイクで様々なマイクのサウンド特性を掴んでみると、その後に迷子になりにくいと思いますので、高額なマイクを買う前にこういったプラグインで色々と試行錯誤してみるのも良いと思います。
◆コンデンサーマイクの保管方法
蛇足になりますが、コンデンサーマイクは湿気に弱いので保管方法についてもお話しておきたいと思います。
保管の仕方としては乾燥剤と一緒にドライボックス(タッパーみたいなやつ)に入れて保管するという方法があります。
しかし、この方法は乾燥剤を定期的に買ってきて交換する必要があったりして面倒です。
最近は安価な防湿庫(デシケーター)なども増えてきているので防湿庫の中にマイクを入れておくと乾燥剤を交換する手間が省けますし、部屋の中でマイクをインテリア的に置いておくこともできるのでおすすめです。
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