
アンプシミュレーターをスタジオやライブハウスで鳴らす方法
最近はギター用のアンプシミュレーターの性能も高くなってきて、スタジオやライブハウスでアンプシミュレーターを使うギタリストも増えてきました。
しかし、スタジオやライブハウスでアンプシミュレーターを使うと「何か違う」「ヘッドホンやラインで聴いた時と比べて違和感があったり音が悪くなっているように感じる」「ハウリングが酷い」と悩んでいる人も多いと思います。
私自身もLINE6の初代PODを使い始めた頃から「どうすればアンプシミュレーターの性能を活かせるのだろうか」と悩みながら試行錯誤をしてきました。
スタジオやライブハウスでアンプシミュレーターを使う方法は様々ですが、それぞれのメリットやデメリットと、個人的にアンプシミュレーターの性能を活かせると思う方法について書いていこうと思います。
◆ギターアンプのインプットに接続する方法
メリット
・アンプシミュレーターだけ持ち歩けば良い(スタジオ・ライブハウス備付のアンプを使う場合)
・リターン端子がないアンプでも対応できる
デメリット
・設定によって不自然な音になることがあり、良い感じの音を出すのに苦労することがある
・真空管アンプに繋ぐ場合には歪みが強くなることが多い
多くの人が最初に試すであろう方法が「ギターアンプのインプットに接続する方法」だと思いますが、「出て欲しい音と全く違う・・・」と悩んでしまい、ここでつまずく人が思います。
ギターアンプのインプット端子は基本的にギター本体から出る信号や、エフェクター(アンプシミュレーターを通していないもの)の音を入力した場合に「良い感じ」の音が出るように設計されています。
そして、基本的にギター本体から出る音や、エフェクターから出てくる音は、レンジが狭く(高音域と低音域が弱く)、アンプを通さないと「使えない」と感じるような「ショボい音」です。
この「ショボい音」をアンプを通すと「ちょうど良い音」になるようにアンプは設計されています。
他方でアンプシミュレーターから出てくる音は、レコーディング機材に繋いでそのまま録音できるような「完成された作られた音」なので、レンジも広いです(高音域も低音域も詰まっている)。
このアンプシミュレーターで作られた音をギターアンプのインプットに入れると、ギターの音をアンプシミュレーターと、実機のアンプの2つの部分で音を作り込むことになるため、デジタル感があって高域がシャリシャリしたような「使いづらい」になってしまうことがあります。
簡単に言うとアンプを2回分通したのと同じような結果になるため、現実的ではない違和感のある音になりやすいです。
この問題を解決するための機能を提供しているメーカーもあって、例えばBOSSのマルチエフェクターに入っているアンプシミュレーターでは、接続するアンプ毎にアンプシミュレーターから出力される音を補正してくれる機能が付いています。
たとえば、JC-120のインプットに接続する場合には、アンプシミュレーターのOUTPUT SELECTで「JC-120 INPUT」を選択すると「良い感じの音」が出るようになっている・・・はずなんですが・・・実際に試してみると「何か違う・・・」という音になることもあります。
そのような時には
・他のOUTPUT SELECTを試してみる
・マスターEQ(出力音の周波数特性を調整するイコライザー)を調整する
・アンプ本体のイコライザー(HIGH,MID,TREBLE)を調整する
・アンプシミュレーターのキャビネットシミュレーターをオフにする
などの方法で解決することもあります。
ただ、同じJC-120といっても年式や劣化によって音が違ったりしますし、JC-120のイコライザーやスピーカーのクセが強いので、ライブのリハで音作りに右往左往することもあったりします。
個人的に感じているのは、アンプシミュレーターの性能が高くなればなるほど「ギターアンプのインプットに接続する方法」は使いづらくなっていくという印象です。
例えばBOSSの場合、GT-100やGT-1といった1世代前のアンプシミュレーターはOUTPUT SELECTで「JC-120 INPUT」などを選択してアンプのインプットに接続するだけで、簡単に「使いやすい音」が出ることが多かったです。
しかしアンプシミュレーターの性能がより進化したGT-1000をアンプのインプットに接続すると、音のレンジが広すぎたりして、OUTPUT SELECTを変更しても「使いやすい音」には簡単に辿り着けないことも多いように感じます。
これは先ほどもお話したとおり、アンプのインプット端子は「ショボい音」を「良い感じの音」にするために最適化されているためであり、最近の性能の良いアンプシミュレーターの「良い音」をアンプのインプットに流し込むと音のレンジが広がり過ぎたりデジタル感が強調されたりしてしまうからであると思います。
このように「ギターアンプのインプットに接続する方法」には、色々と問題点があったり、良い音を出そうとすると現場で細かい調整が必要になることがあります。
そこで「もっと簡単に良い感じの音が出せることがないか」ということで、先人達が試行錯誤を重ねてきた方法を説明していきたいと思います。
◆ギターアンプのリターンに接続する方法
メリット
・アンプシミュレーターだけ持ち歩けば良い(スタジオ・ライブハウス備付のアンプを使う場合)
・アンプのプリアンプによる音の変化を防ぐことができる
デメリット
・リターン端子のないアンプに遭遇した時に困る
・パワーアンプやアンプのスピーカーによる音の変化は避けられない
・ハウリングを起こしやすい
・注意しないと爆音を出が出る
「ギターアンプのインプットに接続する方法」で音が大きく変わってしまうという問題を解決するための方法として、ギターアンプの裏側などにある「リターン」端子にアンプシミュレーターを接続する方法があります。(俗に言う「リターン挿し」)
リターン端子は本来はプリアンプで処理した後の音を外部に出して(センド)、リバーブやコーラスなどのエフェクターで処理した音を戻すために使われることが多いのですが、リターン端子にアンプシミュレーターを繋ぐとプリアンプ部分をバイパスすることができプリアンプによる音の変化を防ぐことができます。
インプットに繋いだ場合
シミュレーター ⇒ プリアンプ ⇒ パワーアンプ ⇒ スピーカー
リターン端子に繋いだ場合
シミュレーター ⇒ パワーアンプ ⇒ スピーカー
インプットに挿す場合に比べると音の変化が少ないため、アンプシミュレーターで作った音に近い音を出すことができますが、デメリットもあります。
デメリットの1つはリターン端子の付いてないアンプに遭遇したケースです。
JC-120やマーシャルなど、スタジオやライブハウスに一般的に置いてあるアンプにはリターン端子が付いていることが多いですが、JC-120でも古い機種ではリターン端子がない場合がありますし、小さめのジャズ系のライブハウスなんかだったりするとマーシャルが置いていないということもあります。
その他のデメリットとしてはリターン挿しの場合にもアンプのパワーアンプ部分とスピーカーは使うことになるため、これらによる音の変化は避けられません。
スタジオやライブハウスに置いてあることの多いJC-120やマーシャルのキャビネット(1960A)は高音域が強めに出る傾向があるため、アンプシミュレーターのハイファイな音を出そうとすると高音域の音が強調されて痛い印象を受けたり、ドラムのシンバル系と音が干渉する傾向があります。
また、リターン挿しの場合はスタジオなどに置いてあるアンプの内部にあるパワーアンプ(音を大きくする部分)の特徴が付加されますので、それが嫌だという人は、次の「アンプのキャビネットに接続する方法」を試すことになります。
ちなみに「リターン挿し」をした場合、基本的にアンプはマックスの音量が出てくることが多いので、エフェクター側のマスターボリュームを一度「ゼロ」にしてから少しずつ音量を上げたほうが安全です。
(初めてのリターン挿しで爆音を出してしまい、心臓が止まりかけたギタリストも少なくないと思います。)
◆アンプのキャビネットに接続する方法
メリット
・プリアンプによる音の変化を防ぐことができ、アンプシミュレーターの音を比較的忠実に再現できる
デメリット
・プリアンプの付いたアンプシミュレーターを使うか、別途プリアンプを用意する必要がある
・キャビネットやスピーカーの癖が気になることがある
・バンドの入れ替えのあるライブの場合にはPAさんに嫌がられることがある
マーシャルなどのアンプのキャビネット部分の裏側には音の信号を入力する端子があります。
この「キャビネットの端子」にアンプシミュレーターの音を直接入力するという方法があるのですが、キャビネットの端子は「パワーアンプによって増幅された音」を入力するための端子なので、通常のアンプシミュレーターを直接接続することができません。
そのため、キャビネットの端子にアンプシミュレーターを接続する場合には別途パワーアンプを用意する必要があります。
外付けのパワーアンプいくつか種類がありますが、プレイテックのGPA-100(ペダル型のパワーアンプ)はエフェクター2個~3個分くらいの大きさなので持ち運びも楽です。
GPA-100は8Ωのキャビネットに接続した場合には十分な音量を稼ぐことができますが、16Ωのキャビネットだと音量不足を感じることがあります。
(特にギターが2人のハードロック、メタル系のバンドだと音量が物足りないかも知れません。)
(海外だとHarley Bentonというメーカー名で販売されていますが、こちらは「Power supply: AC 220-240 V」となっており日本だとそのままでは使えないと思われるので注意が必要です)
この「キャビネットにアンプシミュレーターの音を直接入力する」は「アンプヘッド」を「アンプシミュレーターとパワーアンプ」に置き換える方法と考えると分かりやすいと思います。
パワーアンプを内蔵しているKemperの場合には別途パワーアンプを用意しなくてもキャビネットに直接繋ぐことができます。
Kemperも発売されてから長い年月が経っていますが、未だにプロを含めてKemperを使っている人が多いのはパワーアンプが内蔵されていて便利だから、という側面もあるように思います。
アンプのインプットやリターンに接続する場合に比べて「アンプのキャビネットに接続する方法」のほうがアンプシミュレーターの音を忠実に再現しやすいので、アンプシミュレーターの音をなるべく素直に出したいという人にとっては選択肢の1つになると思います。
※この場合、アンプシミュレーターのキャビネットシミュレーター(IRローダー)の部分がオンの状態だとキャビネットが重複してしまうため、キャビネットシミュレーターはオフにしておいたほうが自然な音が出ます。
デメリットしてはパワーアンプを用意するのが面倒であるだけでなく、キャビネットやスピーカーの癖の影響は少なからず受けてしまいます。
アンプシミュレーターでは「 Vintage 30」「G12M Greenback」「Creamback」などの名機のキャビネットシミュレーター(IR)が使われていることも多いのに対し、スタジオやライブハウスに良く置いてあるマーシャルの1960Aというキャビネットには「G12T-75」という低音域が強めのスピーカーが入っていることが多です。
そのため、自宅でアンプシミュレーターを使って弾いている時と、スタジオやライブハウスでマーシャルの1960Aを使って弾いた時では、少なからず音が変わってしまします。
またライブの場合にはアンプヘッドとキャビネットを繋ぐ線を抜いてしまうと他のバンドのリハーサルや準備に時間がかかってしまいますし、間違ってキャビネットと真空管のヘッドアンプの接続が外された状態で音を鳴らしてしまうとアンプを壊してしまうという事故が発生する可能性もあります。
そのため「キャビネットに接続する方法」はPAさんや、他の対バンのギタリストに嫌がられることがあります。
またライブハウスやスタジオのアンプのメンテナンスがきちんとされていなくて「変な音がする」というケースがありますが、この「変な音がする」原因はキャビネットが痛んでいることによる場合も多いです。
そのためライブハウスなどにあるアンプの個体差の問題を避けるためにアンプシミュレーターを持ち込んだものの、据え置きのキャビネットが痛んでいたために満足のいく音が出せない、という状況になることもあります。
◆PAスピーカーに接続する方法
メリット
・プリアンプ、パワーアンプ、スピーカーによる音の変化を防ぐことができる
・アンプシミュレーターだけ持ち歩けば良い(スタジオ・ライブハウス備付のPAを使う場合)
・ギターアンプのマイキングが不要
・大規模な会場で大型のPAスピーカーを使う場合には実機のアンプよりも大音量を出せるケースがある
デメリット
・小規模のスタジオ・ライブハウスのスピーカの場合には実機のアンプのような迫力が出ないことがある
・ライブの場合、PAさんに断れることがある
・ボーカルにも嫌われることがある
・ライブ会場で自分のギターの音が聞こえないことがある
アンプシミュレーターは基本的に、ギターアンプから出てくる音を「マイキングした音」(マイクで拾った音)を再現しています。
そして、実際のライブでも、ギターアンプから出てくる音を「マイキング」してPAスピーカー(客席側に向けて大きな音を出すスピーカー)を通して出すことが多い。
そのためアンプシミュレーターの出音をPAスピーカーからそのまま出すという方法は非常に合理的であり、プロのアーティストでも採用しているケースも多いです。
自宅でもアンプシミュレーターをモニタースピーカー( YAMAHA MS101-4など)接続して演奏すると、アンプシミュレーターで作った音をほぼ忠実に再現してくれます。
「これで全て解決だ!」と言いたいところなのですが・・・スタジオやライブハウスに置いてある機器によっては、PAにアンプシミュレーターを接続してスピーカーから音を出してみても「何か迫力が無い・・・」「平面的な音がする」と感じるケースもあると思います。
これはプロがライブなどで使っている機器との性能の違いや、ギターアンプに付いているスピーカーとPAスピーカー自体の特性の違いによるものだと思われます。
ギターアンプのスピーカーは高音域レンジが狭く音が比較的まっすぐに飛んでいくため迫力や音圧感を出しやすいですが、一般的なPAスピーカーはギターに特化したものではなく様々な音を出すためのものなので音が散らばりやすく「上品で整い過ぎた音」に聞こえることが多いです。
またライブで「PAスピーカーに接続する方法」を使う場合、モニター(ステージに置いてあるスピーカー)から自分のギターの音を返してもらうことになりますが、小規模のライブハウスではモニター用の機材が弱いことが多く「自分のギターの音があまり聞こえなくて困る」という事態になることもあります。
実機にアンプから音を出している場合にはアンプから出ている音をモニターすることで解決できますが、「PAスピーカーに接続する方法」の場合にはモニターから十分な音が返ってこないと演奏がしづらくて困ってしまいます。
そのため「PAスピーカーに接続する方法」を採用する場合には、ギターアンプから音を出すという方法を併用したり、後述のFRFRスピーカーを併用して自分の演奏をモニターできるようにするなどの工夫をしたほうが無難です。
最近ではライブハウスで「PAスピーカーに接続する方法」を断れることは少なくなってきましたが、「ギターの音はアンプから出すべき」という凝り固まった考え信念を持っているPAさんの場合には、断れることもあります。
またスタジオでボーカルが使っているのと同じPAスピーカーからギターの音を出すと、ボーカルの声が聞こえにくくなり、嫌な顔をされることも多いので、ライブ前に「PAスピーカーに接続する方法」を使った練習をするハードルも高めで「ぶっつけ本番」「良い音が出せるかは本番のPAさんの腕次第」的な運用になってしまう、というデメリットもあります。
◆FRFRスピーカーに接続する方法
メリット
・プリアンプ、パワーアンプ、スピーカーによる音の変化を防ぐことができアンプシミュレーターの音を忠実に再現しやすい
デメリット
・FRFRスピーカーを持ち歩く必要がある(スタジオ等にはFRFRスピーカーはないことが多い)
・スピーカーによっては実機のアンプのような迫力が出ないことがある
・FRFRスピーカーは高額なものが多く種類も少ない
前記の「アンプに接続する方法」や「PAスピーカーに接続する方法」のデメリットを解消するための方法として一部のメーカーから「FRFRスピーカー」というアンプシミュレーター専用のスピーカーが販売されています。
FRFRスピーカーはアンプシミュレーター用に作られているだけあってアンプシミュレーターの音を忠実に再現することができ、しかもPAスピーカーだけを使うケースと異なり、自分の音が聞こえなくて困るということもありません。
そうすると「FRFRスピーカーがあればアンプシミュレーター問題は全て解決だ!」・・・となりそうなのですが、このFRFRスピーカーにもデメリットがあります。
まずFRFRスピーカーは選択肢が少なく、価格も高くて重い製品が多いです。
「FRFRスピーカーを買うお金があるなら、そのお金で実機の真空管アンプを買って、持ち込めば良いでしょ」
と思う人も少なくないと思います。
また後述のとおり、最近では「アンプシミュレーターとキャビネットが一体になった製品」も増えてきているため、敢えてFRFRスピーカーを使うメリットがどれだけあるかというと、微妙なところだと思います。
さらにFRFRスピーカーはアンプシミュレーター用に作られたものではありますが、ギターアンプではなく、どちらかというとPAスピーカーやモニタースピーカーに近い特性を持っているものが多いという問題点もあります。
そのため実際にFRFRスピーカーをスタジオやライブハウスで使ってみると思ったよりも「迫力が出ないな」「音が前に飛んでいかないな」と感じる人も多いです。
実際のライブで、ギターが2人いるバンド、1人は実機のアンプ、もう1人はアンプシミュレーターとFRFRスピーカーを使っているというケースを見たことがありますが、実機のアンプを使っているギタリストの音は「はっきり」聞こえるのに対し、FRFRスピーカーを使っているギタリストの音は他の楽器の音に埋まってしまって「シャリシャリ」という感じの音にしか聞こえないということがありました。
そのため、個人的にはFRFRスピーカーは使うとしても、自分のモニター用と割り切って使うのが良いのではないかと思っています。
(実際にFRFRスピーカーの中にはモニター(ころがし・返し)と同じような形状をしたものもあります。)
ジャズ系の楽曲など小さい音量で演奏するスタイルの場合や、ライブハウスのPAスピーカーがしっかりしている場合には、FRFRスピーカーを自分のモニター用として使い、もう1系統でミキサーを通してPAスピーカーから外音を出してもらうという方法でも良いと思います。
ちなみに、最近ではKEMPERやIK Multimediaからも本格的なFRFRスピーカーが発表されており、こういったタイプであれば音も良いとは思いますが、価格が高いのでやはり「実機のアンプを買ったほうが良いな」と考えてしまう人も多いと思います。
◆アンプシミュレーター用の入力(POWER AMP IN端子)のあるギターアンプに接続する方法
メリット
・プリアンプ、パワーアンプ、スピーカーによる音の変化を少なくすることができる可能性がある
・PAスピーカーやFRFRスピーカーに比べると音の散らばりが少なくギターアンプらしい音が出せることが多い
・自宅で音を作りこむことができる
デメリット
・アンプシミュレーター用の端子があるアンプを持ち歩く必要がある(スタジオ等のアンプにはアンプシミュレーター用の端子がないことが多い)
・「アンプシミュレーター用の入力端子のあるギターアンプ」には、アンプシミュレーターが内蔵されていることが多いため「わざわざアンプシミュレーターを別に用意する必要がないのでは?」と感じることもある
個人的にFRFRスピーカーを使うよりも無難で楽だと思っている方法が「POWER AMP IN端子」のあるアンプを使う方法です。
最近の販売されているギターアンプの中にはアンプシミュレーターなどを接続するための専用の入力端子(POWER AMP IN端子)が付いているものがあります。
たとえばBOSSのKATANAというギターアンプには「プリアンプ、アンプ・シミュレーター、マルチ・エフェクターとの接続に最適化されたPOWER AMP IN端子」が付いています。
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Line 6 の「CATALYST CX」の場合には、リターン端子の隣にあるスイッチを「POWER AMP IN」に切り替えると、リターン端子を「パワーアンプイン端子」として使うことができるようになっています。
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またVOXの「VX50GTV」などのギターアンプにはアンプモデルの中に「LINE」という選択肢があって、アンプシミュレーターやキーボードなどの音に余計な色付けをしないで出力できるようになっています。
(ただし「VX50GTV」の「LINE」は結構クセがあるので、後述のとおりアンプシミュレーターを接続する場合でも「CLEAN」チャンネルを使ったほうが良い場合もあります。)
このように「POWER AMP IN端子」を使うことで、アンプシミュレーターで作った音に近い音色を再現することができます。
「KATANA」の50Wや「CATALYST CX」の60Wの機種であればであれば重さは10kg~11kg程度なので、実機のアンプやFRFRスピーカーよりも軽く、持ち運びも楽です。
VOXの「VX50GTV」は重さが4kg程度しかなく小さいサイズなので電車やバイクでも持ち運ぶことができます。
キャビネットシミュレーターの設定
「POWER AMP IN端子」を使う場合、ギターアンプをキャビネットとして使うためアンプシミュレーターでキャビネットシミュレーター(IRローダー)の部分はオフにしておいたほうが自然なサウンドになると言われています。
しかし、アンプシミュレーターとの相性によってはキャビネットシミュレーターをオンにしたほうが迫力があってヌケが良い音になることもあるので、どちらも試した上で良い方を選択することをお薦めします。
BOSSのマルチエフェクター(アンプシミュレーター)を使う場合には、「KATANA」シリーズ用の出力設定を選べるようになっているので、その機能を使うと楽です。
LINE6のマルチエフェクター(Helix、HX Stomp、Podなど)を使う場合には、海外の方が
① POWER AMP IN端子 + キャビネットシミュレーター(IR)オン
② POWER AMP IN端子 + キャビネットシミュレーター(IR)オフ
③ インプット端子 + キャビネットシミュレーター(IR)オン
④ インプット端子 + キャビネットシミュレーター(IR)オフ
の4種類について、実験をしている動画があるので、こちらが参考になると思いますが、基本的にLINE6のアンプシミュレーターは「オン」にしておいたほうが良い結果が得られるケースが多いと思います。
PAスピーカー・FRFRスピーカーとの違い
「POWER AMP IN端子機能のあるアンプ」と「PAスピーカーやFRFRスピーカーと何が違うのか?」と思った方もいると思いますが、「アンプシミュレーター用の入力のあるギターアンプ」はあくまでもギターアンプなので、キャビの中に入っているスピーカーもギターアンプ用のスピーカーが使われていることが多いです。
そのため、PAスピーカーやFRFRスピーカーに比べると音が前に飛びやすく、「ギターアンプらしい音」を出してくれるので、扱いやすいです。
またPAスピーカーやFRFRスピーカーは高額だったり、大きくて重いものが多いですが、「アンプシミュレーター用の入力のあるギターアンプ」は出力50W程度のものであれば3万円弱(BOSSのKATANA-50 MkIIやVOXのVX50GTVなど)で買うことができ、前記のとおり軽くて持ち運びも楽だったりします。
「POWER AMP IN機能」のメリット(自宅で音を作りこむことができる)
この「POWER AMP IN機能」はプリアンプ部分をバイパスしているという点で、前記の「リターン挿し」と同じような方法です。
そうすると、わざわざ自前のアンプを持ち歩かなくても、スタジオ・ライブハウスにあるアンプで「リターン挿し」をすれば良いようにも思います。
しかし、前記のように「リターン挿し」をする場合、アンプのキャビネットやスピーカーの特性によって音が変わってしまうため、スタジオ・ライブハウスに行った後に音作りで右往左往して頭を抱える、ということがあります。
他方で自前のアンプの場合には、自宅でじっくりと音作りをすることが出来るので、スタジオ・ライブハウスに行った後に悩むことは少なくなります。
ただし、自宅で小さい音量で鳴らしたサウンドと、スタジオやライブで大音量で鳴らしたサウンドは、周波数特性や歪み率が変わることも多いので、自宅で音作りをした場合であっても、スタジオやライブハウスで微調整をする必要が出てくることも良くあります。
「POWER AMP IN機能」のライブでの運用方法
前記のBOSS「KATANA」に搭載されている「POWER AMP IN機能」は
「プリアンプ、アンプ・シミュレーター、マルチ・エフェクターとの接続に最適化」
との説明があります。
しかし「アンプシミュレーターなどからPAスピーカーに出力した音」と、上記の「POWER AMP IN端子を通した音」は、結構違います。
なぜなら、接続するアンプのキャビネットやスピーカーの「クセ」が、どうしても反映されてしまうからです。
そのため、ライブの場合には、
(ア)アンプシミュレーターのメインアウトをPAに直で送ってPAスピーカーから外音として出してもらう(マイキングはしない)
(イ)アンプシミュレーターのサブアウトを「アンプシミュレーター用の入力のあるギターアンプ」に繋いで「自分のモニター用」+「迫力・音圧・立体感を作る」ために使う
という方法でも良いと思います。
前記のとおり「GT-1000」や「GT-1000core」など、BOSSのマルチエフェクターに内蔵されているアンプシミュレーターを使う場合には、「アウトプットセレクト」の機能でKATANAシリーズの「POWER AMP IN」を選択することで、「アンプシミュレーターをPAスピーカーに出力した音」と「POWER AMP IN端子を通した音」の音色を近づけることができます。
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ただ、この「アウトプットセレクト」の機能はお手軽で便利であるものの、アンプ側で細かい音質調整が出来ない、というデメリットがあります。
細かい音質調整は、マルチエフェクターのグローバルEQでも出来るのですが、ライブの直前のリハでマルチエフェクターの小さい画面でグローバルEQを細かく調整するのは苦痛です。
そのため、私は「GT-1000core」の「アウトプットセレクト」で、「KATANA INPUT」を選択し、エフェクターの出力をアンプのインプット端子に接続する方法で使うこともあります。
この方法だとアンプ本体のEQ(HIGH,MID,TREBLE)のツマミを回す方法で素早く音質調整ができますし、アンプにスマホアプリで接続することでアンプから離れた位置でも細かい音質調整をすることもできるので、便利です。
なお、アンプシミュレーターを使うとライブでは高音域が出過ぎる傾向があるのに対し、実機のアンプのスピーカーは高域はあまり出ない設計になっていることが多く高域をカットしたほうが実機のサウンドに近くなるため、私はスマホアプリを通して5.0khz~6.0khz周辺から高域をカットすることが多いです。
「POWER AMP IN機能」のデメリット(アンプを持ち歩く必要がある)
この「アンプシミュレーター用の入力のあるギターアンプ」を使う方法のデメリットとしては、アンプシミュレーター用の端子があるアンプを持ち歩く必要があることです。
前記のとおり、スタジオ・ライブハウスに置いてある「リターン挿し」でも(事前の音質調整が面倒というデメリットはあるものの)似たようなことはできます。
そのため、アンプを持ち運ぶのが面倒になってきて「スタジオやライブハウスにあるアンプにリターン挿ししたほうが楽だな・・・」と思う人もいると思います。
そもそもアンプ自体にアンプシミュレーターが内蔵されている
また、そもそも「POWER AMP IN機能の付いたアンプ」には既にアンプシミュレーターが内蔵されていることが多いです。
先ほどのKATANA、CATALYST、VX50GTVなどのアンプには数種類のアンプモデリングが搭載されているので、別途フロアタイプのアンプシミュレーター(Helix、GT-1000、AMPEROなど)を用意しなくても、ギターを直接KATANAやVX50GTVに繋げば様々なアンプがモデリングされたシミュレーターの音が簡単に出せるんですよね。
そうすると「フットスイッチを使いながら、持ち込んだアンプから音を出せばそれで十分」と考えるようになってきて、結局フロアタイプのアンプシミュレーターはいらない、という結論になる人もいると思います。
(ただ、KATANAやVX50GTVだけでは、作ったプリセットを保存できる数が少ないため、複数のプリセットを使い分けたい場合には、別途アンプシミュレーターやエフェクターを用意するメリットがあります。)
「POWER AMP IN端子」が搭載されている場合であってもインプットから入力したほうが良いケースもある
「POWER AMP IN端子」は、接続「元」のアンプシミュレーターのサウンドを素直に再現できる機能・・・であるはずなのですが、やはり接続「先」のアンプのパワーアンプ、キャビネット、スピーカーなどの特性が反映されるため、音はどうしても変化してしまいます。
KATANAアンプの「POWER AMP IN端子」に接続した場合、アンプ側のイコライザーは効かなくなってしまうため、アンプ側で細かい周波数特性の調整ができなくなります。
そのため、「POWER AMP IN端子」を使わずに「インプット端子」に接続することを前提に、以下のような運用をしたほうが使いやすいことも多いです。
① エフェクターのエフェクターの「キャビネット」をオフにする
BOSSのマルチエフェクターの場合にはアウトプットセレクトを「RECORDING」にした上で、各パッチの設定でキャビネットをオフにできます。
細かい設定の方法は「shu | ぽぽ」さんという元BOSSの人が解説されているのが分かりやすいと思います。
各パッチのメインアウトではキャビネットを「オン」にしておき、
にした上で、メインアウトはPA卓に送り、サブアウトは自前のアンプに接続する、というようにすると楽です。
② マルチエフェクターのKATANAアンプの「インプット端子」に接続する
サブアウトの出力が大きすぎると歪んでしまうので「20」くらいにしておきます。
③ アンプ側のアンプモデルを「CLEAN」にする
アンプ側のアンプモデルを「CLEAN」にした上で、ゲインやイコライザーは取りあえず12時方向にしておきます。
④ 実際に音を出してみてイコライザーで調整する
「インプット端子」に接続した場合、アンプ側のイコライザーで細かい調整ができます。
アンプ本体の「BASS」「MID」「TREBLE」を調整することで大まかな調整ができますが、それでも違和感が残る場合があります。
KATANAアンプの場合、アンプをPCやスマホに接続することで、さらに細かいイコライザーの調整ができるようになります。
KATANAのMKⅡまではデフォルトではスマホ接続に対応していませんが、「Katana Librarian」というアプリを使うとスマホとKATANAアンプを接続できるようになります。
前記のとおり、ハイがキツいことが多いので、5.0khz~6.3khzあたりからハイカットを入れてあげると耳に痛い成分が抑えられると思います。
ちなみにVOXの「VX50GTV」も、私が試した範囲ではチャンネルを「LINE」で使うよりも、チャンネルを「DELUX CLEAN」にして、エフェクター側のキャビネットをオフにして使ったほうが自然な印象でした。
◆ギターアンプのAUX端子に接続する方法
ギターアンプによっては、スマホなどを接続して音楽を再生するための「AUX端子」が用意されている機種があります。
本来はギターの音を入力するための端子ではありませんが、redditという海外の掲示板サイトで「POWER AMP IN端子ではなくAUX端子から入力するとFRFRスピーカーのようなサウンドに近くなる」という書き込みがありました。
「それは邪道だろ・・・」と思いつつ試してみたところ、キャビネットシミュレーター(IR)を「オン」にした状態で接続する場合には、インプット端子ではなくAUX端子に接続すると、確かにPAスピーカーなどから出力した時に近いサウンドになりました。
Line 6 の「POD Express Guitar」という小型のマルチエフェクターを実機のアンプに接続すると、どう設定を変えても不自然なサウンドになってしまい困ることがあったのですが、(インプット端子ではなく)AUX端子に接続したほうが良い結果が得られました。
ただ、POWER AMP IN端子やリターン端子に接続した時のサウンドと、AUX端子に接続した時のサウンドはあまり変わらないような印象を受けたので、POWER AMP IN端子やリターン端子があるアンプの場合には、敢えてAUX端子に接続する必要性は高くないようのも思われます。
AUX端子に接続する場合の問題点としては
・メーカーが想定していないと思われる方法なので基本的に自己責任
・アンプシミュレーター(マルチエフェクター)の出力をAUX端子に接続する場合に、変換ケーブルなどが必要になる
・AUX端子のないアンプでは、この方法は使えない
・AUX端子はミニプラグなのでステージ上でケーブルにつまずいたりした時にはAUX端子を壊してしまうことがあるかも
などがあります。
アンプシミュレーター(マルチエフェクター)の出力は6.3mmのモノラルのフォン端子になっていることが多いのに対し、AUX端子は3.5mmのステレオミニプラグであることが多いので、普通のギターシールドだけでは接続できません。
そのため、基本的に↓のようなYケーブルで接続することになるのですが、このタイプのケーブルは定評のあるメーカーからが作っていないことが多いです。
6.3mmメス→3.5mmオスの変換プラグを使っても音を出すことができましたが、この場合はステレオの6.35mmメス側の端子に、モノラルのギターシールドを接続することになるので、精神衛生的にあまり良くありません。
また、基本的にAUX端子はミニプラグなので6.3mmのフォン端子とよりも耐久面で心配があります。
ライブでは暗いステージ上でケーブルにつまずいてしまうという事故は良くありますが、ケーブルが引っ張られることでAUX端子が壊れてしまうという事故が起こる可能性はあると思います。
(ケーブルにつまづいてヘッドアンプを落としてしまう人もいるので、AUX端子を使う場合に限らず、ケーブルには気をつける必要はありますが。。。)
◆アンプシミュレーターとキャビネットが一体になったアンプを使う方法
最近はアンプシミュレーターとキャビネットが一体になった製品が数多く販売されています。
前述のKATANAシリーズもそうですが、他社でも「アンプシミュレーターとキャビネットが一体になった製品」のラインナップが増えてきています。
たとえば、FENDERの「Tone Master」は、モデリングアンプであるにもかかわらず、真空管を使ったアンプとほぼ同じような音が再現されており、価格でも重要の点でも、真空管アンプよりも「安い」「軽い」という利点があります。
「アンプシミュレーターとキャビネットが一体になった製品」の最大のメリットとしては、メーカー側で「プリアンプ部分のシミュレーター」と「キャビネット・スピーカーの部分」の相性を設計の段階から吟味した上で組み合わせられているため、「アンプシミュレーターとキャビネットの相性が悪くて音が変になる」という問題が発生しないという点です。
他方で「アンプシミュレーターとキャビネットが一体になった製品」は、出せるサウンドの範囲が限られていることが多い、というデメリットもあります。
例えば「Tone Master」シリーズの場合「Deluxe Reverb」のモデルでれば当然「Deluxe Reverb」のサウンドしか出ません。
KATANAシリーズの場合には複数のサウンドが収録されていますが、「KATANA」という名前のとおり、歪み系は高域に特徴のあるサウンドが多いため、好き嫌いが分かれるアンプだと思います。
クリーンサウンドであれば、KATANAシリーズよりも、前記のTone Masterや、Blues Cubeのほうが評価が高かったりします。
このように「アンプシミュレーターとキャビネットが一体になった製品」ののデメリットとしては「どのジャンルもカバーできる」という万能型のアンプは少ないという点にあます。
様々なアンプの音色を出したいという場合にはアンプシミュレーターのほうがやはり便利だったりします。
◆アンプシミュレーターをオフにしてエフェクター機能だけを使う方法
メリット
・「アンプシミュレーターをどうやって鳴らすか」という悩みから解放される
デメリット
・「アンプシミュレーターをどうやって鳴らすか」という問題の根本的な解決にはなっていない
・アンプシミュレーター持っているのに使わないのはもったいない
「アンプシミュレーターをスタジオやライブハウスで鳴らす方法」というタイトルには反する解決法ですが、アンプシミュレーターで試行錯誤をしながら色々試していると
「こんなに面倒な作業をするくらいなら、現場に置いてある実機のアンプを使ったほうが楽でしょ!」
という結論にたどり着くギタリストも多いと思います。
自宅ではアンプシミュレーターを使っているけど、スタジオやライブではボードを組んでるタイプのギタリストも多いですよね。
多くのスタジオやライブハウスにはJC-120や、マーシャルのJCM2000、フェンダーのTWIN REVERBなど、アンプシミュレーターでモデリングされているようなメジャーなアンプが2台程度は置いてあることが多いと思います。
そうするとスタジオやライブでアンプシミュレーターをどうやって使うかで試行錯誤するよりも、現場にあるアンプで音作りしてしまったほうが早いし悩みも少ない、というケースも多いと思います。
Helix、GT-1000、AMPEROなどのマルチエフェクターには、アンプシミュレーターとエフェクターが一緒に搭載されていますので、マルチエフェクターのアンプシミュレーターをオフにして、エフェクター部分(歪みペダル、空間系、モジュレーションなど)だけを使ったほうが音の抜けが良くなったりすることも良くあります。
私も音作りが面倒になった時や、機材を持ち運ぶのが面倒になった時には、SD-1やBD-2Wなどのコンパクトエフェクターを少しだけ持って行って、スタジオにおいてあるマーシャルで音を鳴らしたりすることもありますが、
「やっぱり実機のアンプの音は良いな・・・」
と、しみじみ感じることもあります。
また、JB-2(Angry Driver)のような「1台で2種類の歪みを使える」系のコンパクトエフェクターや、MS-50G+のように「1台で複数のエフェクトを同時使用できる」コンパクトサイズのマルチエフェクターがあれば、曲によってはエフェクター1台をギグバックのポケットに入れて持っていくだけで何とかなることもあり、考えることが少なくなって楽なので、アンプシミュレーターでの音作りに疲れ果てて何もかも面倒になってしまったギタリストにはおすすめです。
「アンプシミュレーターをスタジオやライブハウスで鳴らす方法」というタイトルには反してしまいますが、スタジオやライブでアンプシミュレーターで良い音が作れないという場合には、逆転の発想でアンプシミュレーターを使わないという選択肢も残しておくと問題解決の幅も広がると思います。
◆まとめ
以上「アンプシミュレーターをスタジオやライブハウスで鳴らす方法」を網羅的に見てきましたが、いずれの方法にもメリット・デメリットがあるため「どの方法がベストだ」とは言い切れないというのが現状だと思います。
そのため様々な方法を試してみた上で、ライブの形式、会場の広さ、モニター環境などを考慮しながら、それぞれの方法を現場で使い分けられるようにしておくのが良いと思っています。