多発消失性白点症候群(MEWDS:ミューズ)という病気
水玉の世界
「水玉」
というか厳密にいうと歪んだ円に近いもの。
トップの画像は当時私がスマホで再現したもの。
墨汁を和紙の上に落とし四方八方へ不規則ににじんでいくあの感じ。
眩しいカメラのフラッシュを浴びて一瞬目を閉じた時にまぶたの裏に見える黒い影と光の残像。
ある金曜日
そんな歪んだ点や妙な残像が私の右目の視界に現れたのは2018年2月のある金曜日だった。
なんだかいつもと違うことに気づく。
片目ずつ見てみる。
右目がおかしい。
見ようとする先に黒い歪んだ点?というか影?が点在している。
見たいところを見事に邪魔して対象物を隠す影。
飛蚊症のそれとは比べ物にならないくらい煩わしい。
これはいつからあるんだろう?
今日突然現れたものなのかなんなのか、前からあるものなのか、見えるのが当たり前の毎日を過ごしていた私には全くわからなかった。
土曜日
昨日気づいた黒い点?影?が増えているような気がした。
見ようとするところにちょうどいいほど邪魔してくるため
携帯のメールの文字が見えずついつい片目になる。
どいてほしい。こわい。
そんな思いのまま週末を過ごした。
日曜日
黒い点と点が広がり繋がってきている。
ますます見えない。
光が暗く感じる。
こわい。
太陽の光で真っ白に透き通るはずのカーテンのレースが黄土色に見える。
左目では晴天なのに右目でみると黄砂にまみれた砂漠のようだった。
砂漠の中に黒点がいっぱい。
左と右とでは見える世界が天国と地獄ほどの差がある。
右目が全然使いものにならない。
これはいよいよやばそうだ。
雨の月曜日
また昨日より見えなくなっている。
暗い。こわい。
黒点が右目の視野いっぱいに広がっている。
不気味な緊張感のなかまだ薄暗い早朝に眼科へ車を走らせた。
暗い右目の視界に広がる無数の黒点にフロントガラスにボタボタ落ちてくる雨の模様とワイパーの動きが加わり気分が悪くなりそうだった。
それでも受付を早く、少しでも早く、自分の目に何が起こっているのか知りたかった。
治るのか否か、それだけでいいから知りたかった。
眼科受診
検査と診察を終え先生はなんとも歯切れの悪い調子で言った。
「網膜に病気があります。
うちでは診れませんので大学病院に紹介状を書くので
早めに受診して下さい。
治療は長くかかると思いますのでそのつもりでいて下さい。」
え?
どういうこと?
そんなに悪いの???
長くって?!
いつまで?
何ヶ月?
何年?
治るの?!
こわい!!!!
聞きたいことが心の中で山ほど溢れ出しているのに
不安が増幅し頭が真っ白になり私は黙って聞くことしかできなかった。
外からわからないつらさ
私の片目が見えなくても体は元気だ。
外見からは全くわからない。
日常は淡々とルーティーン通り動き
子供達が帰宅し
お風呂に入り
ご飯を食べさせて
いつも通りの時間が過ぎて行く。
しかし四六時中私の目の前に張り付いて
離れることも忘れることもできないこの暗闇。
夜中に眠りから覚めて時間を確かめる時計の見づらさで
また思い出す。
夢であって欲しいと思っても
私の右目は目を覚ますたびに悪くなっていった。
末っ子の涙
大学病院に行く前の晩
夜更かしの末っ子(当時3歳)を寝かしつけながら
私「お母さんの目ぇ良くなるかなぁ・・・」
と私はこども相手に弱音を吐いた。
子「大丈夫だよ!治るよ!」
私「そっかぁでも毎日少しづつ見えなくなってるんだぁ・・・
大丈夫かな・・
お母さんさぁ、お姉ちゃんもお兄ちゃんも末っ子も、
みんなが大きくなっていくの両目で見たいなぁ
目が完全に見えなくなったら
目が動かなくなっちゃうこともあるらしいよ
お母さん顔も変わっちゃうかもしれない・・・」
宗「大丈夫!だって治るもん!」
私「お母さん幼稚園の劇も運動会も両目で見たいよ・・・・・・」
泣き出す私を前に
「大丈夫だよ!
泣かないでよぉ!
お母さんの目は絶対治るんだよぉぉ!!」
と末っ子は一緒に泣いてくれた。
そしてそれから毎日私がぼーっとしていると
何かを察知したかのように
「お母さんの目は治るんだよ!」
と何度も何度も励ましてくれた。
いざ大学病院へ
翌日私はまだ朝も暗いうちに保険証と紹介状と昨夜溢れ出した不安をカバンに詰めて大学病院へ向かった。
1日がかりで検査を終え最後に医師から伝えられたことは
「多発消失性白点症候群
(multiple evanescent white dot syndrome:MEWDS:ミューズ)
という原因不明の珍しい病気」
「数週間から数カ月で自然治癒する」
「比較的若い女性に多く見られる」(わいアラフォーやぞ)
ということ。
え?!なになにマジ?!
自然治癒するの!
治るの!
なんだ余裕じゃん!
治るんじゃん!よかった〜
あ〜マジ良かった〜!
も〜よかった〜!
はー義眼とか失明とかネットで調べまくってた日々を返せってんだこのー
よかった〜
と内心小躍りしたい気持ちを抑えつつ医師の顔をよく見える左目でじっと見つめ病状の説明を最後まで聞いた。
発症する前に風邪をひいたり発熱があったりすることが多いらしく
医師からも最近熱を出さなかったかと聞かれたが
私はそれに当てはまらなかった。
ステロイドを処方されたが
「まぁ飲まなくても治るけど」
という医師の言葉を聞いて結局薬は飲まなかった。
不便な生活
治る病気とわかって安心はしたものの
急に治るわけでもなくやはりしばらくは運転は怖いし包丁は使いにくいし、字を書くのもペン先がよく見えないし、見えない右目側に人がいると話しづらいし、なんだか気持ち悪くなるしと不便な生活が続いたが
「いつか必ず治る」
と言う確信を手に入れた私の心から不安は完全に払拭されていた。
そして治癒
日々悪化する恐怖を経て、ピークに見えない日を境に症状は少しづつ和らいでいった。
そして約二ヶ月ほどで
「あれなんだったの?なんの罰ゲームだったの?」
と思うくらい完全に元に戻ったのだった。
最後のひとつ
当たり前だが目はふたつしかないのだ。
あのじわじわと右目が見えなくなっていく感覚のなか思ったのは
「左目のラスイチ感半端ない!!!」(語彙力)
だった。
情報の少なさ
この病気になった時、誰もがそうするであろう鬼のググりをしたが
めずらしい病気というだけあって情報や経験談が少なかった。
やはり自分の身に今なにが起こっているのかわからない不安というのは
真っ暗闇にひとりで放り出されたような気持ちになる。
眼帯をするわけでもなく、寝込むわけでもなく、外からはわからない分、
自分が心身ともにつらい状況にあってもいつも通り振舞わなければならないような気がしてとても心が疲弊する病気だった。
私がここにこれを綴ったのも
この病気に罹ってしまったたった1人でもかまわないので
見えない目で生活し、すり減っていく心と戦うどこかの誰かの励みや道しるべになるような記録になったらいいな
という願いからである。
その時はつらくても、それをいつかすっかり忘れて
あの時、今後は絶対やめよう!と、目を大切にしよう!と、
あれほど心に誓ったのに!また夜中にスマホで長々と漫画とか読んじゃう日がおとずれた私の闘病記でした。
末っ子のいうことは正しかった!
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