<おでかけクリエイティブナイト> 第5回「空間と時間軸から視る絨毯とデザイン」
第一線で活躍しているクリエイターをゲストに迎え、クリエイティブのヒントを探るトークセミナーシリーズ「CREATORS FILE」。
「リーガロイヤルホテル大阪」のリニューアル
西澤:日本屈指の手織りじゅうたんブランド「山形緞通」初となる単独展示会「山形緞通展」の特別プログラムとして、「おでかけクリエイティブナイト」を開催することになりました。今日は空間をテーマにしたいなと思っていたところ、山形緞通とトラフのコラボレーションという大型の企画が持ち上がりました。まずは鈴野さんに「リーガロイヤルホテル大阪」との仕事の経緯を語っていただきましょう。
鈴野:1965年開業の「リーガロイヤルホテル大阪」は大阪を代表する老舗で、73年の改装は日本を代表する建築家・吉田五十八さんが手掛けられました。以降、リニューアルの話は何回かあったらしいのですが、G20で各国要人が宿泊される、というタイミングで急遽改修が決まりました。2019年の年始に依頼をいただいて、6月がG20でしたから……。
西澤:そんなに急な仕事だったのですね。
鈴野:本来ここは、奥につながるラウンジに滝が流れる、素晴らしい空間なのです。もともと今回のリニューアル後に近い形式だったのですが、改装前にはこうなってしまっていて……。
西澤:何回か改装しているうちに、デザインが乱れてしまったのでしょうか。
鈴野:そうですね。柱の金の蒔絵が特徴的で、照明が横から当たり、天井に和紙が入っています。最近ではカーペットも汚れてしまい、暗い印象でした。「当初の形式をリスペクトしながら、元の形に戻したい」という思いが僕らの中では強くありました。時間という存在は変える類のものではないので、ここにあった歴史をそのまま取り戻す提案ができるといいなと考えたんです。
西澤:なるほど。
鈴野:他のホテルでは真似できない、当時だからこそ実現できたことがたくさんあります。元に戻しながら、現代的にリデザインする。これが大切です。「全く同じ状態に戻してほしい」といった要望をはじめ、さまざまな意見がある中で考えた結果、カーペットは当時の状態から少しだけ変更することにしました。色をほんの少しだけ変え、「万葉の錦」という葉の模様を2倍のサイズに変更したのです。
西澤:なぜ2倍にしようと考えたのですか。
鈴野:まずは、柱の模様を引き立たせたいと考えました。照明を入れて柱を照らしていますが、燃え上がるような金の蒔絵なので、カーペットの模様が小さいと互いにケンカしてしまうのです。模様を大きくすることで絵のような図柄にして、葉の上を歩きたくなるような……。子どもがぴょんぴょんと跳ねたくなるようなデザインにしました。「柄」と言ってしまうと、「ああ、模様ね」という考えを持たれるかもしれませんが、一つひとつを浮き上がらせるような仕掛けができないかと考えたのです。
西澤:同じ対象でも、比率を変えるだけで意味が変わる、ということですね。
鈴野:そうですね。当時の図面はなかったので、写真から分析してひし形の格子をつくっていきました。これが検討している様子です。
鈴野:サンプルがあるので、色合わせをしていきながら……。6本の柱が間に入っていて、そこも考慮しながら柄を決めていきました。当時のカーペットが一部ひかれたまま残っていたので、そこにも合わせながら、ベースの色を少しずつ鮮やかにしていきました。
西澤:当時のものが残っていたのですか。
鈴野:もったいないという理由から、一部残っていたのです。当時のものが残っていれば、今と比較できてそれもおもしろいかなと思ったのですが、結果的には残さない判断になりました。その新しいカーペットを、山形緞通さんに作っていただいています。
山形緞通さんの工場にも行って、制作中の様子を何回か拝見させてもらいました。
西澤:職人さんの技術がすごいですよね!
鈴野:女性の職人さんや、木造の建物もかっこいいですよね。「リーガロイヤルホテル大阪」の社長にも、工場を訪問していただきました。見てもらうとすごくわかるので。
西澤:山形緞通の工場には、ぜひ行ったほうが良いですね。僕は仕事でいろんな会社の工場を見学していますが、断トツでナンバー1です。ものづくりはもちろん、空気を含めてすべてが素晴らしい。職人さんは、全員女性なのですよね。
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