母の記
朝陽差し
まどろみのなか
母探す
ああ かあちゃんは畑しごとだ
ただいまと
頭撫でたる母の笑み
ぬくき掌(たなごころ)今も憶えぬ
ー5歳の私、田舎にて。ー
おかあちゃん
呼んでも今は返らない
それでも呼びぬ「おかあちゃん」って
まぶた閉じ
山川清きふるさとの
小川でせりを摘む母をみゆ
ー夕暮れにー
ひとものを
忘れていくも
母の優しさだけは奪わなかった
ー神様 ありがとうー
おさなごに
なって零したあなたの涙かな
あの時ぎゅっと抱きしめてたら
ーごめんねー
早迎え
デイサービスに まあるくて
花みたいな母の笑顔よ
ー姉が仕事の都合で早くいくと ほんとに
嬉し気に笑って 出てきた。保育園の母を待つこのようだったと
姉の言う。ー
かあちゃんは
かあちゃんのまま そこに在る
脆(もろ)くて強ひ
遺愛を抱きぬ
歳の暮れ
母を真似て大根炊きぬ
45年 よく頑張ったと
褒めてくれてる
ー大根炊き始め、おせち作りは
母の姿の教えだったー
あの時は
なに言いたくて
見上げたの?
土手歩きつつ 空に問うてる
ー手をつなぎ 土手を歩きながら 立ち止まって私を見上げた
あの時 なにをいいたかったのと 今も聴きたいー
秋風が
吹いてひつじの
雲浮かび
母と見たあの夕空想ふ
灯点(とも)りて
町がひと恋うる頃
夕映えに立つ母を想ひぬ
家族の為だけに生きた母
帰宅の遅い父を待ち 娘三人と肩寄せて
夜のひととき 伽話を聴かせ 娘に着せる
セーターを 夜なべで編んだ
私とは 歳の離れた姉の元へ 米を担いで町まで届けた
修学旅行の帰りのバス停 日焼けした母の満面の笑みよ
バスステップを下りながら 当たり前のように見てたけど
両手を広げ 迎えてくれたあなたを忘れない
孫を育て家族を支えた
花を愛し 友を愛した
なにか 相談すると いつも「心配せんでもええで」と慰めてくれた。
晩年
そんなあなたが 罹った病
迷子のように幼子のように立ちすくみ
涙を零し不安に怯えた
病んで10年
消せないプライドに苦しみ 怒ったこともあった
泣きながら 子を想うやさしさが
あなただった
最後まで残ったね
忘れていくあなたのなかに
母のやさしさを探し見続けた、三人の娘は
あなたの「終の棲家で死ぬ」願いの為に寄り添った
なにより あなたと生きていたかった。
冬のある夕方.夕焼けの日が入る暮らし慣れた
あの部屋で 帰らぬ旅にでたね。
母の記
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