久しぶりに図書館で本を借りた話
車を5分ほど走らせると、その図書館はある。
大通りに面していて、比較的大きな郵便局の向かいにあるそれは特段規模が大きいわけではない図書館の分館という。
駐車場に入ると夏休みだというのに車が1台も停まっていないことに驚いた。
今日は閉館の日だったかなと不安に駆られる。
市民センターを併設しているその建物は2階が図書館で、外からその様子は見えない構造になっている。
とりあえず入口に足を踏み入れると自動ドアが開いて、ふわっと涼しい風と外の暑い風があわさった。
特に図書館閉館のお知らせはない。
そろそろ7ヶ月に入る妊婦に階段は危険なのでエレベーターに乗り込む。
エレベーターには次の閉館が31日であることが書かれていて、今日は開いていることがわかった。
2階に上がると、反対側の扉が開き、廊下の突き当たりに図書館があった。
自動ドアが開いた瞬間は、やはり冷蔵庫を開けた時のようにその涼しさに感動する。
受付に1人。壁側に頭を傾けていて、一瞬寝ているかと思った。
こんにちはーと挨拶され、小さくか細い声でこんにちはーと返す。
図書館では静かに、が基本だが挨拶は普通で良いのか迷う。
図書机には数名の学生らしき人が勉強をしているようだ。
車は無かったが、子連れのお母さんらしき人もいて、それなりに需要はあるんだと失礼なことを考えながら本を探し始めた。
私が好んで読むのはファンタジーや冒険物の児童文学がほとんど。
例えば「モモ」や「はてしない物語」など。
小学生向けの児童文学が織り交ざった棚から探し出すのは結構大変だ。
以前住んでいた街の図書館には図書司書推薦のコーナーに堂々と私向けの本が並んでいたので手に取りやすかったなぁと思いつつ、気になる本を手に取ってはパラパラとページをめくり、文字の大きさが大きいほどすぐに棚に戻す作業を繰り返した。
地味にめんどくさい。明らかにそういった類の本だと分かればいいが、見つかったとしても基本読んだことのある本だったりする。
どれほど時間が経ったのかお腹も張ってしまい、休憩することにした。
なかなか読みたいと思うような、これといった本が見当たらない。
小学生向けの本はひらがなが多くて読みづらいし、文字がやたらと大きくて逆に目が疲れるし、読む気になれない。
さて、どうしたものか。
気分転換に小説コーナーに行ってみることにした。
芥川賞や直木賞など受賞したであろう名だたる作家がずらりと並ぶ。
ミステリーやサスペンス、ホラー……嫌いじゃないけど今日は気分じゃない。
ふと、村山由佳の文字が目に入る。
高校生の時、村山由佳先生の本に出会い、読みふけったことを思い出す。
大学の入試面接で、趣味は読書ですと答えた私におすすめの著者を聞いてくれた面接官に迷うことなく答えたなぁなんて懐かしみつつ、本の背表紙を目で追っていく。
ひときわ目立つ字体で書かれた「星屑」の二文字に目を奪われるまで時間はかからなかった。
読んだことの無い本だけど、なぜか惹かれる。
手に取って冒頭を読んでみれば、村山由佳先生の読みやすい文章に興味深い言葉の羅列。
これだ!と思う。
児童文学でもなければファンタジーでもない小説なのに私の心は高鳴っていた。
その本と共に帰宅した私は、その日中に読破したのだった。