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ごめんね……

 私は、九州の田舎から大学入学を機に、上京した。高校三年間はとても充実していたように思う。高校を卒業した日、確実に私には友達と呼べる人がたくさんいた。

 東京に出た私は、新聞奨学生になった。午前2時半には起きて、新聞配達の準備をする。大学が始まると寝不足がピークに達した。

 そんな時、高校で友達になったマリちゃんとコウジが付き合っているという情報が入ってきた。へぇー!以外!!と思いつつ内心応援していた。

 ある日、後輩のアヤから携帯に連絡があった。相談したいことがある、と。なんだろうと思いながら、夕刊配達を終えて、明日の配達準備をして、9時ごろ寝床についた。それから連絡を取ってみた。電話だった。内容は恋愛相談だった。

 恋愛相談の内容は私が首を突っ込んじゃいけない部類だったんだと今は思う。けど、当時の私は、可愛い後輩が困っているから相談に乗らなきゃと必死になっていた。だから、とにかく話を聞いた。

 内容は、マリとコウジが付き合っている。けど、私はコウジの元カノで、今でもよく会ったりしている。マリとは別れてほしいと思っている。どうにかできないか、とのこと。よくよく聞けば、まだコウジとつながっていて体の関係も持っているとのこと。

  私は、マリちゃんのことが心配になった。アヤはマリちゃんに別れてって伝えてほしいと言われた。無理だよと断ったが、しつこく食い下がってきた。私はとりあえず、マリちゃんに連絡を取ろうと思った。

  後輩との電話はなかなか終わらなかった。午前1時半を過ぎ、2時になり、「もうすぐ配達の時間だから」と言うと、「明日も電話するね。どうなったか教えて」と言われ、時間も時間だったので、「分かったよ。ちゃんと連絡する」と伝えてやっと電話を切ることができた。全く寝れていない。

 まだ新聞配達にも慣れていない私は、たびたび襲いかかる強い眠気を振り払い、自転車をフラフラさせながら、朝刊を配った。都会の新聞は部数が多く、私の配達区は380部近くをひとりで配る配分になっていた。

 慣れない配達を終えて販売店兼寮に戻ったのは午前7時半ごろだった。かなり遅い。配達が遅いと販売店の主任や店長に怒られ、朝食も食べずに大学へ行く準備をして講義を受けた。耳に入らない。眠い。

 一日の講義を終えると夕刊配達のため、販売店へ戻る。午後三時には配達の準備を終えて、新聞到着まで待機する。

 その日、夕刊の配達が終わったのは午後六時を回っていた。遅すぎる。夕刊の配達でそんなに時間がかかるとなると大問題だった。私は、まだ配達経路をすべて把握しきれてなく、順路帳を見ながら配達していた。翌日の配達準備をし、寮のある二階へ足を運べた時には七時半を過ぎていた。

 シャワーを浴びて、適当に夕飯を食べた。自分の時間はほとんどない。マリちゃんに連絡をする。「最近どう?コウジと付き合ってるんだって?」と話を切り出した。マリちゃんは幸せそうだった。だから、ここでやめとけばよかったんだ。なのに、私はマリちゃんに言ってしまった。「コウジの元カノ知ってる?」って。

 マリちゃんには、後輩から連絡があったこと、コウジと付き合ってて大丈夫なのかってことを話した。マリちゃんはコウジに確認してみるって言って電話を切った。私は、後輩のアヤに連絡をした。「どうなった?」って身を乗り出して聞いてくる様子が手に取るように分かった。「コウジに聞いてみるって言われたよ」と伝えた。早く別れさせたかったんだろう。今となってはそう思う。

  納得がいかない様子で後輩は私に”コウジがどれだけアヤを好きか”ってことを聞かされた。うんうん、そうなんだね。私は途中、居眠りしそうになりながら、一生懸命聞かなきゃって無理やり頭を起こしていた。そしてその日も、私は配達のギリギリ2時まで電話を切らせてもらえなかった。

 寝不足がピークに達していたのだと思う。大学では講義中に寝てしまった。だからといって深い眠りについたわけでもなく、友だちに起こされて、とにかくノートを写して、そして夕刊配達のために寮に帰った。

 アヤからはメールが入っていた。どうなった?コウジたちは別れそう?と。知らないなんて言えない。言っても納得してもらえない。それは明白だった。だから、マリちゃんにメールを入れた。”大丈夫?”と。

 マリちゃんからは、”コウジのこと信じる”との返事が来ていた。だから、夕刊配達が終わって、メールでそれを伝えた。すると電話がかかってきた。私はためらいつつも電話に出た。アヤだった。そして、また、コウジがどんなにアヤのことが好きかとか、今日会ってデートしてきたとかを永遠と聞かされた。

  私はだんだんと、コウジ最低だな。マリちゃんを騙して。許せないという感情に捉われていた。私はコウジとは連絡を取っていない。その時点で私は部外者で、この件に関わっちゃいけなかったんだ。アヤが言っていることの真偽も確かめずに。

 マリちゃんに連絡をした。コウジとは別れた方がいい。アイツはひどいやつだって。メールで一生懸命訴えた。でも、マリちゃんにとっては嫌がらせのように感じたのかもしれない。私はそんなマリちゃんの気持ちなんて考えなかった。マリちゃんが大好きだったから。守りたい一心だった。

 毎晩のように朝刊配達のギリギリまでアヤの電話攻撃は続いた。私は意を決して言った「もう連絡してこないで。生活に支障が出てる。私は暇じゃない」。何度も伝えていた。新聞配達で毎日くたくたであること。学校もあるから寝る時間を割いて、アヤに連絡していること。でも、アヤは私が最終的には折れて、自分の言う通りに動いてくれる駒だとわかっていた。

 私はアヤを着信拒否をした。マリちゃんからは連絡がくることはなかった。それから、高校の友達に手紙を書いたりしたけど、手紙はそのまま私の手元に戻ってきた。

 私の後悔は十六年の時を過ぎた今でも、心の中で大きな傷になって眠っている。高校の同窓会には呼ばれない。今はもう、高校の友達全員と疎遠になっている。SNSで見つけたマリちゃんも高校の友達も、私と気づくとブロックされた。地元に戻る気はないけど、高校生だったあの日々がとても懐かしく、SNSでも繋がれないことが苦しい。

 たった一言、謝りたかったんだ。「ごめん」って。


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みつば
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