結城彩雨リスペクト〜奴隷契約秘書・三都調教物語2
朝陽に照らされ千賀子が目を覚ますと、見覚えのない部屋にひとり裸で寝ていることに気づき、慌てて服を探した。なぜか銀行で着替えたはずの普段着がベッド脇に置いてあり、急いでそれを身に付けた。また確か身につけていたはずの和服の訪問着が影も形もなく消えてしまっていたが、一方でホテルに預けたはずの自分の持ち物は何ひとつ変わっていなかった。千賀子はひとまず安心するものの、気味の悪さに慌てて瀟洒な建物の邸宅を飛び出し、タクシーを急ぎ捕まえ、東山の自宅へ向かった。千賀子は酔って記憶を無くしたことを始め、あられもなく乱れて朝帰りしてしまったことに、夫への罪悪感を覚えていた。昨晩橋本と古都ホテルに到着し、あの因縁の岸と言葉を交わした後から千賀子は記憶がなかったが、ただあの淫靡な姦淫は身体が覚えていた。現実なのか夢なのか、いまだに千賀子には判別できなかったが、夫からは到底得られないあの愉悦の限りは千賀子の身体に深く刻まれた。千賀子がそんな情事への想いに耽っていると、間もなくタクシーは東山の自宅に到着した。千賀子は支払いを済ませて車を降り、自宅の鍵を開けたが、鍵は開いていた。夫がすでに帰っていたのだった。
慌てて千賀子は家に入りすぐさま寝室を覗くと、松尾がイビキをかいて眠っていた。どうやら松尾も前日は慣れない深酒をしたようで、何とか朝帰りが気付かれずに済み、千賀子は安心して一息ついた。松尾の姿を確認するとすぐさま、千賀子はバスルームに向かい、風呂に湯を張った。十数分後、風呂の準備ができると、千賀子は服を脱いで風呂に入り、身体を丁寧に洗い始めた。貞淑な人妻としては夫に気づかれようが気づかれまいが、情事の痕跡は全て消し去りたかった。
しかし女の秘部には甘美な余韻が残っており、悲しい人妻の性というか、一度火を点けられた妖しい官能を理性で抑え込もうと、千賀子は懸命になって全身を洗った。だがしかし千賀子の指先は思わず敏感な箇所に伸びてしまう。媚肉の最奥にくすぶる打ち消し難い快楽が千賀子を襲いかかろうとしたその時。
「千賀子、帰っていたのかい」
バスルームのドア越しに松尾の声が響き、千賀子はハッとして慌てふためいて返答した。
「そ、そうよ。あなたがあまりにも気持ち良さそうに寝てらしたから、声をかけなかったわ」
「そうか、昨日は飲み過ぎちまったからな。恥ずかしいがどうやって家に辿り着いたか覚えてないよ。じゃあ千賀子が風呂を上がったら、僕も入るか。昨日は着の身着のまま寝てしまったよ、ハハハ」
千賀子は現実に引き戻され、ひとまず夫に気づかれなかったことに安心しながらも、少し後ろ髪を引かれる思いだった。
「そういえば千賀子は岸製薬のオーナー、岸さんと知り合いなのかい」
松尾は唐突に千賀子へ質問を投げかけた。すっかり千賀子は現実に引き戻され、動揺を必死に隠しながら、努めて冷静に答えた。
「そうね。それがどうかしたかしら」「昨晩一緒だった人からそんな話を聞いたものだから。岸さんは千賀子の大学の先輩なんだね」
「そうよ、ゴルフ部で一緒だったのよ」
千賀子は事実のみを松尾に伝えるよう意識に努めた。
「そうか……何だか彼は我々の運命を大きく左右させる存在になるような気がするな……」
松尾は何か含みのある言い方をしたが、とにかく千賀子には昨晩の出来事の後ろめたさが先に浮かんで、なぜ松尾がそのようなことを言い出したか、冷静な判断を失っていた。
「そ、そうかしら、あなた。変なこと言わないで。私、昔からあの人のこと苦手なのよ」
千賀子は昨晩の出来事を打ち消したいがために、思わず松尾の言葉を否定した。実際に千賀子は昔から岸のことを嫌悪していた。
「まあ、いいや。じゃあ風呂上がるのを待っているよ」
「わかったわ……」
松尾も昨晩の会合で竹下から口外することを釘刺されていたため、岸製薬が丸北園を支援してくれる用意があることを千賀子には伏せた。千賀子は事あるごとに何度もこの時の松尾の言葉が頭に浮かんできた。「岸は我々の運命を大きく左右させる存在」なのだと……
そんな秘め事から数日後、突然見覚えのない男から自宅に電話がかかってくる。
「はい、松尾ですが」
「やあ、俺だよ。奥さん」
「ど、どなたですか」
「何だ、声を忘れちまったかい。先日はずいぶんお楽しみだったじゃないか。奥さん、またひとつ俺に付き合ってくれないか」
「な、何のことかしら……」
「また気持ちよくしてやるからよ。旦那に満足してないんだろ」
「ふ、ふざけないで」
「ま、そのうちまた会えるのを楽しみにしているよ……」
「いい加減にしてっ」
と、男からイタズラ電話がかかってくるが、けんもほろろに電話を切りつつも、男が自宅の電話番号を知っていることに一抹の不安が千賀子を襲う。賀詞交歓会から約一か月後、先日のイタズラ電話はただの思い過ごしかと不安が少しずつ和らいできた中、週末にバレンタインデーを控えた金曜日、千賀子は橋本に呼び出された。千賀子は支店長室をノックし、「どうぞ」という橋本の声を確認し、中に入った。
「何かお呼びでしょうか」
千賀子は怪訝そうな表情で橋本に話しかけた。千賀子は神経質な橋本を苦手にしていたが、今日はいつにも増して橋本は苛立ちを見せていた。
「これを見たまえ」
橋本から男女の秘め事の一部を撮影した写真を突き付けられる。明らかに千賀子と思しき女性が男とまぐわい、悦楽に喘ぐ写真であった。胸を露わにした千賀子に覆い被さるように男が写っており、虎と龍の刺青が入った褐色の肌をした男の背中が、写真をより淫靡なものにしていた。千賀子は目を見開いて思わず言葉を失った。これは支店長宛に送られてきた写真だという。この写真をどうしたものかと、橋本はネチネチと千賀子に迫り出した。人妻の不倫行為、外部流出による銀行の名誉毀損や賠償請求のリスク、はたまた夫への口止め料の脅迫の可能性等。また千賀子もここで職を失い、賠償による金銭の負担等、夫へさらなる心労をかけたくはなかった。
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