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職場体験を受け入れて|2004|YNAC通信 第19号巻頭言

高校生以上に受入れている会社側が初々しい。懐かしい20年前のエッセイ。
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屋久島高校は、夏の行事として『職場体験』を行っている。学校が島内の事業者に受け入れを依頼し、生徒は希望する職場で3日間ほど地域の仕事を体験するという、なかなか地に足の着いたカリキュラムである。屋久島は離島とはいえ1万4000人の人口を擁しており、それなりにたくさんの職場がある。

輝かしい夏の朝日のなか、あちこちで初々しく働いている生徒たちの姿は、夏休み前の風物詩として、毎年楽しみなものだった。そして今年、わがYNACは創立11年目にして、ついに屋久高の『職場体験』を受け入れたのである!

やってきた2人の元気娘は、明るくハキハキしてよく働いた。屋久島の子だから海でも川でも動き慣れていて、シットオン・カヤックで海に乗り出しても動じることはない。そしてなによりも訪問客を迎えるための、親しみのあるホスビタリティを心得ていた。研修におつきあいいただいたお客さんからの評判もよく、屋久島の未来の観光産業はこの世代が担ってゆくのだな、と感じることができた。

 3日目の夕方、ヤクスギランドのツアーから帰ってきた2人は、担当だったフジムラと一緒にその日の解説の中身について、大いに盛り上がっていた。それとなく聞いていると、普段は競い合って歩くだけだった森の道に、息を呑む美しさや、深い意味が隠されていたこと、楽しみながら学んだり写真をとったりして、じっくり歩いたことがとても新鮮だったらしい。屋久島で暮らしていれば、日頃からいろいろな自然の姿を見たり食べたりして経験を積んでいる。それらを科学的に裏づけたり、確認したりできたことに、知的にエキサイトしているのだ。フジムラも嬉しそうに付き合っている。そう、知的なまなざしが大切。そして常に新鮮な喜びを共有してゆく。それがこれからの自然体験観光の鍵だと、僕らも信じている。

「この国の中で、これから屋久島が果たしてゆくべき役割とはどういうものか」かつて屋久島観光協会の要職にあった方の、挨拶の中にあったこの言葉を思い出す。

本土の自然が荒廃しさまざまな社会不安が深刻化しているなかで、いやおうもなく屋久島への期待は高まってきている。それに媚びるのではなく、思いあがるのでもなく、地域の精神と産業とを新たに作り上げてゆく作業、それはなによりも地域の全体像を深く理解することから始まる。そのためには屋久島のさまざまな姿を柔軟に解き明かし、共有してゆく能力を持つ、若い力の育成が重要な課題になるだろう。

 そう以前から思ってはいたのだが、ひょっとするとその若い力が、もう芽生え始めているのかもしれない。2人の元気娘は、今回の職場体験を通じてエコツアーガイドという仕事が容易なものではない、ということも痛感した様だった。そのとおり、なにごとも基礎が肝心。大学で(なくてもいいけれど)よく勉強し、体を鍛えて、願わくはもう一度YNACの門を敲いてください。われわれも、かれらが誇りを持って働ける業界を作るため、努力を続けてゆこう。

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