【エッセイ】出張先での自由時間の過ごし方
早朝自転車ノススメ
先日、京都へ2泊ほど出張する機会があった。
メンバーは全員北海道からで私を含めおじさん6名という構成である。
今回の宿は四条烏丸という街なかエリアのビジネスホテルで2連泊だ。
この手のおじさんたちとの出張は通常、夜は懇親会という名目の断れない飲み会になることが多い。
「はーい皆さん、宴もたけなわですがここらへんでお開きにしたいと思います。明日は9時出発なので寝坊しないように。次の店に行く方々も飲み過ぎ注意ですよ~」と幹事役のおじさんが場を仕切る。
翌朝のホテルロビー集合は9時。
日中は視察先への訪問、先方との交流などで終日予定が組み込まれている。
だが、せっかくの京都出張ということもあり、せめて自由になる時間を有意義に使って滞在を満喫したいと思うのが人情というものである。
となると自由になる時間は早朝の限られた数時間だけなのだ。
ーよし。いつものシェアサイクル作戦で早朝の京都の街を探索するか。
私は日頃から知らない街に泊まると朝の散歩をせずにはいられないのだ。
普通の観光客が行動しない時間帯を練り歩くのが最高に快適なことは言うまでもない。
自転車を利用することができればその範囲は飛躍的に広がることになる。
例えるならエナジードリンクを飲んだ時の『翼を授けられた』気分である。
ーちょうどオーバーツーリズムの分散対策で早朝から寺社仏閣の拝観ができるらしいしな。
言うまでもなく京都はオーバーツーリズム地域のトップランナーである。
過密エリアに更なるインバウンド観光客が押し寄せて観光地の渋滞や市民の日常の生活を脅かす事態を引き起こしているのだ。
そこで京都市観光協会では観光客に対し『朝観光、夜観光』を推奨して快適な観光地巡りを公式にアナウンスして混雑解消を図っている。
裏街道ヲススメ
その日、早起きした私は近くのシェアサイクリングのサービスを検索した。
何件かサービスがある中で、適当な一つを選びアプリをダウンロードする。
うまい具合にホテルの近くに予約可能な自転車の表示があった。
すぐにアプリ上で予約と決済をし、準備をしてホテルを出た。
このシェアサイクリングサービスというのは各エリアによって特色がある。
貸出ポートをMAP上で確認し、貸出可能台数をチェックして予約する。
この時に電動アシストの場合はバッテリ―残量のチェックもできるのだ。
予約後は30分以内にそのポートまで歩いて向かいアプリ上で『解錠』手続きをすると予約した自転車のカギが開いて使用可能となるのだ。
そうして私は今回も無事、朝の京都で翼を授けられたのである。
ーふふふ。バッテリーも満タンだし、これで清水寺あたりの坂も楽勝だ。
6時前でまだ薄暗い中、大きな通りの四条通りから細道を一本入り東に向かう。小さな四辻をいくつも渡りひたすら東方向を目指す。
自転車は機動性が高く細い道でもスイスイ進むことができるので信号の多い表通りより生活道路を通る方が地域の方々の暮らしも垣間見えるのでオススメだ。地下鉄やバスやタクシーを利用したのでは決して見ることができない光景なのである。はじめての道であっても京都のような碁盤状の区画であれば感性で行先を探り当てられる。間違ってもUターンで戻れば良いだけだ。
朝拝観ノススメ
鴨川を渡り八坂神社で自転車を停めて参拝し、また自転車に乗って移動する。清水寺も朝6時から拝観できるのでちょうどよい時間だ。参道のお店こそシャッターが下りたままだが電動アシストのパワーが坂道をものともせずグングン進んであっという間に入口に到着した。
近くの駐輪場に停めて早朝の清水寺をゆったりと散策する。
平日ということもあるが、人が少なくて非常に快適だ。
ーなるほど。これが静寂の清水寺か。社も庭園も石畳もいと清々し、だ。
そして、お決まりのアングルの写真を撮って意気揚々と後にする。
その後、再び自転車に乗って仁王門経由で平安神宮に到着。
ここではバス3台分の小学校の修学旅行生が6時30分に見学していて驚いた。
ー今は修学旅行生の行程にも早朝見学がスタンダードなのか。
遅メノ朝食ノススメ
平安神宮から鴨川沿いのサイクリングロード経由でホテルに戻る。
鴨川は文字通りカモが多い川である。市民ランナーも多く走っていて爽やかにもほどがある、といったところか。
ホテル近くの駐輪ポートに自転車を返却し、歩いてホテルに戻ると8時を過ぎた。部屋に戻らずそのまま朝食会場に行くとうまい具合に混雑を避けてゆったりと食事をとることができた。
だが、偶然というか案の定というか、我らがチーム二日酔いおじさんたちと同じ6人テーブルで食する運命になったのは私の不徳の致すところなのか。
「昨日は飲み過ぎてまいっちゃったな―。起きたらもう8時で焦ったよ」
「ははは・・・。そうなんですねー。」(私は早朝から寺社仏閣を巡り家内安全・商売繁盛・無病息災を祈願してきましたけどね)という言葉は飲み込む。
他ノ街デノススメ
私がこれまでに仕事で訪れたことのある主要な街、札幌、仙台、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸では同じようなサービスがあったような気がする。早朝からというかほぼ24時間の利用が可能なのだ。
それぞれの街のそれぞれの佳き景観を混雑を避けた爽やかな時間帯に満喫できる。とても良い時代になったものだ。
しかし、地域性や都市部ではない中山間地域などでは同じようなサービスはないことが多い。それはこの事業の主旨が都市部の公共交通機関混雑の緩和を標榜しているためで、地方部においてはその状況がなく需要がないのだ。
だが、諦めることなかれ、裏技だがホテルを予約する際にそのホテル独自でママチャリ等のレンタルサービスを実施している施設もあるのだ。
それでもない場合があるが私ぐらいになると公式のレンタルサービスがなくてもホテルの支配人に事前にネゴして自転車を一台用意してもらったこともあるくらいだ。その時はくれぐれもそれっぽい大義となる理由がいるので注意が必要だ。(例:自転車を借りて世界平和の実現に資するような理由)
というのはいささか誇張だが、もし興味ある方がいたら是非見知らぬ街で自転車を活用して早朝に翼を授けてもらってはどうだろうか。
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