古くてあたらしい仕事
長い付き合いになりそうだ。
とても素敵な本に出会った。
意佇まいが地味で、静かだけど中身は芯があり
忘れられなくるような言葉の数々。
この本は、ひとり出版社を立ち上げた島田潤一郎さん
によって書かれた。
著者が暗闇の中でどのように踠き、どのようにその中
で考え、光の差す方へ自らを導いていったかが書かれ
ている。
本のなかではいくつかの印象的なシーンに出会う。
夏葉社という小さな出版社にとって、本の表紙を描い
てくれた恩人、和田誠さんとの場面で
『和田さんはそういって、右手を差し出した。ぼくの手を包み込むようにして握ってくれた和田さんの手のひらを、ぼくは生涯、忘れることはないだろう。』
たくさんの良いシーン、良い言葉に出会う本の旅が
敬意と感謝で閉じられる。
この出版社の今後の良い人との出会いを予感させるよ
うな余韻の残し方だった。
我が身を振りかえると人へ感謝することを忘れてい
た気がする。不遇なことを嘆いてみてはあるもの、持
っているものを喜ばない日々。
派手さはなくても、この著者のように、必要とされる
ために誰かのために何かをした日はいつだったか忘れ
てしまいそう。
おれも文章は書いている。普段の自分は人称はわたし
なのだが、文章を書く自分の時だけ小さくおれ。
普段給料をもらってる仕事で頑張らないといけないな
と思ったのはもちろん、詩を書くおれも忘れずにがん
ばっていくことにしよう。
そうしたらいつか、島田さんと和田さんの出会いのよ
うにおれを旗印に旅をするきっかけになるようなめぐ
りあわせに出会えるかもしれないから。
一杯書いてきた。きっと誰かに伝わる言葉は書いてい
る。出版するそのときまで楽しみに。
夏葉社のようなところから。
最後にこの本の、夏の風がふいに落ちた若葉を舞い上
がらせるように美しいことばを。
『なにをいいたいかというと、うまくいえないけど、つらいこともたくさんあるけど、どうか、がんばって。ぼくもがんばるから、きみもがんばって。』
夜の町のなかで白く輝く光を背にしたあなたの声が
たしかに届いた。
『きっと頑張るから、どうか報われることもありますように。』
わたしはそんな声を返した。
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