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さわやか__ポップのハヤシユウ

ハヤシユウくんを知ったのは、いつのことだったか。当たり前のように彼を知っているので、もしかしたら生まれてこの方自分がハヤシユウなのかもしれないとさえ錯覚する。

さて、今日はそんな彼の作品の魅力を紹介させていただきたい。

ワンダーランドを聴いてくれ

まずはハヤシユウくんの代表曲と言っても過言ではない、『ワンダーランド』。彼は特定のレーベルに所属しておらず、インデペンデントな活動を続けているが、この曲のヒットのおかげでその名前を広げた。

この曲はタイアップとは似て非なるものだが、ゲーム実況の「しょうじ」さんが使用したことで爆発的に広まった。「使用した」というのがどういうことかというと、もともとワンダーランドは誰でも使えるフリー素材として配布されていた。

ゲーム実況動画から新しいヒット曲が生まれるとは誰が予想しただろうか。これもまた今の時代の新しい音楽の見つけ方である。

話がそれてしまったが、ワンダーランドはわかりやすいループもので、ポップなサウンドが特徴である。作曲者のハヤシユウくんも、「かんたんだからみんな演奏してや」とたびたび口にしている。覚えやすいメロディ、わかりやすい構成、乗りやすいビート、明るいけど少し哀愁を含んだような世界観、どれもが人々に愛される理由であるように思う。

ハヤシユウくんの声質

そして何より注目すべきは、彼の声質と歌詞のテーマである。

彼の声質は、物理的に紐解いてみるのであれば、「倍音」と呼ばれる成分が少ない、透明感・清涼感のある声である。倍音というのは、ざっくりいうと体の共鳴などによる高音周波数の成分のことであるが、これが多いとはっきりとした強いサウンド、少ないと通りにくい弱いサウンドに聞こえる。楽器で言えば、倍音が多いのはトランペット、少ないのはリコーダーなどだ。

彼の声質はどちらかというと倍音の少ないリコーダー寄りの音で、長い時間聴いていても疲れず、心地よい風に吹かれているような気分になる。人によっては眠くなるという印象もあるようだが、それほどリラックス効果が出ているのだろう。

また、高音だけではなく、低音〜中音の部分もまろやかで倍音の少ない声質が味わえる。


とは言え、男性としては倍音の少ない声というのはコンプレックスでもある。大勢の場では大声を張っても声が届かないし、男性的な強さのようなものも感じられない。本人も声や歌には大きなコンプレックスを抱えたまま生きてきた。

そんな倍音の少ないやさしい声が武器になった瞬間、彼の才能は開花した。彼の才能を封じ込めていたのは紛れもない、彼自身だったのだ。

ハヤシユウくんの歌詞のテーマ

歌詞のテーマは、本人曰く多くの曲が「さわやか性欲ポップ」であるという。特に『まどろみ』の歌詞がそのテーマを端的に表している。

まどろみの海で小さな手を弱く握っていた
いつか辿り着ける港町見えるそのときまで

コンパスを失くして地図は紙切れ
風の便りだけで突き進んでゆく

この手も足も体も全部空気に溶けてゆく
右も左も前も後ろも分からなくなってゆく

理性を失くして言葉忘れて
まどろみの境界で溺れてゆく

「まどろみの海」というのは、眠くてうとうとしているときの、ゆらゆら揺れている気分のことだろう。

そんな気分のときには、空気と自身の体の境界が溶けていくような感覚に陥る。そしてその気持ちよさに溺れてゆくのだ。

と、そのとおりに読み解けばただの眠たい歌なのだが、「小さな手を握っていた」という部分から考察すると、これは女の子と一緒に添い寝をしていて、眠くて気持ちよくなってしまって、性欲が高まっている、というような状況であるとも読み取れる。

もちろん解釈はそれぞれのリスナーに委ねられるのだが、性欲やエロといった要素をいやらしくせずに、いかにもさわやかを装って表現しているのがハヤシユウくんの推せるポイントだ。

歌ものへの転換と編曲のプライド

実は、ハヤシユウくんはもともとBGM作家であった。twitterやブログを見てみると、2013年〜2017年頃までは主に請負でBGM制作をしていたようだ。ワンダーランドも配布されていたフリーBGMサイトには138点の音楽素材が置いてある。2017年12月頃、ワンダーランドが一つのきっかけとして歌ものの本格制作へかじを切ることになる。

もともとBGM作家であったがゆえに、編曲には他のシンガーソングライターより強いプライドを持っているようだ。曲に対する声のボリュームで判断できる。

それぞれの楽器や歌の素材を混ぜる作業を、そのままミックス作業と呼ぶが、この作業において、歌を聞かせたい人は声を大きくするし、楽器を聞かせたい人は声を小さくする。改めて文章にすると当たり前のことではあるが、聞かせたいパートを聞かせるように意図的に音量を変えている。

特にソロアーティストの場合は声を大きく、バンドの場合はギターやベースの音も目立つようにミックスされている場合が多い。

ハヤシユウくんはソロアーティストであるが、楽器の動きを聞かせたいという意思があるようで、前述の「ワンダーランド」を聴いてみても曲に対する声の総量が小さい。ブラスやピアノの動きが目立つようにミックスされている。

この曲では特に音量バランスが顕著で、ベースとエレピを聴いてください、という作者からのメッセージが伝わってくる。

最後に

BGM作家になりたくて編曲を勉強していたというバックグランド、誰にも真似できないさわやかな声質、歌詞のテーマや遊び心など推せるポイントがたくさんある。正直、ハヤシユウくんの魅力はここでは語り尽くせないが、また気が向いたときに彼の推しポイントをぜひ紹介させていただきたい。

そして今後の彼の活躍にも目が離せない。いつか大きな舞台で彼を見る日を楽しみにしている。


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