マスメディアによる見出し詐欺・情報テロリズム問題
『辺野古移設抗議の女性ら2人ひかれ1人死亡(共同通信)』
これは6月29日に共同通信が報じた記事の見出しである。
しかし、実際には反基地活動家の老人がダンプの前に飛び出したのを止めようとした氷河期世代の警備員が巻き添えになって死んだニュースだ。
共同通信は、死した警備員を蔑ろに「女性ら」などと報じた。そこまでして、反基地活動の狼藉を免罪したいのか。
共同通信はこれまでも、見出し詐欺とさえ言える恣意的なタイトルによる印象操作を繰り返してきた。7/11には、こんな状況も見られる。
https://x.com/Seisenudoku/status/1811242027620675963
共同通信の悪質な実態を明らかにするため、Wedge Onlineに先月掲載された記事
『上川法相「うまずして」発言の本当の問題点とは?メディアの印象操作は社会の停滞にもつながる』
の初稿原稿から文字数の都合でカットされた部分をそのままに、多少の加筆を加えた上で公開する。
・要人発言を切り取り既成事実化する情報テロリズム
“「産まずして何が女性か」と上川陽子外相”
“出産したくても困難な状況にある人への配慮に欠けるとの指摘が出る可能性がある”──。
2024年5月18日、共同通信から配信された記事である。報道は共同通信配信先である全国多数の地方紙にも広がり、上川外相は多くの批判を受けて発言を撤回するに至った。
既に多くの記事で批判されているが、共同通信の報じ方は上川大臣の発言の一部を恣意的に切り取り、切り取った発言を論拠に「懸念」を示し批判を促す自作自演の「社会問題」創出、マッチポンプ・クレイム的な性質を持つ。
国際大学GLOCOM客員研究員で、フェイクニュース対策や情報リテラシーに関する情報発信を幅広く行っている小木曽健氏は、
『あたかも上川氏が、出産しない女性は女性ではないと言い放ったように切り取り、早トチリな読者はもちろん、学者先生やジャーナリストまでが「差別発言だ」と反発したのです。あの……記事の中身はちゃんと読まれたんでしょうか?』
と批判した。さらに、共同通信が当初の「産まずして」表記を後に「うまずして」に修正した事に対しては
『今回、特に悪質だったのが、記事が掲載された当初は「うまずして」ではなく「産まずして」と意味を限定した表記にしていた点。(中略)この一蓮の動き、実は「マルインフォメーション」と呼ばれる立派なフェイクニュース仕草なんですよ。フェイクニュースって、意図的なウソや勘違いによるデマのほかに「内容は事実だが、切り取りや誤った解釈・勘違いを誘引する表現」もマルインフォメーションというフェイクに分類されます』と続けた。https://forzastyle.com/articles/-/71315
著述家の加藤文宏氏は小木曽氏の指摘を踏まえ、「あれはマルインフォメーション(悪意ある情報)という指摘だが、ディスインフォメーション(意図的に作られた虚偽情報)と言えるのではないか。」と更に踏み込んだ。
両氏の指摘を裏付けるかのように、共同通信英語版の報道は日本語版以上に誤解を招く内容だった。“Japan minister queries women's worth without birth in election speech” (日本の大臣、選挙演説で出産のない女性の価値に疑問 ※Googleによる自動翻訳)と発信し、上川大臣の発言撤回を報じるポストに至っては“Japan foreign minister retracts controversial childbirth remark”(日本の外相、物議を醸した出産発言を撤回)などと報じている。
[childbirth]は一般的に「子どもを出産する」と翻訳され、地位や役職などを「生みだす」とは全く意味が異なる。上川大臣は子どもの出産になど一切言及していない。共同通信のSNS(X)発信は大きな批判を呼び、いずれにもコミュニティポスト(誤情報や誤解を誘発する投稿にユーザーが補足や注意喚起を加える機能)が付けられている。
なぜこのような報道をしたのか。同社は産経新聞からの取材に対し、「一連の発言は『出産』を比喩にしたものと考えられます。上川氏が『出産』と明示的に述べなかったとしても、発言の解釈として『childbirth』という表現を用いました」とコメントした。
ならば何故、日本語版で当初「産む」と書いたものは後から修正、しかも敢えて「生む」ではなく平仮名で「うむ」にしたのか。加えて、英語版の[childbirth]を投稿したのは、日本語版が「うむ」に修正された後だ。いかなる「配慮」からか。
https://twitter.com/kyodo_english/status/1792068539949764852
・共同通信は、いかなる「配慮」をしてきたか
一例として東京電力福島第一原子力発電所事故関連の報道をみてみよう。
『福島36%「子孫に被ばく影響」 - 県民健康調査』
これは2018年6月、原発事故の健康影響を調べる福島県の「県民健康調査」について、『住民の精神的な健康度の調査で、被ばくが将来の子や孫に影響を及ぼすと思うかの質問に36.1%が「可能性が高い」と答えた』ことを報じる記事の見出しである。
この記述は「福島で子孫の36%に被ばく影響が発生している」かのように読むことも出来る。しかし実際には、被曝が人の次世代に遺伝影響を及ぼすことは無い。被爆者の子孫に対する長期間の調査でも、影響は全く検出されていない。「なぜ、敢えて誤読を誘発するミスリードをしたのか」「見出し詐欺」「偏見差別を助長している」などの批判が殺到したが、同社は今も無視を続けている。
環境省の全国調査によれば、被ばくした人の子孫に遺伝的な影響が起こる可能性について誤解した回答は、昨年2023年時点でさえ全体の46.8%にも及ぶ。福島差別は今も静かに根付いている。
そればかりではない。強い不安と恐怖はときに、放射線被曝を上回るほどの健康リスクとなる。WHO(世界保健機関)は2006年、住民に特異な被曝があったチョルノービリにおける原発事故でさえ、『メンタルヘルスへの衝撃は、原発事故で引き起こされた、最も大きな地域保健の問題である』と総括した。
https://www.env.go.jp/content/900412332.pdf
まして東電原発事故における公衆の健康影響について、国連科学委員会(UNSCEAR)は、『心理的・精神的な影響が最も重要だと考えられる。甲状腺がん、白血病ならびに乳がん発生率が、自然発生率と識別可能なレベルで今後増加することは予想されない。また、がん以外の健康影響(妊娠中の被ばくによる流産、周産期死亡率、先天的な影響、又は認知障害)についても、今後検出可能なレベルで増加することは予想されない。』ことを2013年報告書の時点で既に訴えていた。
報告書の通り、福島では被曝そのものを原因とした健康被害は起きなかった。
その一方、震災関連死は宮城・岩手などに比べて突出した。デマや印象操作などの「風評加害」によって過度に煽られた不安と恐怖は、自死や必要以上の避難と環境の変化による健康状況の悪化、別居や離婚などの増加を促した。上川大臣の「生む」発言さえ問題であるかのように報じた共同通信は、自身の報道が当事者に与えてきた「メンタルヘルスへの衝撃」による加害性には配慮しないのか。
・海外で差別に使われてきたミームを敢えて使う「配慮」
昨年夏に海洋放出が本格化した、ALPS処理水(以下処理水)に対する共同通信の報道も見てみよう。同社は9月28日の英語記事で
「Japan to begin releasing second batch of Fukushima water on Oct. 5」と報じた。
処理水は通常、英語では「Treated water(処理された水)」と記載される。[Fukushima Water]という用語は、主に英語圏において福島へのデマや差別のミームとして使われてきた。昨年末に函館でイワシの大量死が発生した際にも、海外の投稿には[Fukushima Water]を含む投稿が溢れている。
上川大臣の「生む」を敢えて[childbirth]と書いた共同通信は、いかなる「配慮」から敢えて[Fukushima Water]というネガティブなミームを用いて海外に発信したのか。ハフポスト日本の相本啓太記者が取材したところ、
①社内ルールによる見出しの字数制限
②本文にはtreated radioactive waterと記載
③他の英文メディアでもそう表記している
が理由だという。
なお[Treated Water]は12文字、[Fukushima Water]は14文字である。いかなる「配慮」がそこにあったのか。
ここで、海外在住邦人の声の一部を紹介しよう。
・それを報じることに何の「配慮」があるのか
共同通信の「配慮」は、最近でも枚挙に暇がない。今年5月7日には、「海水からトリチウム検出 原発処理水放出口付近」などと見出しを付けた記事を拡散させた。
実際には、世界保健機関(WHO)の飲料水基準(1万ベクレル)を大きく下回る「1リットル当たり13ベクレルの放射性物質トリチウムを検出した」という内容だった。
トリチウムは地球上のあらゆる水に含まれている。人の体内にさえ、1人あたり平均100ベクレルのトリチウムが含まれている。
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/007_09_00.pdf
基準値を遥かに下回る海水1リットルあたり13ベクレルのトリチウムなど有意なリスクにならない。むしろ同じ量の海水に含まれる塩分の方が桁違いに有害とさえ言える。ところが、共同通信の報道をきっかけに、一部では処理水が危険であるかのように喧伝する声が再び盛り上がった。
漁業者も含め、処理水放出に伴う当事者最大の懸念は「風評」「偏見差別」だった。そうした中で、共同通信はいかなる「配慮」を以て「海水からトリチウム検出 原発処理水放出口付近」などと報じたのか。SNS(X)ではまたしても批判が殺到したが、共同通信はこれらにも無視を続けている。そればかりか、「社会部や地方支社局の記者有志による共同通信ヘイト問題取材班の公式アカウントです」と称した「共同通信ヘイト問題取材班」までもが、これを拡散させていた。
・メディアに「問題」と「正しさ」を支配する権利があるのか
こうした傾向は、共同通信に限った問題ではない。詳しくは稿を改めるが、今年4月には朝日新聞が双葉郡大熊町で行われたイベントに対し、「放射性物質をできるだけ取り除いた除染土を用い、花を植える催しだった」と書き、福島高専の先生から「町の人が再利用に合意するように頑張ってほしい」と言われたかのように報じたが、この記事は根幹部分が事実に反していた。
実際には、イベントで除染土は使われていなかった。必然的に、当事者の発言とされたものも実際にあったのか、そもそも捏造ではなかったのかが疑われた。著者は朝日新聞に質問書を送ったが、朝日新聞は具体的な回答をことごとく避けた。
その後、朝日新聞は「」で囲まれた当事者の発言とされる部分も含めて記事を修正した。これに対し、著者は発言の改竄に当事者の許可や裏付けを取ったのか、記事は捏造ではなかったのかを再度問うた。
朝日新聞から期限の1分前に送られてきた返答には、やはり質問に対する具体的な回答は全く無かった。「捏造との判断はしておりません」「訂正に際し、文章の意味をより分かりやすくするため、編集作業の一環として一部記述を修正しました」との一方的な主張に留まっていた。https://note.com/88410616/n/nda3cdfe9598e
なお当該記事を書いた大槻規義福島総局長は2021年、「風評加害者って誰?汚染土利用に漂う不安な空気」との見出しで記事を書き、多くの批判を集めて大炎上していた。これらの批判にも、朝日新聞は未だ沈黙を続けたままだ。
なお、朝日新聞のこの件については、6月23日公開されたばかりの以下の現代ビジネス記事『朝日新聞福島総局長の捏造疑惑炎上ではっきりした「不安な空気」を創っては拡散する「風評加害者」の正体』でさらに詳しく書いたのでご参照頂きたい。
・なぜ、こうした報道が繰り返されるのか。
詳細は4月に上梓したばかりの『「やさしさ」の免罪符 暴走する被害者意識と「社会正義」』(徳間書店)に記したが、https://amzn.asia/d/3suXNtc
たとえばWJSA(Worlds of Journalism Study Association)が発表している、世界67か国・2万7500人以上のジャーナリストへのインタビュー調査結果に顕れた、日本のジャーナリズムの特異な傾向も一因を探る手掛かりになるだろう。日本のジャーナリストを諸外国と比較すると、以下4点の傾向を読み取ることができる。
今や社会への影響力という点において、マスメディアは事実上、司法、立法、行政に比肩・干渉する巨大な権力者と言える。「何が問題か」「誰が弱者か」を恣意的に誘導するアジェンダセッティング、チェリーピッキングやほのめかしなどの印象操作、あるいは言いがかりに等しい報道や事実の担保なき独善で世論に影響を与え、人々を煽動し、結果的に政策や政権支持率、選挙結果を左右したり、場合によっては選挙で選ばれた政治家に「スキャンダル」をでっち上げて失脚させることさえできる。現に、メディアが過去の政権交代を煽ったことを自供したこともある。
その一方で、マスメディアには専門的な知識と責任を担保する資格が不要かつ民主主義的な選挙で選ばれたわけでもない。任期はなく弾劾もできない。相応の責任を求められる制度すらない。情報開示の義務もない。これら巨大な権力が責任も問われず野放しにされたままでは、社会は国民主権ならぬメディア主権、法治主義ではなく「報治主義」にさえなりかねないのではないか。
共同通信による上川大臣発言、東電原発事故、そして反基地運動が生み出した犠牲に対する報道姿勢は、社会が突きつけられた深刻な危機が示唆された、実に象徴的な出来事とさえ言えただろう。
これらの出来事は、実は共同通信のみの話ではない。
前掲した『「やさしさ」の免罪符 暴走する被害者意識と「社会正義」』には、それらをもはや言い逃れ不可能なほど大量の証拠と共に記しているが、当然ながらマスメディアにとって不都合な本書が、マスメディアから積極的に紹介されることは無い。
安倍元総理が亡くなる前に読みかけであった本の中にも含まれていた前著『「正しさ」の商人』と同様、一般書店でも積極的に置く店は少ない。
どうか本書を手にして頂き、広く紹介して頂ければ幸甚である。
追記:2024/08/26
共同通信は8月25日、ALPS処理水を再び [Fukushima Water] と書いた。これまで批判されてきたにもかかわらずだ。まさに確信犯と言えるだろう。