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  「じゃんけん」 と 「3すくみ」

 ダレかさんとナニかさんの花畑〈No.007〉

グー・チョキ・パー(ac)

座席は4人掛け、道連れは同行3人旅

 はじめて「旅に出たい」と思い決めたのは、中学生になってから、いうまでもない一人旅で、課題は宿り。つまり(どこに泊まるか…宿はどうすればいいのか…)だった。日帰りじゃ遠足にすぎず、旅とは言えない。たとえ、ひと晩でも家を離れてすごさなければ…
 …といっても、まだ手づからは働きのない若者(がきんちょ…に近い少年)の小遣いは心もとなく。やむなくユースホステル協会の会員になって、1泊のテスト旅行を2度、3度。

 そうするうちに、先輩ホステラ―(彼らのなかには貧乏旅行のお手本みたいな猛者が多かった)から、あれこれの智慧をさずかった。なかで記憶にのこるテーマに「旅は〈ひとり旅〉があるべき姿だが、道連れがあるときの同行は何人にすべきか」だと、「どう思う?」と彼は問う。つづけて、
「列車の座席は4人掛けだが、4人旅というのは  どうもウマくない。人は皆んな結局は自分がいちばんカワイイものだから、いずれ同行者の間にも溝ができる。2人ならなんとか我慢もできるし、2人と1人に分かれると除け者になる1人がカワイソだろ、だから3人まで。なぜなら、4人になると2人と2人に分かれちまう…だろ。したがって旅は同行3人まで…」

 ワカッタようで、ほかの条件によっても違ってくるだろう気もするし…でもタシカに気になる人間関係のありようでもあり…。ぼくはそれから、折にふれて  このことを振り返るようになった。

毒蛇ハブ(ウィペディア)

「じゃんけん」と「3すくみ」

「じゃんけん」…という約束ごと  あるいは遊びを、いつ・どうして知ったか…問われると、ぼくは応えに窮してしまう。きっと、ほとんどの方がそうじゃないだろか?
「じゃんけん・ぽん」で出す手のカタチ、「グー(石)」「チョキ(鋏)」「パー(紙)」で勝ち負けが決まる。1つのカタチは、別の1つには勝ち、もう1つには負ける…3すくみの関係にあって。だから、たがいに無心であるかぎりは、勝ち負けは運まかせ(注1)。
 それは…ほとんど物心つくと同時に、子ども社会への入り口で否も応もナシに経験  記憶させられたことだから。母の乳を吸う、生きるすべの習得と同じ…考えてみればスゴい生得の智慧のひとつでもある。

「じゃんけん」の始まりとされる、「3竦み」を辞書で見ると…
「なめくじ」-(勝)→「蛇」-(勝)→「蛙」-(勝)→「なめくじ」
となっている。のだけれども…
「なめくじ」が「蛇」に勝つことじたい・・・に(…?…)だし、どうも妖怪じみた伝承の匂いばかりが鼻につく。じつは
 ………
 ぼくが出逢った目撃経験で言えば、「蛇」が「鼠」を丸呑みにする場面ほど強烈なものはなかった。それもただ襲うのではない…もじどおり竦ませた獲物の身動きをコントロールし、もてあそんだうえで呑むという…手のこんだやり口であった。ここに再現…
 場面は、奄美大島の北に連なる吐噶喇とから列島の、宝島。
 ときは1970年代(昭和中期)の初頭、大学時代のひと夏を学友4人で〈島流し〉気分を味わった冒険旅のとき。
 合宿に借りた空き家の屋根裏から、ある夜…「チ…チ…」「トコ…トコ…」と面妖な音がしはじめ、足を忍ばせ屋根裏への階段から覗き見ると…
 奥の方にハブがトグロを巻いており、その周りをネズミが憑かれたように歩き回っている…ネズミはときどき動きを止めるが、ハブに睨まれつづける呪縛?からは逃れられない…ようで、またトコトコ歩き出して…その円周が少しづつ狭まってゆき…
 やがて「シュッ…」と蛇影が動いたかと思うと…ネズミの姿も音も消えていた……(注2)

 ハブは、地面を這うばかりでなく木にも登り、暑さを避けて夜の砂浜や民家にも侵入。その俊敏な攻撃を島民は「撃つ」と呼び、島民たちは「撃たれない(噛まれない)」ように用心を怠らない。ぼくらも外出には棒っ伐れを手放さず、滞在1ヶ月余をキョロキョロと落ち着きなく歩くクセがついた。
 この経験からこっち、ぼくは「じゃんけん」に代表される〈3竦み〉も、けっして平等なものではない(というか、まったく平等な3竦みなどありえない)…想いをつよくしている。

「海の3すくみ」…にも濃淡あり

 ぼくの好きな海の生きものにも「3すくみ」と呼ばれる存在がある。
 ①ウツボ ②タコ ③イセエビ
 いずれも「知らない」人はないだろう  けれど「好きか」と訊ねられたら返答はテンデンバラバラが真相ではないか。ともあれ、
 ①は②に勝り、②は③に勝り、③は①に勝るとされる。…が、スッキリ完璧とはいかない色彩もおびている。まず、ザックリ紹介しておこう。

ウツボ(ウィキペディア)

 鋭い歯をもつウツボは、タコの天敵。ウナギの仲間といわれても、体型のほかには共感されない。肉食武器の二重口には、ふつうの歯に加え〈咽頭顎いんとうがく〉と呼ぶ顎にも歯があって。別名「海のギャング」はまた、その長い魚体を利した〈高速回転〉技で獲物を締め、鯖折りにし、喰いちぎる。皮も厚く頑丈。皮膚呼吸で岩礁地帯にも上陸、カニなども襲う。オスがメスに噛みつくSEXは強烈。仔魚は親に似合わない透明体(注3)。

マダコ(ウィキペディア)

 イセエビを好んで餌食にするタコ。日本人には馴染みの深い軟体動物・頭足類だけれども、禁忌にして食さない民族もある。毒液を出す器官をもって変態し、攻撃・防禦機関の吸盤も更新をくりかえす。SEXは交接腕による受精。変幻自在の生態に見えて、寿命は1年と短いものが多く、産卵も一生に一度。雌は卵に新鮮な水を送りつづけ、誕生には立ち会うことなく息絶える姿は感動的(幼生は親そっくりのミニ・ダコ)。吐くスミにはウツボの嗅覚をマヒさせる効果があるが…勝負では敵わないため、この〈3すくみ〉関係では結果的にイセエビの〈用心棒〉がわりになる。

イセエビ(ウィキペディア)

 貝・カニ・フジツボなどを好餌にするイセエビの、天敵はタコ。だが攻撃してくる敵はほかにもある。第一触覚(嗅覚)のすぐ後ろにある第二触覚が防禦武器になる。脱皮を繰り返して成長し、逃げるときは後退発跳躍。SEXはオス・メス抱き合う。幼生は「ガラスエビ」とも呼ばれる半透明。堅固な殻はコブダイの歯をもってしても噛み砕けないほど。…だが、タコの口にある「カラストンビ」には敵わない。

 以上のとおり、「3すくみ」とは言ってもそれぞれの関係には濃淡・強弱があって、けして一定ではないし。生物界の天敵関係にしても「窮鼠きゅうそ猫を噛む」のとおり、強者が弱者に敗れることもあるのが自然だ。

 旅人としての経験も加味したボクの個人的な好みでいえば、イセエビの殊にも豪快な丸ごと味噌汁には脱帽だし、ミズダコのしゃぶしゃぶには母ダコの愛情を味わう感がある…いっぽうでウツボは悪食、たとえ飢えても食する気にはなれない(…と思いきめている)。

「ジャンケン」にしたって、勝つとワカっていてもウツボを出す手は、金輪際もたない(…だろうか?)。


(注1)じゃんけんグリコ…という遊びがあった。「グー」で勝てば「グ・
    リ・コ」で3歩、「チョキ」で勝てば「チョ・コ・レ・イ・ト」で
    5歩、「パー」で勝てば「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル」で6歩、稼げ
    る。これでゴールへどちらが先に行き着けるか…を競う。この
    「+遊び・じゃんけん」のオモシロいところは、相手が「グー」
    「チョキ」「パー」をアトランダムに出してくるとすれば、こちら
    は「チョキ(ぱーではない)」を出しつづければ結局は勝てる…そ
    んな必勝法(付記すれば相手がこの❝チョキ勝法❞を知っていれば通
    用しない)。
(注2)ハブ…非常に攻撃的な毒蛇で、頭部・口の近くにあるピット器官が
    熱感知した相手には間髪をいれずに攻撃する。毒はマムシに比べれ
    ば弱いというが…。宝島など吐噶喇列島にはトカラハブが生息。
(注3)ウツボ…限られた地方で食される魚で、筆者は和歌山県沿岸で試食
    するチャンスに恵まれたことがある。が、もとより腸には自信を欠
    く体調も手伝って警戒感ぬぐえず。そのせいか数品の料理をいただ
    いただけで即、テキメンに腹を壊した。濃い脂に負けたらしい。

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