波立つ山野 青々と
もしかすると「おや」と感じてくださった方もおられるかも知れません。
実はこの作品、江戸時代に活躍した絵師、葛飾北斎さんの《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》をオマージュさせていただいています。
この記事では、作品ができるまでの経緯をお話しさせていただいています。すこしでもお楽しみいただけたら幸いです。
作品ができるまで
名画のオマージュ
きっかけは、つくしチームさま主催の企画展『リメイガエキシビション』にお誘いいただいたことでした。
名画を自分の中に落とし込んでリメイクする、というコンセプトを伺った時はもうワクワクでいっぱいで、「観ているだけでもたくさんのことを教えてくれる名画を、自分で消化してリメイクするなんてすごくすごくたくさんのことを得られるかも!」と思い参加を決意しました。
数ある名画の中から《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》を選んだ理由はなんといっても世界的に「和」を象徴する作品だから。
子供の頃から日本を代表する作品として何度も観てきた《神奈川沖浪裏》は、和の世界観をベースに作品制作をしている自分のなかに確実に組み込まれています。せっかくいただいた機会、その偉大な作品の胸をお借りし学び、これからの自分に活かしたいと思ったのです。
調査開始!
今まで様々な形で作品を拝見していたのに、北斎さんの人生、作品が生まれたきっかけや想い……、考えてみたら知らないことばかり。「ちゃんと知りたい!」と思っていたら、ちょうどサントリー美術館さんで“大英博物館 北斎”が開催されていることを知り、早速伺うことにしました。
ものすごくたくさんの作品が展示されていて、そのどれもが、力一杯に動いて自由で伸びやかな景色とエネルギーいっぱいの生き物たちの奥に、前へ前へ筆を動かす北斎さんの姿が見える気がしました。
その後も北斎さんに今より半歩でも近づけたら……の思いで、北斎さんに関する記述がありそうな本を片っぱしから引っ張り出してきたり、webサイトで調べたりしながら、特に気になったポイント5つを自分なりにまとめてみました。
(参考にさせていただいた書籍は記事最下部に記載させていただいております。)
気になる《神奈川沖浪裏》の向こう側
①北斎さんの目
《神奈川沖浪裏》を見たときいつも心の中にどしんとくるのが大きくうねる波の迫力。遠くの富士山の対比がかっこよくて好きだったので、そこを作品制作の軸にしよう!と思い、まずは構図について調べました。
②ベロ藍と江戸の人たち
《神奈川沖浪裏》といえば波の青色も印象的です。
展示を見に行って初めて知ったのですが、《冨嶽三十六景》シリーズ、最初の方はベロ藍のみの真っ青な絵だったんです!
③江戸の暮らし
波を見ていると、たくさんの人を乗せた船が波に揉まれています。
なんでこんな高波の日に……?と思ったのですが、そこには大きな自然の中にも力強く生きる江戸の人たちの暮らしが描かれていたんですね。
そういうの大好き。
④富士山
神奈川沖浪裏で、小さいのに存在感のある富士山もとっても気になります。
なぜ富士山を?
そこから、当時の人々が富士山にかけた思いがわかりました。
⑤水
神奈川沖浪裏だけでなく、北斎さんの作品には海や川などたくさんの水が登場します。その表現もさまざま。
北斎さんは水の流れの向こうに何をみていたのでしょうか……。
こうした《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》のステキだなと思った部分と、自分の中にある世界を混ぜた時に「”江戸の足元にあった日常と、神秘が交わる一瞬”を描いた浮世絵」というイメージが生まれました。
制作の様子
完成を迎えて
本当にたくさんのことを学ばせていただきながら、作品を完成させることができました。
偉大な作品をもとにした上で自分らしさを表現するためには自分らしさが何かを知らないといけなくて、今回そこに一番苦労しました。
自分を見つめ直す中で海を野に置き換えようと思ったのは、北斎さんにとっての水のように、自分は草花が、これからもずっと描き続けるテーマになるだろうと思ったからです。
いつか私も、草木や大地や水の、生きてきた時間まで描けるようになりたいです。