【番外編】読書録「官民共創のイノベーション」中原裕彦・池田陽子編著・ベストブック
まずは非常に読みやすい。
第四次産業革命として、続々と開発されている新技術を社会実装するにあたり、当然ながら既存のルールでは対応が難しい事案と具体的な解決事例について、法制度を司る「官」のサイドから示している。
本書を知るきっかけとなったのは、5月に東京で開催されたスタートアップのイベントで著者の池田陽子氏と、制度の成功事例であるマイクロモビリティの株式会社Luup岡井CEOのセッションを拝聴したことであった。
発行が今年の2月21日とのことで、最新の事例が「官」の担当者によってコンパクトに纏められている。
繰り返して言うが、ポイントは、規制する側の「官公庁」側からの分析であるという点である。
成功したスタートアップ経営者の著書や記事は冒険心に富み、華麗でドラマティックな展開があり、非常にワクワクするものである。
しかし、「実務」として新事業に向き合った場合、人生全てを掛けてイノベーションにトライしている数多くの事業者に対してこれほど官庁の考え方がよくわかる教科書は他に無いと思う。
「規制のサンドボックス制度」を主とし「グレーゾーン解消制度」「新事業特例制度」など内閣官房や産業競争力強化法によって、アイディアを市場に出すことにより、実験とデータを積み重ね、最終的には法改正も含めて社会実装させるシステムの一端を垣間見ることが出来る。
上記のように行政側の課題も明らかとなっており、まさに「官民共創」のイノベーションと謳うに相応しい事例が、様々な障壁を超えて生み出されている好循環のモデルケースを近くに感じることが出来る。
また、新事業創出に伴い「法務機能」の充実もポイントとして挙げられている。
スポット的に企業の法務機能を担うことの多い司法書士にとっては、まさしく「目からウロコ」の金言満載の最終章であり、イノベーターだけでなく、実務にかかわる関係者必読の一冊でありました。
常に新しいことを追求すれば、必然的に現行のシステムが破壊されていく過程があり、この本も3年後には「過去の事例」となっていることが望ましいとは思うものの、関係各所の最大の努力が記録されている貴重な「備忘録」として、折に触れ繰り返し読んでみたいと思わせて頂きました!
「官民共創のイノベーション 規制のサンドボックスの挑戦とその先」
中原裕彦・池田陽子編著 株式会社ベストブック発行 のご紹介でした。