見出し画像

【鑑賞記録】東京佼成ウインドオーケストラ 第167回定期演奏会《マスランカ・チクルス Vol.2》(2025/1/11)

昨日足を運んだ東京佼成ウインドオーケストラ 第167回定期演奏会《マスランカ・チクルス Vol.2》の鑑賞記録です。

素人目線の感想ですので内容が拙い部分もあるとは思いますがご容赦ください。

演奏会情報

東京佼成ウインドオーケストラ 第167回定期演奏会
《マスランカ・チクルス Vol.2》

■日時
2025年1月11日(土)18時30分開演
(終演:20時30分)

■会場
なかのZERO 大ホール

■演奏者
大井剛史(常任指揮者)
鈴木慎崇(ピアノ)
チャールズ・グラバー(語り)
東京佼成ウインドオーケストラ

■プログラム
(汐澤安彦氏への献奏)
悲しき歌/P.I.チャイコフスキー(A.リード編曲)

(本プログラム)
ブーレスク風ロンド (1972年委嘱作品)/伊福部 昭
交響曲第9番/D.マスランカ

(アンコール)
なし

演奏会の所感

予定が空いているときは極力伺うようにしている東京佼成ウインドオーケストラ(以下、TKWOと表記)の演奏会。

直近に伺ったのが昨年6月のオール《ジョン・マッキー》プログラムの第165回定期演奏会だったので、個人的には約7ヶ月振りのTKWOの演奏会です。

今回のプログラムはなんと伊福部昭『ブーレスク風ロンド』とマスランカ『交響曲第9番』の2曲プログラム!吹奏楽の演奏会としてはかなり珍しいですね。

今回のプログラムの予習は軽くした程度(TKWOがYouTubeでアップしている吹奏楽カフェの解説を流し聞き+AppleMusicでマスランカ作品を1回聴いた程度)。マスランカ作品の引用元の賛美歌やバッハのコラールを聴く時間までは無かったです…。

果たしてこんな状態で最後まで聴ききれるのか?と思いながらも、マスランカの第9番は今後実演に接する機会が限りなく少ないと思い、意を決してチケットを購入しました。

なかのZEROホール、個人的には音響が苦手な(というより、どの位置で聴くのがベストなのかいまだに掴めていない)ホールです。

普段は2階席前方で聴くことが多いのですが、今回は私がチケットを購入したタイミング(演奏会数日前)の時点でも席に余裕があったので、今まであまり試したことが無い1階席中央付近にトライしました。

以下、プログラムごとに簡単に感想を書いていきます。

悲しき歌/P.I.チャイコフスキー(A.リード編曲)

開演時間になったタイミングで
・これより献奏のために奏者が入場すること
・入場の際に拍手を控えてほしいこと
を周知するアナウンスあり。

全奏者の入場後、指揮者の大井氏からは演奏前に
・楽団の名称が「東京佼成吹奏楽団」の時代から指揮者を務めた汐澤安彦が1月7日にご逝去されたこと
・これから演奏する献奏とマスランカの交響曲を含めたプログラム全体を汐澤氏に捧げること
・献奏後の拍手はお控えいただきたいこと
などのお話があり、チャイコフスキー作曲(リード編曲)『悲しき歌』が演奏されました。

↑は汐澤氏とTKWOによる演奏が収録されたアルバムですが、汐澤氏のレパートリーの中にチャイコフスキーのこんな悲しい旋律の曲があるとは知りませんでした…。元はピアノのための小品なのですね。

私も縁あって中学生時代にバンドの指導をしていただいたことがありましたが、汐澤氏はパワフルな指導と素敵な人柄が印象的でした。
「トロンボーンはな、こうやって吹くんだ!」と実演しながらの指導は緊張感がありながらも非常に充実したものだったと記憶しております。

4分ほどの演奏でしたが色々なことを思い返しながら献奏を聴いていると気づいたら涙が…。
大井マエストロ、そしてTKWOの皆さまにはこの演奏を聴かせていただいたことに感謝したいです。

ブーレスク風ロンド/伊福部 昭

献奏後、奏者が1度舞台袖に戻り仕切り直しという形で演奏会の本プログラムへ。

本演奏会に向けて事前に配信された秋山和慶マエストロとTKWOの演奏(1984年録音)と比べると、やや落ち着いたテンポでの演奏でした。

ここ数年首都圏のプロオケ・アマオケが演奏する『シンフォニア・タプカーラ』『SF交響ファンタジー第1番』などの伊福部作品を聴く機会が何度がありましたが、いずれもイケイケドンドンなテンポの演奏だったので落ち着いたテンポ設定で聴く伊福部作品は新鮮な感覚でした。

曲の終盤のクラリネット(私の席からは見えにくかったのですがホルンも?)のベルアップがあり、明確に音量が一段階上がったのが印象的でした。

交響曲第9番/D.マスランカ

20分の休憩を挟んだプログラム後半は75分の大曲、マスランカの交響曲第9番です。

序文:秘密

第1楽章の始まる前に「序文」としてW.S.マーウィンの詩が朗読されます。
語りを担当するのは俳優・アナウンサーとして活動を行うアメリカ出身のチャールズ・グラバー氏です。

英語の詩の朗読が終わるとそのまま間を空けずに第1楽章へ。

第1楽章:まもなくかなたの
ピアノの強奏での一撃とティンパニのロール音などで鳴り響く低いド(C)の音で緊張感のある楽曲の始まり方です。

どこからともなく聞こえてきたシ-ラ(A-G)の2音が徐々に色々な楽器で演奏されていきますが、会場で生で聞くと2音が舞台の前方・後方、上手・下手と立体的に広がっていく様子がよく分かります。

この2音はプログラム解説によるとアメリカコガラという鳥の鳴き声の模倣だそうで、音源で聴いた際は単なる反復にしか聴こえなかった2音も会場で聴くと立体感を持って聴こえ、まさに色々な所から鳥が鳴いているような印象でした。
改めて生で聴くことが出来て良かったと思いました。

1楽章の盛り上がりで目を惹くのはやはりマリンバ等の鍵盤打楽器です。
私の座席位置だと打楽器が一部ピアノに隠れてしまい見えにくかったのですが、ピアノの隙間から見える鍵盤打楽器を担当する和田光世さんの職人芸に目を奪われました。

第2楽章:全ては汝の元に
第2楽章は静かに語りかけるようなピアノと、それに打楽器が小さく応答するという静かな始まり方です。
この静かな部分で長い長いロングトーンの伴奏を奏でるクラリネットやファゴットなどの木管楽器の雰囲気がとても素敵でした。
特にバスクラリネット、コントラバスクラリネットの音色が素晴らしく聴いていて鳥肌が立ちました。

静かな部分の途中で差し込まれるピアノの6連符で駆け上がるフレーズも非常に印象的。
また、随所で息の長いソロを担当したホルンの堀風翔さんもブラボーでした。

第3楽章:「我は神に感謝する」による幻想曲
第2楽章が終わると指揮者の大井さんが一度指揮台から降り少し長めの間を空けて第3楽章へ。

第3楽章はソプラノサックスとピアノのみで5分ほど演奏するという思い切った構成の楽章です。
ソプラノサックスを演奏するのはコンサートマスターでもある林田祐和さん。
林田さんは私が前回伺ったオール《ジョン・マッキー》プログラムでの演奏を聴いたときも思いましたが、音色の引き出しが非常に豊富ですね。
ソプラノサックスってここまで幅広い音色が出せるのか、とただただ驚きでした。

演奏の感想とはやや逸れるのですが、この辺りから客席側の集中力が切れ始めていたのが非常に残念。。。
咳などは生理現象なので仕方ないとは思うのですが、(おそらく寝落ちしたことに起因する)プログラムやチラシ、そして鞄などの落下音が非常に気になってしまいました…。
眠ってしまうのであればチラシをカバンに入れたり、鞄自体も最初から足元に置いたりすれば良いのに…と思ってしまいました。演奏が素晴らしいだけに客席の集中力切れはとても残念です。

第4楽章:「おお、血と涙にまみれた御頭よ」による幻想曲
全体の半分以上の長さを占める第4楽章。40分近くある非常に長い楽章です。
演奏会に行くまではこの楽章を最後まで聴ききれるのかが非常に不安でした。

冒頭数分間や中盤あたりに全体での強奏となる部分はあるものの、この楽章でも印象的なのはやはり音の薄い弱奏部分でした。
(弱奏部分が印象的だからこそ強奏部分が映える、とも言えるかもしれません)

弱奏になっても音楽が痩せず、聴く人を惹き付けるような音楽的な演奏が出来るのはさすがプロだなぁと感じました。

第4楽章は様々な楽器が弱奏でのソロを紡いでいくのですが、その中でも特に印象的だったのはクラリネットの林裕子さんの長いソロです。
優しく語りかけるような音色のソロを聴いていると、自分自身の心の内面を見つめ直したくなるような不思議な感覚になりました。

マスランカがスコアに寄せた4つの概念のうちの1つに「水:浄化、生命力」というものがあるとプログラムに記載されていましたが、私はこの楽章で「海」のイメージを強く感じました。
第4楽章の序盤の静かな部分で演奏されるハープの音色や、中盤でクラリネットによって演奏される『シェヘラザード』を思わせるようなフレーズがそう感じさせるのでしょうか。

第4楽章終盤で再びナレーションが入り、再び静かな音楽が続きます。
この部分のクラリネット、ピアノ、そしてアルトサックスのソロも非常に印象的でした。

曲の最後は消え入るようなピアノの音で閉じられました。
息をするのも憚られるような緊張感でしたが、指揮者の大井さんがゆっくりと頷いたのを合図に客席から大きな拍手が送られました。

マッキー回の『フローズン・カテドラル』のときも思いましたが、空気を読めないフライング拍手などが無いのはとてもありがたいですね。
(オケの演奏会で余韻を味わえないフライング拍手に何度あったことか…)

総括

普段聴く吹奏楽の楽曲とは異なる、どこかスピリチュアルささえも感じさせるような楽曲でしたが、生で聴けて本当に良かったです。
技術的にというよりも精神的な負担が大きい楽曲だと思いましたが、この曲を演奏してくれた大井マエストロとTKWOの皆さまに感謝です。

今まであまり試してこなかったなかのZEROの1階席で演奏を聴いたのですが、1階席と2階席どちらが良いかは悩ましいところです。

2階席で聴いたマッキー回を思い返してみると
1階席:2階席が被らない席(中央列だと17列目あたりまで)であれば音響は悪く無さそう、舞台全体を見渡すのには向かない
2階席:舞台全体を見渡せるが、ソプラノサックスなど一部楽器の音が飛んでこない
という一長一短なイメージです。ホールの改修で音響なども良くなると良いのですが…。

演奏以外の部分で気になったのは、途中にも書いた客席側の集中力ですかね。
第3楽章の演奏中と第4楽章終盤のナレーションのタイミングでの集中力切れが顕著でした…。

ナレーションの部分はオペラの公演などでよくある「日本語字幕付き」というような形式(舞台の端などに置いた装置で日本語字幕を表示する)だったら客席の集中力も持続できたのかな?などと考えてしまいました。

ナレーション関連でもう1つ触れると、会場配布されたプログラムには序文のマーウィンの詩が原文で掲載されているものの、日本語訳の併記は無し。

YouTubeの吹奏楽カフェでの解説の中で大井マエストロと中橋愛生さんが「日本語訳があっても分からないかも」「正直難解な詩」「意味を考えてはいけない、単語から感じ取る詩」とは仰っていたものの、プログラムには日本語訳をつけて欲しかったというのが正直な感想でした。
(権利関係などの都合で難しいのかもしれませんが…)

また、SNS上でも何人か触れている通り確かに客席は寂しい状況ではありましたが、このプログラムはTKWOにしか出来ないと思っているので今後もこの路線で頑張って欲しいと思いました。

第168回定期も知らない曲が並んでいますが極力伺うように予定を調整したいと思います。

会場にはマスランカ・チクルスVol.1のプログラムの掲示もありました

いいなと思ったら応援しよう!