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マガジンスタンドを0.6mmノズルで作る実験


(2022/5/8加筆)

職場の休憩コーナーのラックに、勝手に自分が購読している雑誌を置いてあります。学会誌、Mickowave Journal、ハーバードビジネスレビュー、プレジデント等々。積読や陳腐化して廃棄される前に誰かの目に留まるといいな、という思いで置いてあります。多少角度はつけてあるものの、ほぼ平置き状態で、近づかないとどのような雑誌があるのかがわかりにくい状況です。ということで、マガジンスタンドを作ることとしました。
雑誌によっては重さがあること、大きさもA4程度のものが多いので、PrusaMini+のプリントサイズ(18cm角)に入る最大サイズで作ること、造形制度は求めないので、0.6mmノズルを利用して高速化することを目指しました。(途中から)

実験条件

目的:0.6mmノズルの使いこなし
   職場においてある雑誌類を見やすくするスタンドを作る
   大型のものをPrusaMini+で制作する
実験日:2022年4月18日~24日
実験環境: 3Dプリンタ Prusa Mini+
      ノズル:0.6mm
      ノズル交換時期:2022年2月10日
      フィラメント: Overture White PLA / Silk White
              RepRappter Black PLA

実験条件

Fusion360でのデザインコンセプト


気を配ったのは、雑誌の大きさより小さい印刷エリアで、多少重い雑誌までを支えられるようにする、学会誌などペラペラのものも立てられるようにすることです。

初めは0.4mmノズルでうまくいっていましたが、時間がかかることから0.6mmノズルに変更しました。そうしたらトラブルの嵐。何度もレイヤーがずれて週末に約2kgのフィラメントを無駄にしました。

初期バージョン

デザイン

第1試作はこんな感じ。180mmの寸法を最大限に使っています。

上から見たところ
横から見たところ
正面からみたところ


スライス

かなり肉抜きはしたつもりですが、8h27mプリントに要します。この時のノズル径は0,4mmです。

試作結果と考察

プリントした結果がこんな感じです。適当にとった写真なのでシルエットが移りこんでいることは勘弁してください!

マガジンスタンド前面
雑誌を載せたところ。今どきのネタです。
背面。もう少し高さがあると、上のほうが垂れてこないとは思いますが、この形状だと限界かな

まぁまぁの出来だと思います。ただし、印刷に時間を要するのがネックです。ということで、0.6mmノズルで印刷してみました。
結果がこちら。いきなりこんなことに。

Spaghetii探偵さんは、スパゲティができていないのでおしえてくれません、残念。

このあと、何度もプリントを繰り返します。たまたまうまくいかなかったのかとはじめはたかをくくっていたのですが、どうやらそうではなさそうです。3度目の正直でプリントに成功した以降、苦戦が続きました。

時間は右から古いものになります。上に示した例が真ん中のものになります。左側が0.6mmノズルに変更して初めて成功したものです。

さらに失敗を繰り返します。なぜこんなにレイヤシフトが発生する?

最後までプリントしているのは、放置されていたためで、途中で止めているのは、外出先などで念のためチェックすると失敗しているのでリモートで止めたものです。それにしても、外出先で止められるのは便りです。リモートで失敗作やプリント済みのものを外して再プリントできれば最高なのですが。
これを見ていただくとどれだけの失敗を繰り返したのかがわかります。

実は、途中でいろいろと試行錯誤をしています。
まずデザインにおいては(その前に失敗をなんとかしろよ!)、0.6mmノズルで初めてうまくいったデザインの雑誌を載せる部分の積層が荒いのです。斜めった部分ですのでしょうがないのですが。ということで、立てるデザインもしました。

雑誌を載せる部分の積層が荒い

傾ける必要がありますので、雑誌を載せる部分、本体部分を垂直に立てるようにしましたので、土台の下部にサポートが付いています。もともとプリント時間短縮を目的に0.6mmノズルにしたわけですが、プリント時間は8h27m(0.4mmノズル)→5h53m(0.6mmノズル、0.4mmと同じデザイン)→7h54m(0.6mmノズル、配置を変更)と印刷時間が稼げなくなってしまいました。理由はサポートが追加されたためです。さらに、サポートとブリッジ部分(作品の底面)の境目がわからなくなる、サポートと思って剥がしていたら実は底面の一部だったという結果になりました。失敗作の嵐だったのですでに本失敗作は手元にありません。実験結果を残していないというのは、実験として失敗ですね。

取り外せないサポート?本体がはがれる?プリント時間が延び、0.6mmノズルを使う意味なし!

もっとどうでもよいデザインとして、背面のハニカムデザインを細かくしたことです。何となくバランスよく配置しようとしても、ハニカムの個数が少なくて納得いきませんでした。本当にどうでもよいことです。

レイヤシフト原因の調査

レイヤシフトの原因をまじめに調査しました。Prusa Community JAPANでkitanoさんから教えていただいた本をチェックしてみることにしました。こちらがそのForumです。

3Dプリンタ関係の動画を流し見していて、以前書籍を購入していたことを思い出しました。思い出したきっかけの動画はこちら。

Kindleで購入しましたが、現在はkindleUnlimitedに加入するか紙の書籍しか購入できないようです。

こちらの書籍にかかれていることは以下の通り。

  • ベルトテンションの確認。そういえば、ベルトテンションはたまに確認する必要がありましたがすっかり失念していました。X軸、Y軸のテンションを確認しました。

  • フレームねじの確認。使用しているうちにフレームを固定するねじが緩むことがよくあるそうです。そこで、ねじが締め付けられているか確認しました。

  • レイヤ高さが高いときには、コーミングをオフにする

  • ベアリングを交換する

  • スピードを落とす

ベルトテンションを確認し、X軸のベルト上側のテンションを高めました。フレームねじは緩んでいないことを確認しました。コーミングをオフにしました。ベアリングは交換しようと注文トライ中ですが、カード会社に止められているので、解除してもらわないと購入にこぎつけません。スピードは落としたくないので(どこまでおとすべきかの模索に時間がかかりすぎると思い、こちらの調整は避けたい)ほかの方法で解決することを目指しました。そしてたどりついたのはこちらの可能性です。

“Parts Being Knocked Over”

Aranda, Sean. 3D Printing Failures: 2022 Edition: How to Diagnose and Repair ALL Desktop 3D Printing Issues (p. 298). Kindle Edition.

プリントしたばかりの箇所にぶつかることにより、レイヤがずれているのではないかとのこと。知らないうちにずれているのが気になったので、ずれる瞬間を見てやろうと見張りました。観測の結果、やはりプリント済みの部分にノズルがぶつかっています。

先の文献の”Parts Being Knocked Over”の項を見ます。

Parts Being Knocked Over

Aranda, Sean. 3D Printing Failures: 2022 Edition: How to Diagnose and Repair ALL Desktop 3D Printing Issues (p. 347). Kindle Edition.

すると、有効な手段として以下のものがあります。

  • Proper bed adhesion

  • Adding a Z-hop

  • Turn combing off

特に、レイヤ高さが高いときにはZ-hop(PrusaSlicerの場合には、リフトZ)を上げることが有効とのこと。筆者はレイヤ高さと同じにしているそうです。今回はレイヤ高さが0.4mmでしたので同様のリフトZとしました。
この実験をしているときに、麦茶さんのYoutubeライブがありました。そこで、この問題についてチャット欄で質問してみました。
ノズルがプリント済みの箇所にぶつかるとすると、いくつか可能性があるとのこと。

  1. ファンの風量が十分ではないため、冷却ができていない

  2. ブリッジに適切なサポートがないために、反りあがってしまう

  3. リフトZが十分でない

1は、十分冷やすためにはクーリングの閾値を変更するのがよいとのことでした。具体的には、”レイヤーの印刷時間が以下の場合はファンを有効にします”のことだと思います。
2についてはその通りだと思いました。さきほどの動画をよく見ると、ブリッジの外側が反りあがっていることがわかります。そこにノズルがぶつかっているのです。とはいえ、サポートを増やすとプリント時間が延びるのでしたくありません。
そこで3にもあるリフトZを上げることとしました。すでに、0.4mm(レイヤ高さ)にしていましたが、0.6mm、1mmと上げていきました。1mmにしても特に問題がなかったため(糸引きは多くなりましたが)1mmにしました。

調整後バージョン

バージョン1

調整後の1つめはこちら。ハニカムのある部分は斜めの構造のものです。こちらのプリント時間は7h26mです。プリント時間は短縮できていません。

プリント結果はこちら。

実は、こちらはリフトzがまだ0.6mmのものでした。表面が少しがさついているのはそのせいもあるのでしょうか。また、一部わずかにレイヤずれがあります。

表面ががさがさしている部分を拡大したのがこちら。

わずかなレイヤずれはこの部分です。

バージョン2

次のバージョンはこちら。リフトZを1mmにしています。印刷時に斜めになる箇所を減らしています。(ハニカム以外)。印刷時間を減らすために、インフィルも0%にしています。

レイヤシフトはなくなりました。

しかし、前面が浮いているので何となく安定感が不足しています。

バージョン3

その部分を追加するようにした、最終バージョンがこちら。印刷時間は5h0mです。帰宅後にプリントすると、朝2つ出来上がり、朝2つ仕掛けて出勤すれば一日4つできる計算になります。


最後考察

非常に細かいところですが、バージョン1とバージョン2では仕上がりに違いがあります。

バージョン1では、ハニカムの水平方向(近く)の部分が傾いていました。なので、こんな感じでスライスされます。

一方で、バージョン2,3では同様の箇所が線状になりますが、レイヤの分解能との関係でこのような隙間が空きます。

焦点が合っていないのでわかりにくいのですが、こちらがバージョン1。

こちらがバージョン3になります。

ということでまだつめるべきところはありますが、ある程度の高速性を担保しつつある程度の品質を得ることができました。そもそも雑誌を立てるとみえなくなる部分ですので、良しとしましょう。
あと、高さがもう少し欲しいところです。
アタッチメントで高さを出すようにしようかとも思っています。非常にシンプルな作りながら、0.6mmノズルの使いこなし(なのか、無理にハニカムをくみこんだからなのか)に苦慮しました。でも、ひとつ勉強になりました。
近いうちにデザインをPrintableにアップします。
デザインをPrintableにアップしました。(202/5/8 修正)


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