上原 果
就活と大学の卒業制作に苦しんでいた2021~今年をメンタル面で支えてくれたコンテンツがある。それはゲーム「龍が如く」だ。 最初は実況動画から真島吾朗を知り、そのうち…
今年、わたしは無事に大学を卒業した。 けれど、就職はできなくて、そこだけ無事じゃなかった。これらの短歌はいちばん憂鬱だった時期に詠んだもの。 履歴書に書けないこ…
黒いチュールレースのフリルに彩られたドレス。私はそれを抱えて部屋に入った。 「新しい服ができたから。今日これ着てよ」 暗闇の中でかすかな息づかいが聞える。私は壁…
「壺を殺処分してください」 一瞬、耳を疑った。婦人は即座に紫の風呂敷を受付カウンターに広げると、本当に壺があらわれた。龍が描かれた青磁の壺は素人目でも、たいそう…
雪がちらつく。風が宙の雪をプラットホームに押し込む。 「まもなく高校前行きが発車いたします」 雪の日はやけに音が良く響く。背後の電車は多くの人を吞んで、プシュ…
獣のうなり声のようなパトカーのエンジン音が、最上階のスイートルームまできこえてきて、もう潮時だな、と貴方は言った。 「脱出ルートはある。そこから逃げよう」 この…
午前零時の中華料理店「蓬莱」は、すでに閉店をむかえた。最後に残った私が出入り扉、窓の施錠もした。それなのに、どうして。窓の席に少年が座っているのだろうか。隠れ…
※演目のネタバレ含む。閲覧注意。 前々から、京劇に興味があった。衣装のさばきやシナのつくりかた、コスプレが趣味な私だから、あの目の周りのほのかな桃色の化粧に惹…
霧のような雨が降りしきる日だった。いつもの時間に店は開けたものの、こんな日に着物を借りて鎌倉で遊ぶ客がいるわけがない。着物レンタルショップ「あや」の店内は、時計…
結婚指輪を売った金でチャイナ服を買った。裾の丈が長いやつじゃなくて、ジャケットだけれど、非日常な格好は不安定な心を少しだけ軽やかにしてくれた。 五時にもなれば…
2023年11月27日 23:14
就活と大学の卒業制作に苦しんでいた2021~今年をメンタル面で支えてくれたコンテンツがある。それはゲーム「龍が如く」だ。最初は実況動画から真島吾朗を知り、そのうちコントローラーを握って画面内でヤクザを倒すようになった。じつを言うと、いままでテレビゲーム自体をプレイしたことがなかった。あまり興味がなかった。と、いままで人に言ってきたが、実際のところ人と違うことをしたくて、あえてゲームに興味が
2023年11月27日 22:47
今年、わたしは無事に大学を卒業した。けれど、就職はできなくて、そこだけ無事じゃなかった。これらの短歌はいちばん憂鬱だった時期に詠んだもの。履歴書に書けないことが多いんだ英検四級やそれ以下のこと建前を諳んじつづけた就活期 抑圧の本音 じんましんになる万人の千尋あらわる春先だ ここで働かせてください肩書きがなければ昼の桜すらあおぐことすら罪悪おぼえほかにもいろいろあるけれど、とく
2020年2月29日 17:36
2020年2月29日 17:11
2020年2月10日 23:57
2020年2月10日 23:14
2019年12月31日 02:01
黒いチュールレースのフリルに彩られたドレス。私はそれを抱えて部屋に入った。「新しい服ができたから。今日これ着てよ」 暗闇の中でかすかな息づかいが聞える。私は壁を手探って、明かりのスイッチを入れた。天井から垂れ下がる白熱電球がパッと光が灯る。ウィスキー色の室内にひとつ置かれた赤いソファ。その上に寝転がる彼女は、うぅんと唸り腕で目元を庇った。もう学校に行く時間なのに呑気な奴だ。ほら、起きてよ、と私
2019年12月31日 01:33
「壺を殺処分してください」一瞬、耳を疑った。婦人は即座に紫の風呂敷を受付カウンターに広げると、本当に壺があらわれた。龍が描かれた青磁の壺は素人目でも、たいそうな値がつくように思われた。「しかし、ここは保健所ですよ。犬猫の処分なら、お話をうかがわなくてはなりませんが、ゴミは受けつけかねます」けれど、私が言い終わらぬうちに婦人は「私にもどうしたら良いのかわからないんです」と、声をあげた。鼻水
2019年11月19日 21:22
雪がちらつく。風が宙の雪をプラットホームに押し込む。「まもなく高校前行きが発車いたします」 雪の日はやけに音が良く響く。背後の電車は多くの人を吞んで、プシュウと荒い鼻息を立てた。乗らなければならない電車。一時間目まであと三十分もない。早くしないといけないけれど、そうしたらば、今日も型通りの一日がぼうと流れていく。「ドアが閉まります。ご注意ください」 自分の中の常識が「立て」と尻が冷えるベ
2019年10月22日 22:27
獣のうなり声のようなパトカーのエンジン音が、最上階のスイートルームまできこえてきて、もう潮時だな、と貴方は言った。「脱出ルートはある。そこから逃げよう」 この日を想定して厨房の床下に通路つくったんだ。そこから逃げれば、奴らをまくことなんて簡単だ。けれど、貴方はベルベットソファに沈めた腰を上げようとしなかった。酒の密造、賭博、血嵐吹き荒れる抗争。今までのすべてに、もううんざりだと、葉巻ののぼる煙
2019年10月22日 21:34
午前零時の中華料理店「蓬莱」は、すでに閉店をむかえた。最後に残った私が出入り扉、窓の施錠もした。それなのに、どうして。窓の席に少年が座っているのだろうか。隠れていたのか。それはない。戸締りをしたあとにモップがけをしたが、人が隠れている気配すらなかった。もし隠れていたとしても、冷蔵庫の中を確認している短い間に、音もなく席に着くのは不可能だ。「霊」の一文字が頭をかすめる。とっさに厨房のかげに隠れた。
2019年10月14日 19:40
※演目のネタバレ含む。閲覧注意。 前々から、京劇に興味があった。衣装のさばきやシナのつくりかた、コスプレが趣味な私だから、あの目の周りのほのかな桃色の化粧に惹かれるものがあった。動画サイトでそれらをつぶさに見て回ったけれど、どんなものでもそうだけれど、やはり液晶を隔てない、同じ空気の中で感じるものが一番だった。 「京劇」の最初の印象は、「中国の古典をあつかった、お堅い芸能」だった。けれど、
2019年10月9日 19:55
霧のような雨が降りしきる日だった。いつもの時間に店は開けたものの、こんな日に着物を借りて鎌倉で遊ぶ客がいるわけがない。着物レンタルショップ「あや」の店内は、時計の音だけが響き渡っていた。全部の着物、虫干しだな。カビが生える。「だから雨は嫌いなんだ」店の奥の座敷に引っ込んだ店主の瑠璃は、窓を伝う水滴の流れを目で追った。膝の上には、長襦袢が広がっている。さっきまで半衿をつけかえようと無心に針を動
2019年9月16日 01:31
結婚指輪を売った金でチャイナ服を買った。裾の丈が長いやつじゃなくて、ジャケットだけれど、非日常な格好は不安定な心を少しだけ軽やかにしてくれた。 五時にもなれば、帰宅の足取りが駅構内を埋め尽くす。改札を抜ける人々の流れに逆らって、私はただぼんやりとフラフラと、足を動かしているだけ。時折、肩にぶつかる人は、この格好をいぶかしそうに物珍しそうに、好奇な目を向けて行き去っていく。家に帰って夕飯の準備をし