![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/158148562/rectangle_large_type_2_28c45cbaf59b6664cf84ebc88a9d54cd.png?width=1200)
つながり②
②
そんな昼と夕の境目くらいのひとときでした。
そこは普段から利用している最寄りの駅から都市に向かって数駅はなれたi駅でした。
H少年がかつて降りたことのない駅でした。
いつだって記憶なんぞは頼りなく、おぼろげで、人影のように移り変わるから、そこはi駅からほんの直ぐのところなのか、えらくと離れたところなのか、よく思い出せないのでした。
そもそも自分の家と変わらぬような最寄り駅と隣のK駅ほどの僅かな守備範囲を飛び出したのはいつだっただろう。
ひとり、小さな大冒険をするように降り立ったのはいつだったのだろう。
たしかに存在したはずなのに、やっぱり思い出せません。
それは13才の夏休みだったかも知れません。
不思議なことに山のどこからか、生ぬるい潮風の香りがしていたような気がします。
「ちょっとK駅に行ってくる」
「何しにいくの?」
という返しが聞こえないうちに素早く、音の立つ引き戸を静かに閉めて、H少年はいよいよ家出をしました。
逃げるように早足だった。
いったい何から逃げているの?って。
そんなこと言いたくないけど、とにかく遠くへ。鼓動を早めながら、ここから一番遠いところまで行きたいと、真面目にそう思った。
「ライ麦畑でつかまえて」みたい。
「一人ぼっちスタンドバイミー」みたい。
ちょっとカッコいいよな。