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切ない想い
わたしが通っていた小学校は木造校舎だった
わぁ風情あっていいわね、そんな呑気なもんじゃない
今から半世紀以上前の昭和の
ド僻地にあった時代遅れの木造校舎
体育館の床に座れば
巨大なささくれがお尻に突き刺さる
そんな恐怖の校舎
トイレはご多分に漏れずの
ぼっとん便所、だった
(存じない方は調べてね)
この自分の背丈より
ずっとずっと深い穴を見るたび
恐怖で足がすくんだ
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さて、そのぼっとん便所の窓からは
汲み取り口が見え
その汲み取り口付近に
タチアオイが群生していた
大嫌いなぼっとん便所の
大嫌いな汲み取り口に群生する謎のはな
それだけで嫌う理由は十分だった
梅雨時になると
このタチアオイが大量に伸び始め
じゃんじゃんはなをつけ始める
その姿がどうにもこうにも
気持ち悪く大嫌いだった
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淡い光の北東北は
はなの色も淡いものが多い
そんな中
このタチアオイは
強烈に強い色を放って
淡くて穏やかな植物に囲まれて育った
わたしの目にはただだた気持ち悪かった
トイレに行くたび
窓からタチアオイをじろじろ見ては
きらいきらい、大きらい
ジャッキりした立ち姿も
はなのつき方もカタチも大きさも
葉のつき方も下から順に咲くのも
茎ににゅとついてるつぼみも
ぜんぶぜんぶ気持ち悪い
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赤もピンクも白も色が濃すぎるんだよ
キライキライ、大っキライ
と
ひたすらじろじろ見ては
キライポイントを挙げていた
…植物をじろじろ見て
姿を見ることに長けてるのは
この頃から大いにあったのね、きっと
トイレの汲み取り口⇒汚いところ
汚いところに大量に咲いてるはな
⇒汚い
小学1年生のときこのはなを
『べんじょばな』と命名し
6年間がっつり観察しながら嫌い続けた
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高校生になったある日のこと
父と祖母が
「あそこに咲いてるムクゲなんだけど」と
急に言い出した
(父と祖母はタチアオイとムクゲを混同していた)
傍で聞いていたわたしは思わずココロの中で
「ええっ?べんじょばなってムクゲっていうの?」
(いや、べんじょばなはアンタが勝手につけた名前)
そしてまたときは過ぎ
ハイビスカス、
なんてかわいらしいのも鉢植えとして登場
あるとき黄色のハイビスカスの鉢が
売られてるのを見つけ
「あらまーかわいー」などと思っちゃった
思っちゃったんだけど
次の瞬間
「ぬぬ?お主もしやべんじょばなのお仲間なんじゃ?」
慌てて本屋へ駆け込み図鑑で確認すると
…ぺんぽんでした
このタチアオイ
アノ徳川家の紋
『アオイノゴモン』の葵のお仲間
つまり
どちらかというと高貴グループに所属してる
けどね
三つ子の魂百までで
ワタスのなかではいまでも
べんじょばな、のままだ
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タチアオイの一番上のはなが咲くと
梅雨が明ける、なんて言われたりしてる
梅雨は明けたようだ
今年も熱風にタチアオイが揺れている
なんともいえぬ
ヘンテコリンな気持ちを抱え
今日もべんじょばなを見ている
🐇
いけばな教室 西宮
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