傘をどうぞ
私の中には
虚像の私は存在しない。
夢見る夢子で生きていられなかったからだ。
どの年齢の私も
現実の私で生きていた。
それは時に
大人びた、とか
現実的だ、とか
冷めている、とか言われた。
私はそれで苦しまなかった訳じゃない。
彼女の様にきゃあきゃあと
戯言を言ったら楽しいのだろうか。
あの人の一堂一挙手に憂いたり
浮かれたりしたら楽しいのだろうか。
その苦しみは
今の私に"傘"の様に
降りかかる雨粒から私を守ってくれる。
"よくグレなかったね"と
進学塾の先生に言われて、
"私はグレるべきだったのか"と
本気で焦った。
でも悲しいかな、呼吸器系が弱くて
私が生まれたのをきっかけに
父もタバコを辞めたくらいだ。
14歳の私は、進学塾を辞めた。
グレていない私も居場所が無かった。
始めから弱者で生きてきた。
こうなるべき私
こうでなきゃいけない私もない。
私はわたし。
あくまで"私"しかない。
だから、ギャップもクソも無い。
自己肯定感が高いのは
虚像の私が無いからだ。
ああなるべきだった私とか
そんなものが無い。
プライドも、ビーサンくらいの厚さでいい。
あまり高けりゃ捻挫しかねない。
それくらい不器用な私だから
それで良い。
もし、
今の自分が
こうじゃない
本当の私はこんなんじゃ無いって
苦しんでる人が居たら
私は傘を出す。
雨に濡れて
その冷たさを感じるのもありかも知れない。
雨に濡れた感触を
肌が知るのも必要かも知れない。
けれど
風邪を引かない様に
雨の冷たさなのか
人の冷たさなのか
分からなくなる前に
私は傘を差し出したい。
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