文極キャス20190507【野ばらの園に沈むを望みて】

鉄線の丘を越えて
行き着く花の園にて


人の味のしない風が
乾いて冷たい地面を撫ぜ
水中花の聞く音を
砂の下のスピーカーが再現する

足元の砕けたガラス
血も吸わない優しい欠片は震え
響きは下から上へ静かに波打って進む

命の灯りをうつした淡い花弁が囁く
あなたには水が必要だけれど
私には涙と唾液しかない

その2滴を舌下に落とし
指へと絡む魔法の気配

雨をと祈ればそれは訪れる
触れることの叶わぬ宙に描かれた絵として

雨の絵に囲まれて
雫は水琴窟の奥で呟く

手を引かれて歩を進める
一歩 二歩
ひどく着実なそれを繰り返し
雨の音を背で聞く頃

お帰りなさい
襟元で同じ声が囁いた

もう一度
おかえりなさい


全てが消えた橋の上で
私は目を開ける

初夏を目の前に
肌寒く強い風に吹かれて


吐き出す
まだ 早い と



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