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ハードゲイナー

昔から、何をどれだけ食べても太らない。
女性にそう話すと大概羨ましがられるのだが、「太れない」のもなかなか大変なのだ。筋肉隆々のからだにあこがれ、しばらく筋トレを続けたこともあったが、結局、目に見えて筋肉がつくことはなかった。
最近、そのような「太れない体質」がきちんと定義されていることを知り、同じ悩みを持つ人が意外にもこの世にたくさんいるんだ、とどこか安心した。


昔から身長は高い方だった。
小中学の全校集会などでクラスごとに列をなすときは、必ずいちばん後ろだった。成長期、身長はどんどん伸びるのだが、なぜか体重はあまり増えなかった。上にばかり伸びるので、健康診断の結果表には、毎回「痩せすぎ」と記されていた。健康診断の結果表には、身長と体重から算出されるBMIと呼ばれる数値が記されている。この数値が18.5未満だと、備考欄に「痩せすぎ」と記されるのである。

この年になると考えられないが、小学生の頃は健康診断の結果をなんのためらいもなく見せ合っていた。みんなは備考欄になにも書かれていないのに、自分だけ「痩せすぎ」と書かれていて、それがとても恥ずかしかった。この頃から自分は他の人と違って、痩せすぎているんだと認識するようになった。

成人して働くようになったあるとき、筋肉をつけようと筋トレについて調べたことがある。
本当かどうかはわからないが、見たサイトには「脂肪が筋肉に変わるから、脂肪がない人はまずは脂肪をつけろ」と書かれていた。その情報を鵜呑みにした当時の自分は、スポーツ用品店に走った。「何をどれだけ食べても太れないのなら、プロテインを飲みまくって全く運動しなければいいのでは?そうしてついた脂肪を筋トレで筋肉に変えていけば、あこがれのムキムキの体になれる…!」と思ったのだ。

プロテインって高価なものなんだな、と思いながら、缶に入ったプロテインとシェイカーを買った。その日から毎日、プロテインを飲み、横になりながら読書する日々を送った。水分を飲んでいるはずなのに腹に溜まる感覚に気持ち悪さを感じながらも、1ヶ月くらいかけてひと缶分のプロテインを飲み干した。だが、全く体重に変化がなく、太ることを諦めた。

今現在、身長は180cmを超え、体重は60kgほどしかない。よく言えばスタイルがいい、悪く言えばガリガリと呼ばれる体型だ。別に、食べる量も一般男性と変わらない。むしろ、誰かと食事を共にすると「よく食べるね」と言われることが多かったし、自分でも人より食べる方だと自負している。なのに、なぜか太らない。

つい先日、自衛隊に所属し、「気をつけ」しても腕が胴にぴたりとつかないほど筋肉隆々の友人と話す機会があった。その友人に「昔から筋肉もつかないし、脂肪もつかないんだよね」と話すと、多分生まれ持った体質だね、と教えてくれた。

筋肉も脂肪もつきづらい体質の人は「ハードゲイナー」と呼ばれるらしい。反対に、太りやすかったり筋肉がつきやすい人は「イージーゲイナー」と呼ばれるという。(ハードゲイ…?)と頭の上にはてなを浮かべながらよくよく聞くと、どうも胃腸のはたらきが悪く、栄養をうまく吸収できない体質のことをいうらしい。単純に摂取カロリーが消費カロリーを上回れば脂肪がついていくのだが、胃腸のはたらきが悪く、摂取カロリー<消費カロリーの状態なのだという。そのあとも友人は筋肉について熱く語り、最後に「まあ、要するに燃費の悪いからだだな」と結論づけられ、その話は終わった。


今はもう完全に、無理に太ることや筋肉をつけることを諦めている。
「痩せすぎ」の体型にコンプレックスを抱いていた時期もあったが、幸いこれまで大きな病気にかかったこともないし、特段困ったこともなく生きてきた。蓄えがないから、がんに罹ったら真っ先に死ぬぞとだれかに言われたこともあるが、どうでもいい。自分の「燃費の悪いからだ」を悲観する気持ちはもうない。逆に、なんでも好きなものを好きなだけ食べられる!と希望に満ち溢れている。というと大袈裟かもしれないが、友人の助言で、生きていく上での悩みをひとつ解決できたような気がして、どこか清々しい気分でいる。


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ヤサグレフクロウ
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