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下北半島を巡る旅 〜恐山〜

先週、挙式に合わせて4日間の連休をもらった。
挙式後の2日間、めずらしく妻と休みを合わせられたので、新婚旅行でもないけど、一泊二日で少しだけ遠出してきた。

コロナのこの状況で県外に行くのは控えたかったたので、同じ県内でも普段は気軽に行けず、さらにこれまであまり行ったことのないところはどこか、と考えていると、本州最北端の半島、下北半島が思いついた(住んでる県がバレた)。

6月中旬はちょうど「うに」が獲れはじめる時期である。大間から少し南下したところに、毎年「うに祭り」が開催されるほどうにで有名な佐井村という村がある。今年はコロナの影響で祭りは中止となったが、この佐井村でうにをたらふく出してくれると噂の民宿に泊まることにした。お互いうにが大好物なのだ。

さらに、下北半島には霊場恐山や仏ヶ浦など、「非現実」を味わえるようなスポットが点在している。このような景勝地も二人とも好きなので、下北半島は今の時期、一泊二日で行けるうってつけの場所だった。すぐに民宿に予約の電話をした。県内在住であれば宿泊可能とのことだったので、到着予定時間を伝え部屋をおさえた。

さて、目的地である佐井村まで車で4時間かかる。
ここから車で4時間といえば、宮城県仙台市あたりまで行けてしまう距離だ。
交代で運転しながら1日目は恐山経由で佐井村を目指し、佐井村の民宿でうにをたらふく食べて、2日目は仏ヶ浦を見て脇野沢経由で帰ってくる、という旅程を組んだ。

挙式が終わって肩の荷がおり、日付が変わるころまで深酒していたのにも関わらず、当日の朝は予定していた起床時間7時ちょうどに目が覚めた。何せ久しぶりの旅行である。修学旅行に胸を踊らせる小学生のような気分だった。

必要なものは全て前日にパッキングしていたので、軽く身支度を整えて8時に家を出た。昼頃にはむつ市に到着し、昼食を食べて恐山に向かう予定だ。

道中、道の駅に寄り道しながらも予定どおり12時にむつ市に到着した。
目星をつけていた食堂はなんと定休日。そこで、むつ市に詳しい知人に聞いていたおいしいと噂のラーメン屋でみそラーメンを食べることにした。

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同じ県内でもこれだけ離れていると味の好みが違うのか、これまで食べたことのない味だった。間違いなくもやし一袋分は乗っていたであろうラーメンをたいらげ、恐山に向かう。

むつ市内から恐山までは、車でおよそ20分。
山道を行き、恐山が近づいてくると、硫黄臭が車内に流れ込んできた。よく「腐った卵のにおい」と表現されるあのにおいが鼻を突く。

日本三代霊場恐山、恐山菩提寺は、カルデラ湖である宇曽利山湖のほとりにある。過去の火山活動でできた凹地に火山ガスが溜まり、一帯に硫黄臭が充満しているのだ。このにおいだけで異世界に来た感じがした。

小学生さながら、ふたりでくさいくさい言い合っていると、急に視界がひらけた。恐山に到着したのである。

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すぐに、三途川と記された石標と太鼓橋が目に飛び込んできた。

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その手前には奪衣婆と懸衣翁の石像。
人が亡くなって三途の川までやってくると、奪衣婆が待ち構えていて身ぐるみを剥がす。その衣類を懸衣翁が受け取り、柳の木の枝にかけ、その枝の垂れ具合で生前の悪業の軽重を推量するのだそうだ。そしてそのあと閻魔様に地獄に行くか極楽に行くか言い渡されるという。

硫黄臭だけでテンションぶち上げだったのだが、ますますやばいところに来た感がして、もう二人とも「うわあ…」としかことばにできなくなっていた。

太鼓橋の横にかかる橋を渡ると、広い砂利の駐車場に出た。車を停め、入山料500円を払い総門をくぐると、100メートルくらい先だろうか。巨大な山門が目に飛び込んできた。

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歩みを進めるごとに硫黄臭が強くなっている気がする。山門の大きさに見惚れながら歩いていると、妻が「あっ!」と声を上げた。

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指をさす方を見ると、山門の足元、両側に地蔵が立っていた。地蔵のまわりには石が積み上げられ、風車が供えられている。山門と硫黄臭ばかりに気をとられて歩いていたので全く気がつかなかったが、わずかな風を受けて、水子供養のための風車がカラカラと小さな音を立てて回っていた。

山門をくぐると、正面に地蔵殿。地蔵殿左奥には、さらに敷地が広がっている。

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地蔵殿から山門を振り返り撮った風景。右側の大きい屋根が山門。

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ここが地獄と称される意味がわかった気がした。
草木も生えず、石がいたる所に積み上げられていて、この世とは思えなかった。ほんとうに異世界に来たみたいだった。

積み石といえば、賽の河原だ。
三途の川の河原は、賽の河原と呼ばれる。親より先に亡くなった子どもが、親不孝の報いとしてこの賽の河原で石を積む。しかし完成する前に鬼が来て崩してしまうという。

石の山には名前の書いた石や、硫黄で腐食してしまった、生前遊んでいたであろうおもちゃが積み上げられていた。不気味だったけど、やるせない気持ちになった。後にわかったことなのだが、この石の山は地面から噴き出る有毒な火山ガスと空気を効率よくなじませる意味合いもあるらしい。

その石の山を崩さぬよう、間を縫うように進む。

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火山ガスの成分のせいか、黄色く変色している。

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しばらく進むと、はるか前方に巨大な地蔵菩薩が見えた。吐き気がした。
わかるだろうか。大自然の中に突如巨大な人工物を見ると、なぜか吐き気に襲われる現象。山の中の巨大なダムや、開けた場所にそびえ立つ風車を見ると、不安で胸がざわついてなぜか吐き気がしてくるアレ。

喉元まで詰まったもやしを戻さぬよう必死に堪えながら、その地蔵菩薩に近づく。八葉地蔵菩薩というらしいが、吐き気から説明を読む余裕も写真を撮る余裕もなかった。

振り返ると「極楽浜」と呼ばれる湖畔が見えた。地獄はもうお腹いっぱいだったので、足早にその極楽浜へと向かった。

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砂浜は真っ白で、湖は底が見えるほど透き通っていた。湖が2色に分かれて見えるのは「地獄」から硫化水素が流れ込んでいるかららしい。
「極楽」にしてはどこか少し寂しい感じがした。
天気が良ければもっときれいで、もっと「極楽感」があったのかもしれない。

妻と「ワンコインで天国と地獄を見れたと思うと破格だね」と話しながら来た道を戻った。そして、三途川を渡り無事にこの世に戻ってきた。たった数時間いただけなのに、山の緑が新鮮に思えた。

恐山は怖いとか行ったら霊に憑かれるとか、危険だとか言われているが、全くそんな感じはしなかった。逆に、悪いものが取れるような気さえした。怖いというよりは、寂しい感じがした。

服とマスクから硫黄臭を漂わせて、妻と「すごいもの見たね」と話しながら恐山を後にした。


つづく。



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