星野源が結婚を発表した日、ぼくは結婚式の延期を決めた
5月19日、星野源と新垣結衣が結婚を発表した。
世間が祝福ムードに包まれたその日、ぼくは以前から準備を進めてきた結婚式の延期を決めた。
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昨年10月、約3年付き合った彼女と結婚した。
新型のウイルス蔓延を気にかけ、結婚式を挙げるかどうか迷いに迷ったのだが、お互いの両親と話し合いを重ね、結婚から2ヶ月後の昨年12月、結婚式を挙げることに決めた。
年明け、市内全ての式場をまわり、見積もりを出してもらう。結婚式の現状なども聞いて一旦持ち帰り、予算や式場のコロナ対策について、妻と何度も話し合った。散々悩んだ挙げ句、「チャペルの一番きれいな式場がいい」という、鶴の一声ならぬ妻の一声で式場が決まった。
式場が決まってからは、招待者のリストアップ、衣装決めなど、プランナーに言われるがままとんとん拍子にことが進んだ。あまりにも淡々と決まっていくので「自分のことなのに自分のことではないような感じ」がして、ふわふわした気持ちで受け答えしていたことを覚えている。
正直、今この状況で大勢の人を集めて披露宴など催していいのだろうか、という思いもあり、本腰を入れて取り組めていなかった。挙げられるかどうか、半信半疑で結婚式の準備を進めていた。
4月、衣装を決めるため足繁く式場に通った。ああでもないこうでもない、と二人で喧嘩しながら決めた衣装を着て前撮りをした日、初めて「自分が結婚式を挙げるんだ」と実感がわいた。
この頃は県内の感染者も一桁台で推移していて、招待者どうし距離をとったり、マスクをしてもらったりなどの感染対策をすればどうにか開催できるだろうな、と思っていた。
5月に入り、招待状の送付が終わって式の準備がひと段落した頃、町の空気が一変した。ゴールデンウィークが終わったあたりから感染経路不明の陽性者がじわじわと増え、毎日二桁台の陽性者が出たと報道される。飲食店や学校でのクラスターも発生し、町の人たちも「どうもこれはまずいな」と思い始めたのか、出歩く人の数が目に見えて少なくなった。この頃から式の延期が脳裏をよぎるようになった。
招待状の返信の締め切りを5月19日にしていたのだが、どういうわけかゴールデンウィークを過ぎてもあまり返信のはがきが届かない。不安が募りはじめた5月半ば、ようやく返信のはがきが届き始めた。みんな、ぎりぎりまで様子をみていたのだと思う。
ありがたいことに、9割ほどの人が「出席」に丸をつけて返信してくれた。だが、「昨今の状況を鑑み、出席をご遠慮させていただきます」や、「行きたいのは山々だが会社が出席を許さないので行けない」と書かれた欠席のはがきも1枚や2枚ではなかった。
来たいのに来れない人もいる。
こんな状況で無理して来てもらうのも申し訳ないよね。
いつになるかわからないけど、落ち着いたら盛大に挙げよう。
式のちょうど1ヶ月前、5月19日。星野源と新垣結衣が結婚を発表したその日、ぼくは結婚式の延期を決めた。
挙げられるかどうか半信半疑で準備は進めてきたものの、延期が確定した今、とてつもない喪失感に苛まれている。 「逃げ恥」の二人が結婚を発表していなければ、この日は大半の人にとって特別な日でもなんでもなかっただろう。だが、ぼくと妻にとっては、披露宴の延期を決めた忘れられない日となった。
世は推しロス、余は式ロスである。
もうあかんわ。
※こちらの企画の応募作品です。
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