満開の春に
あんな表情をする母を、はじめてみた。
春爛漫の京都。晴れやかな青い空に舞う桜色。
「なんでわざわざ混んでる時期に……」
「いいじゃない。母さん、ずっと来たかったの」
中学生にもなって、家族旅行なんて恥ずかしい。気乗りしない私とは対照的に、春の陽気に浮かれた母はウキウキだ。
満開の桜の地に足を踏み入れたら、テンションは最高潮。仏頂面の私を何枚も撮影し、さらにはピンク色に染まった木の下で、父さんとのツーショットを撮れと要求してくる。
「ずいぶん、楽しそうだねえ……」
スマホに落ちる花びらを払う。写真の母は、どれも満面の笑みだ。
「だって、この桜の下で父さんとの結婚を決めたのよ」
さあっと風がふく。
「家族でくるのが夢だったの」
光がきらきらと舞った。
みんなで写ろう、と手招きする母。もうっ恥ずかしいなあ、と駆け寄る私。
まちがいなく春が、いまここにあるすべてを祝福していた。