風のうまれる場所
森にきた。
緑の世界に一歩足を踏み入れただけで、空気が変わる。人のいない静寂と、森が歌う声がする。
ざくざくと歩く。
湿った土に深い色をした苔が生えている。
課長の嫌味みたいにジメジメしてるな。
行く道にかかる枝葉をよける。
あのミス、私のせいじゃないのに。
朝露に濡れた落ち葉がつもる道はすべりやすい。
帰ったらメール、たまってるかな。
ここそこで、小鳥がさえずっている。
のど、かわいた。
木々が重なる緑のなかに陽の光が見える。
あれは、なんの木だろう。
大きな松ぼっくりが落ちている。
慎ましく白い花が道のわきにたたずんでいて。
私を、ものともしない森の生命力がまぶしい。
赤松の巨木が立ち並ぶ開けた場所にベンチがあった。さわさわと頭上の高い場所でこすれ合う葉の音を聞きながらペットボトルの水を飲む。
ひゅう、とひだまりから生まれたばかりの風が頬をなでていく。
森で、ひとりなんだ。
風は、少しだけ未来のかおりがした。