「ある詩(うた)」【埴輪紹介所その63】
彼の初めの舞台は消えてしまったらしい。
しかし近代、写真が発明され、彼は二次元の舞台を得た。
埴輪関連の本には必ずと言っていいほど彼の写真が載っている。
フォトジェニックな埴輪のなかでも秀逸な1体。
かつて『藝術新潮』のグラビアに載ったらしい。
それを見た武者小路実篤が「ある詩(うた)として、一寸(ちょっと)面白く思う」と書いた。
埴輪は詩で近代人を呼び止めた。そして現代人も呼び止める。
腰から下が欠けているせいもあって、たいていケース内に展示されている。
さみしいが、憂い顔が引き立つ。
ミズラのとれた跡がある。
腕もない。両腕がない。
胴は残った。短甲を着けている。丸い鋲が打たれている。
ちなみに、甲形埴輪のモデルは短甲。ちょうど左奥に映り込んでいる。
さらに奥に、鉄製の短甲がある。
人物埴輪が着けている甲のモデルはたいてい挂甲。
甲形埴輪と甲を着けた人物埴輪とは、作られた時期が違うことをうかがわせる。
甲形埴輪のほうが早い時期に作られたらしい。
というわけで短甲を着けた人物埴輪は珍しい。
なぜ短甲なのか? 過ぎし時代への憧憬?
弔いとはそうしたものか。
冑は衝角付冑。こちらにも丸い鋲。
埼玉県熊谷市上中条出土の男子埴輪。現存部の高さ64.2㎝。
所蔵は東京国立博物館。
重要文化財に指定されている。納得。
撮影は2017年、2020年6月。
またね。
いいなと思ったら応援しよう!
お読みいただきありがとうございます。サポートいただきましたら、埴輪活動に役立てたいと思います。