Monsters Of River & Rock 抜粋訳
アイアン・メイデンのギタリスト、エイドリアン・スミスの自伝【Monsters Of River&Rock】から、アメリカではじめて鯉を釣ったエピソードを。この本、Hの釣りバカ日誌と私は呼んでいますw
…皮肉なことに、アイアン・メイデンに加入したことで、釣りへの情熱が再燃した。
ドラマーでありルームメイトでもあったクライヴ・バー、ー彼は熱心な釣り人であったー と時々水遊びをする程度のデイヴ・マーレイ、そして僕の3人はツアーのオフの日にはどこか釣りができるところがないか、連れだって探しに行くのが常だった。
ウィスコンシン州、アルパイン峡谷、そこは僕が人生で初めての鯉を釣った場所だ。
その日まで僕は米国に鯉がいるのかどうかさえ知らずにいた。
当時、バンドは最新アルバム「The Number Of The Beast」を引っ提げてスコーピオンズのオープニングアクトとして米国をツアー中だったが、アルパイン峡谷でのオフの日、滞在していたホテルの裏に小さな川があったので僕とクライヴは二人して川を見に行った。
川幅はかなり狭く、深さもあってとても良い感じなのがわかり、食指が動く。流れが強く、渦を巻いたりプールになっている箇所もある。
しかし、釣りは許可されているのだろうか?
「釣り?私たちの“小さな古き川”で?」
ホテルのフロントの女性が言った。
「そうね、釣りをしたければどうぞ。でも、あそこには大きくて汚い鯉がウジャウジャしてるだけよ!?」
彼女はそう叫んだ。
その頃、アメリカでの鯉は「ゴミ」扱いだったのだ。今でこそ、ウェイン・ブーンやアメリカ鯉の会などの組織のおかげでその種に敬意が払われるようになったが。
ともかく、鯉がそこにいるという言葉は英国から来た男どもには音楽のように鳴り響いたのである。
早速、クライヴ、デイヴ、僕の三人はシアーズデパートへ釣り用具を調達しに行った。シアーズはアメリカの偉大なる伝統の中で大規模小売店の先駆者である。
そこではなんでも買うことができる ー綿菓子からオートマチックライフルまで、何でもあるのだ。
僕らはいくつかの道具を調達することができた。母国に備えてある道具に比べれば若干性能が落ちるものであったが。実際、そこでは「釣り道具セット」なる釣り竿とリールなどがセットになってプラスチック袋に入ったものも売られていた。
クローズドフェイスのリールに頑丈な釣り糸。これさえあれば艀さえ曳けるに違いない。
新しい道具を装備し、我々は川へ向かった。
僕は本流から離れた静かな流れの場所に落ち着いた。クライヴとデイヴは下流の方に向かったようだ。
午後の早い時間だったが、七月の太陽は空高く、中西部は熱波に包まれていた。
ショーの前日だったので、奇妙な恰好をした奴らも到着し始めている。(ホテルはギグ会場のすぐ横にあった)
僕はハンバーガー用の肉を調達してあった。アメリカの鯉にとっては最適な餌だろうと思って。
セットアップは簡単に終わった。バスロッドのリングに洗濯紐のような釣り糸を通し(全体の長さは4フィート)釣り針にバーガー肉を付けた。(お客様、ポテトもいかがですか?)重しは穴の開いた弾丸。
これを水の深い所に投げ入れ、釣り竿は地べたに置く。
そのまま時間だけが過ぎ、太陽がサンサンと三人のなまっちろいイギリス人たちを照り付ける。
誰かが背後に近寄ってくる気配がした。
「あぁ、釣りをしてるのか!釣った魚を食うってか?」
振り返るとスコーピオンズのクラウス・マイネとルドルフ・シェンカーであった。
大分昔の話ではあるけれども、焦げ付くような暑さにも拘らずルドルフは皮パンツを履いていた、と僕は誓って証言できる。
「いやぁ、何でこんな所にステージ衣装で来るのか分かんないな。」
僕は嫌味を返した。
「魚がビビッて逃げちまう!」
…叱られた二人の「サソリ」たちは尻尾を巻いて退散していった。
ついに釣り糸が揺れた。
ゆっくりと、水面と釣り竿の先の距離が縮まっていく。
食いついた!
僕は釣り竿に飛びついたが、この期に及んでさえこれが本当に鯉なのかどうか、信じられずにいた。
鯉、英国の伝説、エステート湖、ディック・ウォーカー、決して獲られぬ魚…しかしそれはまさしく鯉であり、その姿は僕の目の前まで迫っていたのだ。
この時点で何人か見物客が集まっていた。ロックファンと帰ってきたスコーピオンズの混ぜこぜたちは、釣果に興味を惹かれていた。
僕は、初めての鯉を引き上げた。
10年前、ピッツで逃して落胆した時にはこんな日が来るなんて思いもしなかったのに。