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【番外編】プロ野球の人気は復活しているのか?

今日は、「プロ野球の人気は、上昇しているの? それとも、下降しているの?」という点について考えてみたいと思います。

「プロ野球の人気」について頭に浮かんだきっかけは、先週、X(旧Twitter)に流れてきた投稿です。

「MLB地区シリーズの第5戦 ドジャース vs. パドレス の視聴者数が、日本で1,290万人、アメリカで750万人だった」というポストです。

「えっ、すごい数字じゃないの!」と思うと同時に、「で、(日本のプロ野球の)クライマックス・シリーズ(CS)はどうなの?」と気になったのがきっかけです - 阪神ファンでもありますし!

ググってみると、ビデオリサーチ社のHPがあり、そこに「週間 視聴率ラインキング」が出ていました。

ビデオリサーチ社のHPより

先週の1位・2位は「ドジャース vs. パドレス 第5戦」でした(時間帯によって、1位と2位) - 「関東地区」での視聴率は、個人視聴率が11.3%、世帯視聴率が20.3%!

スポーツ以外のジャンルを含めても、「その試合」が第1位でした。

MLBの地区シリーズという大舞台である上に、大谷選手が出場し、しかも山本由伸投手とダルビッシュ投手が投げ合うとなれば、多くの人が観たいと思うのはうなずけます。

一方、その週末(10/12・10/13)には「日本のプロ野球のクライマックス・シリーズ(CS)」も行われていたのですが、セ・パの両試合ともに「視聴率ランキング TOP10」には入っていませんでした - 阪神 vs. DeNA戦、日本ハム vs. ロッテ戦。

視聴率ランキングの第10位は、個人視聴率2.0%、世帯視聴率4.1%でしたので、プロ野球のCSはそれよりも低い視聴率だったということになりますね。

テレビ視聴率からすると、「日本のプロ野球は人気がない!」となります。

しかし、(一般的に認識されている通り)球場への観客数は増加しています - プロ野球人気は盛り上がっているとも言われています。

「じゃあ、どっちなの?」という点を整理してみたいと思います。

最初に「結論」を書いておきますと、

「日本のプロ野球は、ひと昔前の『国民みんなの関心事』から『一部の熱狂的なファンが支えるニッチなビジネス』になった」ということではないかと感じます - 「一部のファン」とは、地元のファンの方々です。

プロ野球とそれぞれのチームが「地元ファンに愛される存在になった」という点については、すごくいいことだと思いますし、理想的な発展の仕方だと思います。

しかし同時に、「プロ野球の最大の収益源(の可能性)は放映権であり、その礎は『大きな顧客基盤』になります。しかし、ニッチなビジネスになったことで、その大きな顧客基盤を縮小させてしまったのではないか?」という気がしなくもないのが現実です。

そして、(もう一歩踏み込むなら)こうしたことが、日本経済が成長できない原因の一端なのではないか、と思ったりもします。

そのあたりについて、整理してみます。

1.現状を整理する。

プロ野球の「観客数」は大きく伸びています。

まず、以下はプロ野球の「一試合あたりの平均観客数」の推移です - 実数が発表された2005年以降の観客数です。

NPBのHPより

途中、コロナ禍と2010年~2012年(多分、リーマン・ショック後の不景気の影響)の減少を除いては、セ・パともに緩やかに上昇をしています。2024年は、セ・リーグが34,074人、パ・リーグが28,121人です。

球団別に「2005年 vs. 2024年」で比較すると、以下のグラフのようになっています - こちらは、「年間観客数(総数)」です。

NPBのHPより

一番多いのは「阪神」。次が「巨人」。そして、「ソフトバンク」という順番です。

一番少ないのは「西武」で、2024年は「阪神の52%」でした。しかし、2005年は「阪神の35%」でしたので、西武もかなりがんばって増やしています。

「2005年 → 2024年の(観客数の)増加率」で見ると、以下のグラフになります。

NPBのHPより

一番伸ばしているのは「DeNA」で+141.6%。次が「広島」で98.6%。

一方、増加率がマイナスになっているのが「巨人」と「阪神」。とても低い増加率なのが「中日(2.4%)」です。

巨人と阪神は「一試合あたりの平均観客数」が2005年の時点で40,000人を超えていますので、「キャパ的にいっぱい!」という感じなのかなと推測します。

反対に「中日」は、「企業努力が不足しているのかな・・・」という印象です。

セ・リーグの増加率がチームによって格差があるのに対して、パ・リーグはどのチームもしっかり伸ばしている感じです。

まとめとして、年間の観客数と増加率を、セ・リーグ、パ・リーグ、全体でグラフ化しておきます。

NPBのHPより
NPBのHPより

パ・リーグが、がんばって観客数を伸ばしていますし、全体としても33.9%の増加率ですので、「結構、がんばっている!」という印象です。

一方、テレビ視聴率は継続的に低下しています。

まず、前述の通り、「ドジャース vs. パドレス 第5戦」は世帯視聴率が20%を超えていますが、同じ日に放送された「プロ野球 CS戦」の視聴率はトップ10には入ってきていません。

やはり、視聴率ではプロ野球は低迷しているのかもしれません。

もうひとつ、ご参考までに。

こちらは、NHKの「文研」にあった「視聴率でみるプロ野球平成史」というブログです - その中にプロ野球の視聴率の推移がありました。

NHKの「文研」 視聴率でみるプロ野球平成史

ブログはこちらになります。

やはり、視聴率はかなり鮮明に低下しています。

球場に足を運ぶプロ野球ファンは増えているが、テレビで観戦する視聴者は減っているという現実です - DAZNなどによる視聴者を加えても、「減少傾向」は変わらないと思います。

で、ポイントは「観客数は増えているが、視聴者数は減っている」という現象を、どのように解釈するか? になります。

2.「国民みんなの関心事」から、「ニッチ・ビジネス」へ。

(異論がある方は多いかもしれないのですが、敢えて言い切ると)プロ野球はその昔、「国民みんなの関心事」だったが、現在では「一部の熱狂的なファンが支えるニッチ・ビジネス」になったということではないか、と感じています。

そのため、観客数は増えているが、テレビ視聴率は低下しているのだろう、と。

そして、そのことが持つ大きな意味は「放映権で稼ぐことがプロ野球にとって最も収益性が高い(大きい)はずなのに、その礎となる顧客基盤をわざわざ小さくしてしまった」ということではないかと思っています。

MLBが放映権を「収益の柱」にして野球ビジネスを大きく拡大している中で、プロ野球が小ぢんまりとまとまってしまっているようで、ちょっと寂しい印象です - しかも、プロ野球がリーチできていない潜在的なファン層に対して、MLBががっちり食い込んできているのが現状ですし。

このあたりの構図が、なんとなく「日本経済が成長しない原因」の一端のようにも思えます。

こう書くと「悪く言っている」ようにとられるかもしれないのですが、そうではなくて、「地元ファンに深く入り込む作戦は成功している。しかし、収益を拡張させる放送ビジネスの戦略がほとんどなかった」ということではないか、と思っています - いろいろなしがらみや制約もあるのだろうとは思うのですが・・・。

それでも「放送ビジネスに関する戦略がなかった」ことはかなり大きな痛手で、それが「プロ野球というビジネスの可能性」をかなり小さくしています。また、本来ならプロ野球ファンとして取り込めるはずだった人達をMLBにちゃっかり奪われているという現実にもなっているように思います。

「じゃあ、なぜ、プロ野球にはそうした戦略や構想がなかったのか?」という問いになるわけですが、それこそが「日本経済が成長しない原因」のように思えます。

具体的には、「そうした取り組みをする体制がつくられていなかった」、「そうした取り組みに向かわせるインセンティブ設計もされていなかった」ということだろうと思います。

と、言うことで、実は言いたかったことは「日本のプロ野球は、日本の企業社会の縮図のようだ」と感じており、なので「そこには日本企業が抱える課題があるのではないか?」という点です。

そして、その課題をひと言で言うと「構造とガバナンス」だろうと。

自律的に発展したり、変革したりできる組織であること。そのための構造やガバナンスの設計がとても大切になるということだろうと。

日本経済や日本企業にはそうした構造やガバナンスがあまり完備されていないのですが、それは「日本において、構造やガバナンスということに対する理解がイマイチ浸透していない」ということではないか、と。

最後は、かなり抽象的な話になりましたが、こんな感じです。

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

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