事業において、競争に勝つためには「自社に有利な構造をつくる」ことが肝!
成熟した市場に「後発組」として参入する場合、多くのケースでは苦戦を強いられます。その苦戦を乗り越えて成功するのは、(例えば)大きな資本を持っている企業や、特別な強みを持っている会社などです。
しかし、現実問題として多くの中小企業が新しい事業にチャレンジする場合、「成熟した市場に後発組として参入する」というカタチになってしまいます。
しかも、大きな資本もなく、特別な強みもない場合がほとんどです。
では、どうすれば「後発組」でも成功することができるのでしょうか?
成功している企業は、どのようにして成功したのでしょうか?
以下では、そのことについて考えてみたいと思います。
業績に影響を与える要素の階層
最初に結論を書いておくと、「自社にとって有利な構造(=勝てる構造)をつくり、そこで戦う」ということが、後発組が勝つための必須の条件だと考えています。
この「構造」という点と、「業績に影響を与える要素の階層」という点がこのエントリーの肝になるため、その部分の意図を先にお話しておきます。
以下の図に示すように、企業の業績に影響を与える要素をまとめると4つの階層構造のイメージだと考えています。
一番上から、①構造 → ②戦略 → ③戦術 → ④現場オペレーションという順番。そして、それぞれが業績に与える影響度合いは、概ね①70%、②20~25%、③と④の合計で5~10%といったところではないでしょうか。
そして、成熟した市場に後から参入する後発企業は、「構造」の部分において「自社が有利になる構造」を構築することができるかどうかが、勝負の分かれ目になると考えています。
では、どうすれば、その構造をつくることができるのか?
それを、以下で一緒に考えていきたいと思います。
危機に直面した人材派遣会社(A社)の事例
考える上で、事例があった方がわかりやすいと思いますので、ある人材派遣会社A社のケースをベースにしながら考えてみたいと思います。
A社は「旅行会社に特化」することで成長してきた人材派遣会社です。旅行会社に特化することで業界の知識を深め、細かい要望にも迅速に対応でき、それらが強みとなりA社は成長してきました。
しかし、1999年の人材派遣法の改正(規制緩和)を機に、クライアントであった大手旅行会社が次々と自前の人材派遣子会社を設立し、自ら人材派遣事業に参入してきました。
当然、大手旅行会社は自社の子会社を優先して利用します。また、旅行会社での仕事を希望する派遣スタッフも、旅行会社系列の派遣会社に登録するようになります。
「旅行会社に特化」しているA社にとっては、「事業の継続が危ぶまれる構造」に変化してしまったわけです。
そこでA社は、新しい事業分野への進出を模索することになります。
A社が見つけた「商機」
実は、当社もサポートしながらこの危機からの脱却を模索していきました。
新規分野の候補がいくつかある中で、比較的早い段階から「人材紹介事業」に大きな商機を見出していました。「転職がどんどん一般化し、転職する人が増えている」というのが主な理由です。
しかし同時に、大きな課題もありました。
それは、人材紹介事業が典型的なレッド・オーシャンであること(構造=競争が激しい)。当時でも、10,000社以上の人材紹介会社が存在し、激しい競争を繰り広げていました。その中で、リクルート・エージェントなどの老舗かつ大手の人材紹介会社は確固たる地位を築いていましたし、それぞれの業界にはその業界に強い人材紹介会社があり、しっかりとした知名度と実績を誇っていました。
そうした競争構造の中へ、普通に参入したのでは「成熟した市場に参入する小さな後発企業」となってしまい、勝てる見込みはほとんどありません。
では、どうすればいいのか?
ポイントは、以下の3点だと考えます。
そもそも需要はあるか?
選ばれる理由をつくることができるか?
選ばれる仕組みをつくることができるか?
それぞれ、ご紹介していきます。
1.そもそも需要はあるか?
あたり前のポイントですが、中小企業にとっては非常に重要な前提です。中小企業の場合、自らの投資で需要を創り出すという”大技”は不可能ですので、顕在化した需要や(比較的)顕在化しやすい潜在需要がしっかり存在することが必須になります。
A社の場合、(上記したように)転職の一般化・転職する人の増加というトレンドがあり、「需要がある」ことは明確でした。
そうした中、女性の転職も増加傾向でした。例えば、キャリアを追求するために転職する。仕事と家庭を両立しやすい職場に転職するなど、それぞれの理由で転職をする女性が確実に増加している時期でした。
そして、そうした流れは一過性ではなく、定着し、一般化する変化だと考えられたことから、「女性に特化した人材紹介事業はどうだろうか?」という可能性が浮上していました。
2.選ばれる理由をつくることができるか?
「選ばれる理由」とは、お客様からわざわざ指名される根拠といった意味です。例えば、有名なブランドである、「〇〇と言えばあの会社」という認知、「△△の中で最高の品質ならあの会社」という信頼などです。
「選ばれる理由」があるから、お客様は自社の商品・サービスを購入していただけます。その理由がないと「その他大勢の中の1社」と映り、お客様は自社の前を通り過ぎてしまわれます。
では、どのような方法で「選ばれる理由」をつくるのか?
A社は、以下の2つの方法で「選ばれる理由」をつくることができると考えていました。
一つ目は、当時、女性に特化した人材紹介会社はなく、「女性に特化」と謳うことで差別化や存在価値の明確化が可能になるのではないかと考えられたこと(正直、ライバルがいなかったのはラッキーでしたが)。
二つ目は、女性の転職理由が男性のそれとは異なる場合が多く、そこに「女性に特化した人材紹介会社」としての存在理由を見出すことができるのではないかと考えたことです。
どういうことか?
キャリアを追求する上で、女性であることが壁になる企業は(残念ながら)存在します。希望の部署へ異動できなかったり、責任あるポジションに就けなかったり、そもそも昇進に限界があったりと。
また、結婚・出産を経て女性が仕事を続けていく場合、仕事と家庭の両立が課題になるケースもあります。(残念ながら)それが難しい職場も少なからず存在します。(※ もちろん、これは男性にも当てはまることだと思います)
そうした課題に直面している女性の多くは転職を検討されます。そして、そうした課題を解決でき、かつ希望が叶う会社を模索されます。
しかし、そうした女性ならではの課題に細やかに対応してくれる人材紹介会社は(当時は)ありませんでした。そのため、ここにしっかり対応できる体制を整えることができれば、転職を考えている女性の多くから選ばれる存在になれるのではないかと考えていました。
幸い、A社の従業員の約90%は女性であり、「女性が直面しやすい課題」に対するアンテナは高く、それに対してどのような対応をすることが転職を考えている女性にとってサポートになるのかも、比較的想像しやすい環境にありました。A社の強みとして培っていける環境がすでに存在していました。
また、多くの女性から選ばれる存在になれば、多くの女性人材のデータベースを持つことになります。それは、人材を採用したい企業から選ばれる重要な要素にもなり得ます。
転職を考えている女性の事情や背景に細やかに対応することは、女性人材にとっても、採用企業にとっても「(A社を)選ぶ理由」となり得ると考えていました。
3.選ばれる仕組みをつくることができるか?
上記と少し重なる概念なのですが、「選ばれる仕組み」をつくることができれば、事業展開は非常に楽になります。選ばれる仕組みとは、お客様を集める仕組みや営業の仕組みといったイメージなのですが、それが効果的に機能するメカニズムをつくることができるかどうか? といったことです。
前述したように、人材紹介事業は(当時)10,000以上の企業が犇めくレッド・オーシャンでした。当然、顧客企業の開拓は熾烈を極めます。
通常、社員の採用に人材紹介サービスを活用している企業は、5~6社ほどの人材紹介会社を使っています。そうした企業に営業をすると、多くのケースで「うちは結構ですよ。すでに5社さんとお付き合いをしているので、これ以上は不要です」といった具合に断られることがほとんどです。
しかし、「当社は女性に特化した人材紹介会社で・・・」という話をすると、「へぇ~、そうなんだ。優秀な女性人材なら〇〇のポジションで探しているんだけど、御社で探せる?」といった感じで話が進むことが多くありました。
「女性に特化」することで、他の人材紹介会社とは「別物」として扱ってもらえたのだと考えます。これが、厳しいはずの新規開拓を非常に楽にしてくれました。
また、転職を考えている女性人材の登録獲得も非常にスムーズにいきました(※ 転職希望の女性人材とつながることも激しい競争になります)。
多くの場合、転職を考えている女性は3~5社程度の人材紹介会社に登録するのが(当時は)一般的でした。多くは、大手の人材紹介会社や転職を希望する業界で知名度のあるエージェントに登録します。なので、「後発の小さな会社」になんて、ほとんど登録してくれません。
しかし、「女性に特化」したことで、大手や知名度の高い人材紹介会社とあわせて、わざわざA社にも登録していただけることが多くありました。
特に、前述した女性ならではの事情や背景に丁寧に対応する意思表示は、多くの女性に響いたようでした。
「女性に特化」というポジションを取ることで、「選ばれる仕組み」が機能し、クライアントの獲得と、転職を考えている女性人材の登録獲得の両面を非常に楽にしてくれました。
これが「自社にとって有利な(競争)構造をつくる」という考えや方策です。そして、これは事業の立ち上げを非常にスムーズにしてくれました。
トライアル(試行)から学ぶ
もうひとつ重要な点があります。
それは、上記の「自社にとって有利な構造をつくる」ことは、机の上で考えていただけでなく、これまでの経験から得たアイデアや小さなトライアルをいくつも試行する中で、少しずつパズルのピースを集めるように最終形に近づけていったという検証と実行のプロセスです。
(やや繰り返しになりますが、試行のステップをご紹介します)
まず、「転職の一般化・転職する人の増加」は世の中の顕著な流れでしたので、早い段階から「人材紹介事業は有力な選択肢」という位置づけでした。
そして、「女性の社会進出」や「女性の活躍」といった世の中の流れもあり、「女性の転職に特化することで有力な差別化になるのではないか?」という(緩いながら)仮説を持っていました。
また、私の過去の経験も意思決定において大きな要素になりました。それは、過去に行った別のコンサル・プロジェクトの中での経験なのですが、「転職活動をしている女性人材の優秀さに驚いた」という経験です。
コンサル・プロジェクトの中で、何度か採用のサポートをする機会があったのですが、いずれのケースでも「応募人材の中で、女性の方が男性よりも圧倒的に優秀だ!」という発見があったことです。
非常に顕著な傾向で、「女性の方が2~3ランク上の人材が応募してくれている」という実感を持っていました。それを知り合いの人事担当者(3名)に聞いたことがあるのですが、いずれも「いつもそうだよ!」といった感じで、「普通のこと」といった反応が返ってきたのをよく覚えています。
と、いうことは、転職市場には優秀な女性人材がたくさんいて、転職活動をしていることになります。であれば、「女性に特化する」ことは、効率的に優秀な人材とつながることになります。人材紹介事業の根幹である「優秀な人材のデータベース」を効果的に構築することが可能になります。
しかも、女性の採用が強化されつつある時代の流れがありましたので、またとないチャンスと映りました。
こうした経験や洞察から「女性に特化した人材紹介会社」という方向性をテーブルに載せていました。
その上で、その仮説を検証するためのヒアリングや小さなトライアルを行い、確信の度合いを深めていったという具合です。
まず、顧客企業の開拓からスタートしたのですが、(前述の通り)思いのほかスムーズに行きました。
あわせて、女性人材の登録を進めたのですが、こちらも(前述の通り)想定以上に登録が集まりました。特に、優秀な女性人材から登録をいただけたことは、非常に心強かった思い出があります。
こうしてよい反応が返ってきたことで、「女性に特化する」ことへの確信がどんどん深まっていきました。
加えて、登録していただいた女性人材から「今の職場における問題点」や「転職に対する希望」などを聞いていく中で、前述した女性特有の事情や背景があることを知り、それが(女性人材にとっては)非常に大きなウエイトを占めることを実感していきます。そして、そこに丁寧に対応してくれる人材紹介会社が(あまり)ないこともわかってきました。すると、そうした課題に細やかに対応することで競争優位性が生まれるはずだという確信につながっていきました。
こうした経験や発見をつなぎあわせながら、そしてそれらを検証しながらレッド・オーシャンの中に「自社にとって有利な場所(=構造)」を構築していったのがA社のステップです。
まとめ
成熟した市場に後発組として参入する場合、「自社にとって有利な構造をつくる」ことが、その市場で勝つための肝になります。
そして、そのためのポイントは以下の3つです。
そもそも需要はあるか?
選ばれる理由をつくることができるか?
選ばれる仕組みをつくることができるか?
加えて、そこで考えたことが、考えた通りに機能するかをトライアルすることで検証する。
行ったり来たりの検証プロセスを何度も行い、「これなら勝てる!」という事業の設計図へと辿り着いていきます。
こんな感じです。
非常に長いエントリーになりましたが、最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。
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