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山小屋からの領収書

最近は夕方になると決まって強い雨が降る
日中はまだ陽射しが強い
しかし雨の後は一気に気温が下がり家の中の熱気も和らぐ
都会ではまだまだ記録的な猛暑日が続いているようだ
ここ信州は朝晩すっかり涼しくなった
台所の窓から見える田圃はすっかり黄金色になり稲刈りが始まっている

玄関の郵便ポストを覗くと封書が一通入っていた
差出人を確かめる
《飯豊朝日を愛する会》とあった

飯豊山縦走2日目、梅花皮小屋かいらぎに宿泊(テント泊)した時利用料金を箱の中に入れておいた

無人小屋だったので宿泊者は各自お金を名前、連絡先を記した宿泊用紙と共に入れておく
最後に領収書を送付することに同意しますか?とあった
その時はなんとご丁寧なことだと思った
同意に○をしておいたらこの封書が届いたのだった

今年の夏山は鈍行列車のような台風のお陰で例年の半分以下の入山者だったと御西小屋おにしごやの管理人さんは話していた
私もザックに全ての道具を詰め込み準備万端整えていたのだが背負い上げることもなく8月が終わり9月に入ってしまった

毎日天気予報を注視し続けて遂に9月3日の朝自宅を出発したのだった
信州から飯豊は遠く東西に長い新潟県を糸魚川から海岸線を走った
夏のような蒸し暑い陽気だった
海の家は既に店じまいで寂しげな海辺の風景だった

夏の名残が残っているこんな時季の海岸も私は好きだ
道の駅で休憩を取りながら西会津の弥平四郎やへいしろう登山口に着いた時には既に日没となっていた
高速道路を走ればもう少し早く着いたのだったが単調な景色を見ながら運転するのは好きではない
山の中の駐車場で身支度を整えて雨の中をヘッドランプを点けて暗闇を歩くこと20分
左手木立の向こうに建物がぼんやりと見えた
それが祓川山荘はらいがわさんそうだった
ここも無人小屋でその夜の宿泊者は私1人
雨の中屋根があって脚を伸ばして寝られれる小屋に泊まれることはとてもありがたかった
しかも無料である
大切に利用させてもらった
周囲は大きなブナの木に囲まれて幻想的な気配に包まれた夜だった

翌朝夜明けと共に出発した

夜中に星が輝いていた
晴天の予感がした

曲がった木の根元に雪の多さを感じる

長い樹林帯を抜けて尾根に出た
一気に展望が開けて陽射しが降り注いだ

汗が吹き出した
ザックを下ろして半ズボンに着替えた
他に登山者は誰もいない
静かな山である
稜線上にある三国小屋に到着した
午前5時過ぎに麓の小屋を出発して時刻はちょうど10時になっていた

ここでもう一つの登山口御沢からの登山者達と合流して急に賑やかになった
皆晴れやかな表情をしている
天気が良いのは最高のご褒美だ
飯豊山は江戸の昔から本山の飯豊山神社に詣でる人達で賑わっていたようだ
小屋番の人の話によるとこの小屋は落ちこぼれ小屋だそうだ
力尽きてもう動けない登山者のお助け小屋の役目を担っている
一晩休んで再び本山に向かって歩く人
反対に己の体力の無さに意気消沈して下山する人
悲喜交々の小屋なのだ
三国と言えばその名の通り福島県、山形県、新潟県それぞれの県境が接しているのだがなんとここから飯豊山本山を通ってその先の御西小屋のちょっと先まで福島県が細長く蛇の尻尾のように伸びているのだ
明治の時代に新潟県と県境を巡って争った経緯があって今のような幅3尺ばかりの登山道だけが細長く福島県となっている
これも小屋番から聞いた話である
ならぬものはならぬの会津魂の道を歩いた一日だった

長い一日が終わった

#飯豊山 #山登り #手紙  #会津魂 #山小屋

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