手で食べたダルバート
ガンドルクから下山してポカラに着いた夜のことだ
路地の奥にある宿からとぼとぼ歩いてレイクサイドの大通りに出た
近くにチベット料理の看板を上げたレストランを見つけた
中に入ってメニューを受け取り席に着いた
チベット料理だからモモ、トゥクパ、テントゥクなどが一般的だ
私はそれだけしか知らないのだが
今まで毎日食べ続けたダルバートを今夜も食べたかったのでメニューには載っていなかったが一応頼んでみた
作りますけどちょっと時間がかかりますよと言われた
構わないと言ってミルクティーを飲みながら待つことにした
30分ほど経ってお待ちかねの皿が来た
さあ食べようと思ったらテーブルにはスプーンもフォークもないのだ
一瞬考えた
意を決して私は手で直接食べることにした
それまでネパール人やインド人は普通に手で食べているのはよく見ている
箸を日常使う日本人にとっては抵抗感、視覚的な違和感を正直感じる
寿司は手で食べる習慣があるのだからそれはおかしいではないかと思うかもしれない
けれどご飯に熱いダルスープを上から掛けてそれにおかずを手でかき混ぜながら口に入れるのとそれとはちょっと違うと思う
私は以前一度だけマレーシアに旅行した時手で食べたことはあった
随分昔の経験なのだがその時舌で感じる味覚や温度、それと嗅覚で感じる香り
それとは別に手に直接感じる食物の手触りと温度、硬さ柔らかさといったものも食欲に大きく影響を与えているなと感じたのだった
そして今もう一度その経験をする機会が訪れた
ご飯の上に掛けたダルスープを混ぜたとき
指先がとても熱かった
無理せず少し時間を置いてから混ぜれば何のことはなかったのだがその時私はちょっと意地を張っていたのだ
親指と残り3本の指でつかんで手を返す
そして親指で押し出すようにして口に入れる
その繰り返し
骨付きチキンだけはいつも手に取って食べていたので結局最初から全て手で食べれば手間がかからずむしろ合理的ではないか
なんて思いながらも指先は熱さでヒリヒリしてきた
そこに店主が現れて「おっ!」というような表情をした
外国人が珍しく手で食べているな
そんな反応だった
彼は短い言葉を口にしたが私にはネパール語は理解できない
ただ私の小さな挑戦に対して少し共感してくれたのかなとその時感じた
その夜は寝る時になっても指先はヒリヒリしたままだった
やはりこれからは無理することなくスプーンでいいかなと思った
翌朝ゲストハウスの主人にその経験を話したら(彼はある程度日本語が理解できる)
『いいんじゃないの、無理しないでフォークとスプーンで食べたら』言われてしまった