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ジョムソン街道に別れを告げゴレパニへ
夕方タトパニに着いて近くの温泉に入った
湯船にゆったりと浸かるのはネパールに来てからは初めてだ
トレッキングの前半にはチャーメの町でも温泉に入ったのだけれど浴槽にお湯はたったの30cmほどしか無かったので身体を水平に横たえ頭だけ上げて浸かったのだった
タトパニの温泉は三つの浴槽にたっぷりのお湯があった
よく知られている温泉なので大勢の入浴客で溢れかえっていた
特に多いのは西洋人の観光客とトレッカーだった
温泉と言っても水着着用なので日本人としてはプールに入っている感覚になるのは仕方がない
それでも身体はしっかりと温まった
チャーメのように地元の女達が入浴後に洗濯に精を出すローカルな風景は見られなかった
翌日はゴレパニまで一気に1600m近く登った
湯疲れでなんだか身体が重くゆっくりペースで歩いた
しかし焦ることはなかった
もうこのトレッキング旅もあとわずか
目の前にゴールが見えてきた気分だったのだ
最初は林道と交差しながらの登山道でわかりにくいところもあったが基本ひたすら登りなので迷うことはなかった
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振り返るとカリガンダキ川が遥か眼下に見えた
スッキリと晴れ渡った景色にたびたび足を止めた
ジョムソン街道に別れを告げて山岳ルートに入ったのだ
深く切れ込んだ谷の向こうの斜面には小さな集落が点在していた
それらを結ぶように細い道が見えた
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地図を見るとそこにはホプラダンダというトレッキングルートがあった
どんなに山深い所にも人の暮らしがあるのだ
道があれば旅する人も訪れる
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昼前にシカという村でしばらく休憩した
標高は2000mだ
程良い距離で茶店があり午前中からゆっくりとコーヒータイムを楽しんでいる姿を見かけた
一人旅だと「さあ休もう」と言ってくれる相手もいないので黙々と先を急いでしまう
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牧歌的な農村風景の中を淡々と歩く
随分歩き続けた
いつのまにか陽の傾く時間になってしまった
急な階段を登り切ってゴレパニの町に入った
標高は2853m
一日でずいぶん登った
通りの両側にはホテルやロッジが立ち並んでいた
中心には小さな市場があり賑やかな町がこんな山奥にあることに驚いた
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宿を決めていつものようにマサラティーを頼み窓際に腰を落ち着けた
おろし生姜が入っていた
毎日自宅で飲んでいるチャイと同じ作り方だ
その丁寧さに好感が持てた
ネパールに来てから紅茶は朝夕必ず飲んできた
しかし粉のスパイスを混ぜるだけの簡単な物が多く生の生姜を擦って入れたものは初めて飲んだ
香りが全然違うし少しざらっとした喉越しが私は好きだ
滞在客同士の会話に耳を傾ける
近くの市場で賭け勝負をして少しお金を稼いだと得意気に話す客
そう言えばここに来る途中市場の路上に人だかりがあった
覗き込んで見るとカードゲームご開帳の最中
トレッキングガイドの連中もこれが好きだ
トロンハイキャンプの山小屋でやっているのを見かけた
翌日トロンラパスを超えたらガイドの仕事も終わりなので気持ちが軽くなっていたのだろう
家族と離れて働く娯楽のない山の中ではこんな時間潰しが一番なのかもしれない
その他女性グループも宿泊していて久しぶりに賑やかなゲストハウスだった
ここ数日は泊り客が私1人と寂しい夜が続いていた
ゴレパニでの名物は近くのプーンヒルへのご来光登山なのだと言うことを迂闊にも私はここに来るまで知らなかった
絶景の山は今までのトレッキングで見てきたので何も夜明け前に早起きして今さら登ることもあるまいなどと考えていた
ところがこのエリアの宿泊客のほとんどはこれが目当てなのだ
夜ストーブを囲んで女性グループのガイド青年と話した時
「明日の朝は天気がいいから君は絶対に登るべきだ」
「OK?」
と念を押されてしまった
そんなに言うなら登ってみようかとその気になって翌日の準備をしてからベッドに入ったのだった
#ネパール #アンナプルナサーキット #湯疲れ #ゴレパニ #タトパニ #温泉