風の町カクベニ
カクベニを訪れた時の印象
乾燥と砂埃
狭い迷路のような道
最果て感
聞こえてくるお経の声
岩の上に立つ仏塔の横から急な斜面を下ったら町の入り口の道路に出た
南風が砂埃と共に顔面に吹き付ける
東から山が迫り西はカリガンダキ川の広い河原に挟まれた地形に身を寄せ合うように家々が並んでいた
曲がりくねった細い通り
チェックポイントの事務所があったので中に入って許可証を見せるとムスタン入域のチェックポイントだった
ジョムソンに行くあなたは必要ないと言われた
ここは辺境の地ムスタンへの玄関口なのだと気がついた
川口慧海も仏典を求めて当時鎖国していたチベットに入るべくこの近くの村マルファで潜入の機会をうかがっていたのだ
航空機もない明治の時代に旅した命知らずの冒険家がこの地に滞在していた
私はと言えば砂混じりの風を顔面に受けて前に進むのがやっとであった
朝から歩きっぱなしだったのでここで休憩してお茶を飲みたいと思った
ホテル兼レストランの看板が出ていたので中に入って声をかけたが誰も出てこなかった
諦めて引き返す矢先ちょうど女の宿泊者と出会った
階段を降りると誰かいるからと教えてくれた
吹き抜けの開放的な空間の下にホールがありスタッフ数人と二人の客が見えた
「お泊まりですか?」
「いいえお茶を一杯いただきたいのですが」
しばらくしてミルクティーが運ばれてきた
外の風もここまでは入って来ない
相変わらず客は喋り続けていた
何日もここに滞在しているような感じだ
飲み終わってから厨房を覗いて声をかけるとスタッフが3人並んで食事をしていた
皿のダルバートを手でカタカタと音を立てて混ぜながら口に運んでいたのが印象に残っている
話し声と食事の音そして吹き抜けのホール
長く旅している人が醸し出す倦怠感
私自身の先入観による印象に過ぎないのだが
訪れた土地から受け取るイメージってそういう要素が大きいと思う
それと人との交流
反時計回りに一つの人の集合体となってトロンラパスに向かうトレッキングからジョムソン街道を単独で歩く旅人に自分の意識が変わリ始めたきっかけの町がここだった