ガンドルンからポカラ行きのローカルバスで
ガンドルンは曲がりくねった迷路のような道と石畳の村だ
朝起きて初めてマチャプチャレの山がよく見えることに気がついた
アンナプルも澄み切った青空を背景にこの村の守り神のように聳えていた
前日は夜明け前からの長い一日だったので
朝は少し疲れが残っていた
ポカラへのバスは近くの広場から午前8時に出ると聞いていた
たぶん出発は少し遅れるだろうと読んでいたので急ぐこともなく
途中村人に道を聞きながらゆっくりと向かった
そろそろ稲の収穫期だ
垂れた稲穂の田圃でかくれんぼした少年時代を思い出す
山を越えて里山に至ったときに開ける風景は信州のそれと似ていてとても親しみが湧く
バスはやはり1時間ほど遅れて出発した
乗り合いバスだからそれはよくあることだ
客が集まりようやく発車してカーブを回ったと思ったらすぐに停車した
1人のおばさんがバスから降りて田んぼの向こうに見える家に歩いて行ってしまった
家にはおばあちゃんが待っていて2人は話し込み始めた
さすがに5分位過ぎて運転手がクラクションを鳴らした
それでもおばさんは帰ってこない
車内の乗客達はおとなしく待っている
運転手はバスを少し動かしてもう一度クラクションを鳴らした
来ないなら置いていくぞという素振りを見せたのだ
見ていてその駆け引きが面白かった
しょがないわねぇという顔をしておばあちゃんから荷物を受け取って彼女は慌てることもなく戻ってきた
おばあちゃんに用事を頼まれていたのだろうか
ともあれバスをタクシーのように使いこなすところに私は感心してしまった
再び発車してしばらく走ると今度は母子が乗り込んできた
見事に太ったお母さんと5才位の男の子
私の隣にドンと座ったのはいい
そのうち眠くなってきたのだろう
巨大なお尻をこちらにずらして通路側の肘掛けに頭を乗せて眠り始めた
身体を動かしながら少しずつこちらにお尻を押し付けてくる
なるべく楽な姿勢で寝たいのは理解できる
しかし痩せ細った私の身体は窓側とお尻との間にしっかりと挟み込まれてしまった
苦しい
同じ料金を支払って私は一人分の座席の半分しか使用していないのだ
不満である
しばらく大人しく寝ていたと思ったら彼女はやにわ起き上がってジロリとこちらの顔を睨みつけた
「ナマステ」と言ったら無視して再び寝ぼけた顔を肘掛けに預けて眠り始めた
全く意味不明である
これで文句を言う気も完全に失せてしまった
どこの世界にもトンデモなく図々しい人って必ずいるのだ
まあイロイロあるから旅は面白いのだけれども
そんなこんなでバスは路肩の崩壊した山道を進んでポカラに向かった
そして20日間のトレッキングは無事に終了したのだった