アンナプルナ展望の丘プーンヒルへそして自然遺産の村ガンドルンへ
物音で目を覚ました
ベッドから起き上がってカーテンを少し開けた
闇夜に星が瞬いていた
白い壁の室内に沈澱する冷えた空気
身支度を整えダウンを羽織りトレッキングシューズの紐を締める
ヘッドランプを右手に持って静かに階段を降りた
ホテルの立ち並ぶ階段を登り始めて登山道に入る
先の方に灯りが見えた
人に呼び止められた
料金所があったのだ
大した金額ではないのだが人気の展望台だけあってちゃっかりお金を徴収するシステムになっている
夜明け前から小屋に詰めているのもご苦労様なことだ
30分ほどで登り切った山頂には既に大勢の人達が詰めかけていた
東の空から太陽の出る瞬間を待っている
アンナプルナからダウラギリまで屏風を広げたようだった
寒さを忘れて夜明けのショーを鑑賞した
あの山の向こう側を何日もかけて歩いてきた
そして今ここに立っているのだと思うと胸に迫るものがあった
それはアンナプルナサーキット周回のクライマックスにふさわしい光景だった
もし昨夜ストーブの前で彼と約束しなかったらこの時間ここにいることはなかっただろう
人との出会って不思議だ
ゲストハウスに戻って部屋の荷物を纏め一階に降りた
客のいない静かなダイニングで朝食を取った
玄関を出ると朝日に輝く峰々が別れの挨拶をしてくれているような気がした
この日は標高1951mのガンドルンまでほとんど下り道だった
しばらく緩やかな道を1時間余り登ると展望の良い所に出た
振り返るとプーンヒルの展望櫓が見えた
ここからの景色も絶景だった
何人もの大きな荷物を背負った歩荷とすれ違った
尾根道と別れを告げ石楠花の林から谷間の渓流沿いの道に下ってきた
春に歩けば花の小道だろうと想像する
この時期は少し薄暗く日本の山に近い雰囲気だ
急階段を登ると馬を引いた若者と出会った
馬は尻込みをして階段を降りようとしない
先ほどから言うことを聞かない馬の手綱を散々引っ張っていたのだろうか彼は息を切らしていた
横を通り抜けようとした時に声を掛けられた
「頼みを聞いてくれ」
「いいよ」
「チョウチョウと言って尻を叩いてくれ」
「OK」
私は言われた通りに
「チョウチョウ」
そして、馬の尻をポンと叩いた
するとあんなに嫌がっていた馬がアッサリと階段を降り始めたのだ
若者は「ありがとう」と言って馬と共に去っていった
引いてもダメなら押してみろ
ということか
こんな人助けができるのも山深いネパールならではのことだ
人と馬との距離がとても近く感じた
今の世の中ガソリンを入れたら思い通りに動く自動車や機械の方が便利だ
飼料を集める手間も要らない
でも何千年も何万年も前から人間と共に暮らした動物との間には会話があり心の交流があると感じる
日本で私が仕事をする馬を見たのは昭和30年代が最後だ
秋に農家を回って米俵を集める荷馬車だった
#ネパール #アンナプルナサーキット #プーンヒル #馬 #ガンドルン