その客(双子)達

眩暈がした。理解できない。
同じ目鼻立ちのカップルが、椅子に座る。
何から何まで、一寸(いっすん)程度の狂いもない。くりそつ。
色違いのペア・ルックなんぞを着ているもんだから、眩暈も余計にマックスだ。

男性客の2人が、同時に肩を2、3回廻す。
次の瞬間、女性客の2人が、軽く耳の辺りを掻いていた。
(・・・・・)
何なんだろう?
仕事を忘れ、暫し、見入る。ぽ~っとなる。

「ほら、又、困ったちゃんが誕生した。戸惑ってるじゃない、中村さん」
<中村>
制服の胸元の名札をチラと見てから、女性客の1人が苦笑した。
「4人で出かけると、こうなのよねぇ、いつも」
応じた女性客も、同じく苦笑。声まで似通う。
「申し訳ございません。お客様方は、もしかして、、、」
我に返って、まず詫びる。
「そっ、双子。双子同士で結婚するんです、僕達」
「別々にやってもいいんだけど、来てくれる人達を思うと、一緒に。合同結婚式ってのもありかな、と思って」
男性2人の声も同じだ。
「それはグットアイデア。いい考えでございますわね。当社当店をご利用頂きましてありがとうございます」
軽く言ってから、
「社長も泣いて喜びます」
つけ加えるのも忘れない。
ああだ、こうだ、こんなのどうだと、にこやかに4人が喋り始めた。
同じ目鼻立ちが、同じに動く。同じ声が、口が動く。
何が何だか分からない。異次元世界を見ているようだ。

ブライダル業界に勤め始めて、約5年。
こんなケースは、初めてだ。

共に転勤族の家に育ち、幼少時から2年に一回の割で、転々とした。
全国規模である。
「初めて知ったのは、小学1年の時。遊びに行ったら、そっくりなのがいて驚いた」
女性客の思い出だ。
転々とする先々で、そう遠くない距離に何故か住む。
「歩いて10分程度とか、電車で2駅とかね。<ウチは今度、どこそこに>って言うと、<ウチもなんです>って感じ。親父も不思議がっていた」
男性客が、重ね言う。
「竜彦が予防注射を受けにいったら、茜ちゃんがいたの、憶えてる?」
「そっ、桜がデパートでママと買い物をしてたら、幸彦くんがいたとかね」
そーなの、そーなの。
くりそつ達が、盛りあがる。
特に「異性」を感じなかったが、気がつけば感情が芽生え、育っていた。
「三十路記念、という事で」
一人に他の3人が、又同じに頷く。

「早速ですが」
六曜に料理、衣装諸々、会場について等々。
(多少は揉めてくれるだろう)
少々ばかりに期待しつつ、パンフレットを差し出す。
客の意志を尊重はするけど、巧くゆかない場合も多い。巧い具合に間を取り持つのも、仕事の1つ。醍醐味だ。

が、甘かった。
遺伝子100%の双子が2組は、好みも遺伝子100%。
考える事が一緒なのだ。
「あ~っ、料理のコースはこれでいいかね?」
「いいね、美味そうじゃん!」
「日取りはどうしよう?別に大安なくともいいんじゃね?」
「そうじゃね?」
4人でサクサク決めてゆく。もはやわたしの出番はない。
(遺伝子、恐るべし!)
これから先もこうなのかしら、きっとこうなの、そうなのね。
妙に納得しながら、4人の会話をわたしは只々、聞いていた。
                           <了>






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