ごちゃ混ぜカレー<掌小説>
定番の材料に、レーズン、豆、リンゴの角切り等々。
実に盛り沢山の具材が、わんさか入る。
今回も、グー!美味しい。
「美味いだろ」
わたしが言う前に、兄が言う。自画自賛。ちょいとばかりに押しつけるけど、仕方がない。それほどまでに美味い!
メチャクチャに兄の作るカレーは美味いのだ。
歩いて10分の距離に、兄とわたしは住んでいる。
「夕飯作るのって、面倒なのよね。時々、本気でイヤになるわ」
そんな愚痴を、どうもわたしが漏らしたらしい。
「じゃっ、俺の作ったのにしろよ。カレーで良ければ、ご馳走するよ」
お試し期間が2回、3回。が、そんなの必要ないぐらいに、兄のカレーは美味しいのだ。
独身男の作る定番料理は、やはりカレーとなるんだろうか?
「親父の作るのは、本格的だったけど」
2杯目をよそう。「わたしにも」序でに願う。
商社勤めだった亡父は、出張と共に生活があった。
月の半分は海外へ、残りの半分、国内出張。泊まり掛けも少なくはなく、家族と過ごすのは、月に数日の生活だった。
「男は仕事」
オンリーの時代であったが、学生の時に留学していたアメリカのホームスティ先を思い出し、「マズい」。悟ったらしい。
向こうでは当時から、週末は家族でバーベキューや、ドライブが当たり前であった。かと言って、自分の状況では、家族でドライブする時間もない。
(ふむ)
考えた末、カレー。共に過ごせる月末ぐらいは、カレーを作ろう。
ご馳走し、妻を労おう。子供達に親父の味として記憶させよう、との主旨が頭を巡らせた。
どうせなら本場の味を・インドのを。
作ってくれるのはいいけども、メチャクチャ不味い。不味いと言うより、口に合わない。学校給食で出されるカレーの方が、何十倍も美味しかった。
けど、言うと父の気を悪くするから、「おいしいねぇ」
母を含めて兄と3人、無理に笑顔を作っていたのだ。
「カレーってね、ごちゃ混ぜでいいんだよ」
お礼にわたしが淹れた珈琲を飲みながら、兄は言った。
「定番がなければ近い物にすればいいし、相性のいい材料を入れれば、新しい味の発見になる。イマイチだったら元に戻せばいいしね」
顎鬚が動く。少し前まで、髭も立てていた。
「豆とレーズン、リンゴの擦ったのは欠かせないね。味噌とカンロ飴も俺は入れる」
「へぇ~っ。名づけて<ごちゃ混ぜカレー>ね」
「<ごちゃ混ぜ>?一寸汚いな」
「でも本当じゃないの」
「まぁね。今夜の夕飯に、もってけよ」
立席し、透明な大きなタッパーを兄は取り出した。
<了>