一挙に「好き」山形県山形市~一周忌の頃~

この九月で、早や七回忌。
亡父の法要を、菩薩寺にて執り行う。場所はみちのく、山形県。山形県の、山形市だ。山梨県の山梨市ではない。共に発音が似ていて、県庁所在地のある所ではあるけど、方向が違う。
山梨県へは西へ下るイメージ。名古屋方面に向かってだが、山形県へは日本地図のてっぺん。青森方面に上る感覚だ。
参加者は4人。わたしと妹一家の3人。
通夜から本葬、四拾九日から一回忌以降。
段々人数を減らしてゆく。
より血の繋がりのある者、家族だけで弔うのが周回忌だというのを、何かで知ったのを思い出す。
移動手段は、今回は自動車。運転手は義弟。妹の夫だ。お気に入りの所へゆくとあらば、運転するにも気が楽になる。
二十歳を迎えた姪は、その後の温泉旅行にワクワクしよう。妹も昔から、好きだったらしい。一家揃って、山形県がお気に入り。
わたしはどちらかと言えば「義務」。
菩薩寺がある所だからゆく、程度であったが、(好き)。
一挙になった。

一回忌。
当然、自動車。義弟が運転。勿論、4人全員で、、のはずであったが、どうしても2人。義弟と姪の都合がつかない。
「じゃっ、わたし達だけで。新幹線でぱぁ~っといって、ぱぁ~っと帰って来ちゃおうか」
「あ~っ、そうね。そうしましょったら、そうしましょっ。多少の荷物はあるけども。花は、いつもの山形駅のあそこで、、、」
「ふむ、ふむ」
数日かけた準備の後。早朝、北本駅で待ち合わせ、大宮駅へ。新幹線に乗り換え、山形市まで。
妹と2人で、喪服で新幹線に乗る日が来るなんて、思ってもみなかった。
「到着。案外、いいじゃん、新幹線も。そんな遠くないし」
「そうね、2時間半ぐらいだもん。名古屋と一緒じゃん」
山形駅構内の花屋で予約した花束が、新たに荷物に加わる。そこからタクシーで約5,6分の距離に、菩薩寺がある。
すんなりと来た。ドアが開く。
中年と初老と足して2で割ったような目鼻立ちの運転手が、ミラー越しに眼を合わせる。被った帽子から、チラホラと白髪が見え隠れしていた。
「こんにちは」
後部座席に乗り込み、「浄光寺まで、お願いします」
わたしが言う。

走り出した。心地よい。
「終わるのお昼だっけ?どうする?食事」
「お土産は買うの?誰それさんに?」
たわいもない雑談を交わしながら、わたし達は到着するのを待っていた。
と、何となく違う。いつもより、時間が掛かっているような気がする。
亡祖母の時も、亡母の時も、新幹線で来た事が何回かあった。父が存命の時である。
(ん?)
そこ、さっき通ったじゃん!同じ道、曲ってない?
言葉にすら出さなかったが、心配になって来た。料金表がバンバンあがる。
妹も、仕切りに窓の景色を見てばかりいる。気づいたらしい。
目印になる角がみつかれば直ぐだけど、そこまでが案外、手間なのだ。
少し奥地の曲り角を進むと、バーンとそびえる大きなお寺。大銀杏と、庭園のような庭木が見る者の目を魅了する。浄光寺の特長である。
「あれっ?おかしいなぁ?」
曲がり角にはどうにか到着。次なる難問(?)に差し掛かったらしい。
(・・・・)
バンバンあがる料金メーターの方が、気になる。気になり、気になり、仕方がない。怖くすらなって来た。
と、「あっ」
「料金メーター、止めちゃいます」
言うなり、運転手さんの手がメーターに掛かり、ストップしたのだ。

関東地方なら、どうだろう?
まずあるまい。最近、タクシー業界の料金設定についてのニュースがあったが、中にはワザと遠廻りをし、料金アップを測ろうとする強者(?)ドライバーもいるようだ。
にも拘わらず、山形県。みちのくではない。素晴らしい。
駅構内の地下で、お土産を買ったら「少し、古いけど」。
とある菓子店の人が、ひょいとばかりに個包装のを2枚、おまけにくれた。
こういう事も、とんとばかりにご無沙汰である。
幼少の頃、お使いにゆくと時々、おまけをしてくれる店があったが、それは「サービス」。常連客への挨拶と言うか、利害関係を絡めてである。
喪服を着ていた。見るからに観光客(?)であった。
たまたまそういう人だった。そういう人に出会ったからだったかも知れないが、「いいじゃん、山形!」
義務だからゆく。何となく。
嫌いじゃないけど、好きでもない、から一挙に「好き!」
好きとなった一周忌だ。

えっ?で、どうなったかって?
迷える運転手さんが、料金メーターを切って直ぐに目的地に到着。
良かった、良かった。目出度し、目出度し。
                             <了>








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