以後、駅前のにしました

そろそろ話題。
いや、今春は「4月病」の話で、すっかり打ち消されてしまっているのかも知れない。
「何に使いますか?」
毎年恒例。街頭インタビュー風景だ。
丁度、お昼休み前後のオフィイス街。銀行前に並ぶ若者。新入社員と思しき面々達に、テレビのレポーターがマイクを向ける。初任給日だ。
「え~っ」恥ずかしさにキャピキャピしつつも、
「彼氏との食事に」
「前から狙っていた、どこそこの何々を買おうかな、って」
目を輝かせながら教える人がいる反面
「家賃で半分ぐらいは消えて」
「この間、何とかを買ったんでそのローンに」
暗い顔をする人もいる。

今からかなり大昔。
なかむら初めて物語。最初の4月25日。初任給を貰った。
「トップスのチーズケーキがいい」という家族の要望に応えるために、
昼休みに銀座へ。職場から近かった。
三越だったか?大急ぎで地下まで走り、やっと見つけて購入した。1800円だったと思う。ロゴが印刷されたビニール製の袋を渡され、嬉しかった。
帰宅するまで社の冷蔵庫に保管。付箋で大きく「中村」と記す。
(傾かないかなぁ?大丈夫かしら?)
片道2時間の通勤路では、電車に乗っていても気が気ではない。

しかし、我が家は悪まで庶民であった。
夕食後「ほっ、ほっ、食べましょうかね。ではでは」
冷蔵庫に冷やしておいた例のロゴ入り袋をおもむろに出し、中を開ける。
「長方形なんだ」
妹が呟く。
紙製の上箱を開ける。
と、(?)何だこりゃ、数秒の雰囲気が漂った。
真っ白な物体。出てきたのは、飾りのない真っ白な長方形だ。
「飾り、、、、ないの?トップスって」
「ないみたいね」
華やいだ感想が聞けるかと思っていたが、凡のみがわたしの耳に届く。

ケーキ皿なんぞを出し、フォークを添える。
お洒落なコーヒーカップに注ぐのは、インスタントの粉コーヒーだけど
まぁいい。
「美味しいね」
「流石はアメリカ。チーズが濃いわ」
「お姉ちゃん、ありがとう。来月も宜しくね」
「まぁ、ねぇ、、、うん」
一応、会話は楽しく弾んだように見えた。が、甘いもの大好き。
一家揃って珍しい共通点(?)であった我が家の心の叫びが、わたしに呼び掛ける。
(いいんだけどね、足りないんだよ。4分の1ずつじゃ。駅前のコージーコーナーで、1人2個の方が満足するかもね)
(美味しいんだけど、どこがどう美味しいのかが分からない)
庶民ですなぁ。

以後、駅前のコージーコーナーにしました。
ジャンボシュークリームと、各々が好みそうなのを選んで。
亡父はショートケーキ、亡母はかぼちゃのプリン、妹は渋皮のモンブランでしたわな。
「あ~っ、やっぱ美味しいねぇ。コージーコーナーは」
「駅にあって、良かったね」
「もっと美味しいのが、不二家だよ。駅に入ればいいのに」
弾む度合いが、違いましたな。


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