コンボ
そういえば前回の文章を書いている最中に、ゲームセンターでバイトをしてた時の出来事を思い出した。
「うぉぉぉらーーーー!」
と急に格闘ゲームじゃない肉声が店内にこだましたので、ふと目をやるとナムコの3D格闘ゲーム「鉄拳」の筐体の前で座ってプレイしている客に別の客が背後からスリーパーホールドをかけていた。
「プレイしていた」と先ほど表現していたが、その客はなんならスリーパーをかけられてイスからお尻が浮いてたし、でも執念からなのかスティックから手は放してなかったのでやっぱりプレイしていたのか定かではなかった。
私は慌ててメダルの預かりカウンターから現場(鉄拳前)に駆け寄り「ちょっとやめてください!」とスリーパーを解かせた。
かけられていたスリーパーは頸動脈を締めるモノではなく所謂チョーク気味だった。
鉄拳プレイヤーは常にガチだ。加減を知らない。
スリーパーを解いた客が
「だってこいつが卑怯なコンボばっか使うからよーーー!」とスリーパーをかけられた客より、赤くなっている顔で私にアピールしてきた。
鉄拳プレイヤーでもこいつはガチ中のガチなヤツだと私は思った。
どうやらお互いに面識は無いようで、鉄拳の対戦台で対戦していた片方が負け続けた腹いせに、対角線上の対戦相手の方まで回り込み、プレイ中の背後からスリーパーをかけた様だ。
スリーパーをかけられた方の側からしてみれば、コンボをひたすら叩きこんでる最中に突然自分の首回りに腕が絡みつき締めあげられるのだ。
体感ゲームでもなんでもない。ゲーム画面と身の回りに起こっている事が全くと言っていいほど連動していないどころか反比例している。
私は「打撃コンボメインの鉄拳なのによりによって締め技のスリーパーをチョイスするかね。」と思いながら、
「ダメですよ。もう帰ってください。帰らないなら警察呼びます。」
と伝えたらスリーパーをした客は素直に帰って行った。
そりゃそうだ。もし警察が来て暴行で連行されたらゲームの事もよく知らないおじさん警官に調書で
「テレビゲーム(ストツー?の様なもの?)で連続した攻撃(コンボ?)を叩きこまれ逆上した被疑者は被害者の首回りを締め、、」などと書かれ、身元引受人のお母さんにはケンカの理由も言えずに一方的にこっぴどくしかられてしまうだろう。
この時の私は「ゲームなんかに熱くなって実際に手出すってくだらないし、どんだけしょーもないんだよ!!、、あと技のチョイス!!」とイラだっていた。
それから十数年後、テレビで芸人のチャンス大城さんが自分の身の回りで起こったエピソードを話していた。話の内容は
自分がだらしなくて嫁に逃げられて子供とも離れ離れになってしまって会えなくてつらくて遠くからでもいいからどうしても一目顔が見たくて見たくて、、という時期があって。
そんな時、先輩芸人とごはんを食べていたら、その場所がたまたまその子供が通っている幼稚園から近くだという。それなら一目見に行こうという話になり、幼稚園の入り口近くの電柱の陰に隠れて幼稚園から出てきた子供に声をかける事もなく見守っていたチャンスさんは、だんだん悲しみにも似た感情がこみ上げてきたそう。
その様子を見ていた先輩芸人さんは「チャンスごめんな。ゲーセンでも行こうや。」とチャンスさんをゲーセンに誘ってくれて、チャンスさんとその先輩芸人は「鉄拳」で対戦することに。
チャンスさんはおもしろい様に10連コンボが決まって最初の方は楽しそうだったが、段々とまったく反撃をしてこない先輩芸人さんの様子がおかしい事に気づいていく。
対角線上の対戦相手の先輩芸人の席に回り込んで「なんで攻撃してこないんですか」と聞いたら、その先輩芸人はキリストみたいな顔で「気が済むまで、殴ってこい」と言われ、その言葉にチャンスさんはいたく感動して涙をぼろぼろ流したそう。
その様子をテレビを見ていた私は
「同じ鉄拳でこんな真逆なエピソードある?」
と面を食らったのと同時に私の顔は10連コンボを叩きこまれた顔をしていた。
。。。。と思う(笑)