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住居メモ 01の3➖聴竹居(1928) とシュローダー邸(1924)

 図らずも二軒の住宅とも今から約100年前の設計で建築家の手になるものです。
  二つの住宅の設計者は聴竹居が藤井厚二、シュローダー邸がヘリット・リートフェルトで同じ年の生まれです。

 これは1920年代の世界的なデザイン芸術運動に影響された設計と言えるでしょう。片や遠方に居て影響された人、リートフェルトはまさにその運動の中心人物という違いはあるものの同時代人ということです。

 1920年代はデザイン・芸術にとって画期的な10年でした。ドイツのバウハウスやオランダのデ・スティールなどの運動が興り、機械による大量生産の時代に相応しいデザインや芸術を追求しました。
 同時にフランスではル・コルビュジェ(スイス人)、アメリカではF.L.ライトといった建築家が新しい材料を用い、新しい平面構成と形を実現して近代建築を確立しました。
 これらは世界に大きな影響を与え、近代のデザインを決定的に変えていきました。


「聴竹居」
設計 藤井厚二(1888-1938) 昭和3年(1926年)竣工
敷地:京都府乙訓郡大山崎町大山崎谷田31

縁側 西側の掃き出しだけが外への出口
居間 右のアーチが食堂への入口
平面図 一番左が縁側そこから居間、食堂と続く

藤井は自邸を何度も立て替えて、5度目でこのデザイン「聴竹居」に到達しました。日本の伝統の「一屋一室」の家の展開の記念的な第一歩です。

 彼は東大を卒業して大手工務店で設計業務を経験して京都大学の建築の教授になった人で、欧米の近代建築の革命的な大きなうねりの影響から無縁ではありえませんでした。

 彼は自分の家を設計するにあたって伝統的な木造建築から出発して、欧米の住宅のデザインを取り入れながら、破綻なく一つの形として統一された住宅を設計することをテーマとしたものと思われます。それを五回も立て替えて実現したわけです。

1.    外壁を大壁とし色を日本の壁に見られる黄土とし、窓枠を木製で工夫し、屋根を伝統的な作りのまま残す。
2.    外からの出入りは主に玄関と勝手口で西洋風の作りとなっている。縁側と呼ばれる部分を伝統的な南側に掃き出しの広がる従来の縁側にせず、光を取り入れる場であり、空気の出入りと遠くまで見通す眺めを楽しむ場で開口大きく取ったサンルームのようである。(外に出る掃き出しは西側に1間)
 横長の窓はヨーロッパの近代建築の影響を受ける。
3.    居室(居間、食堂、書斎)は板の間として流動的な空間を形成している。装飾や照明は幾何学的形態となり、窓台と壁の腰に連続する横の直線が部屋としての統一をもたらし、洋風の気分高めている。

などの特徴があります。日本的な「一屋一室」のセオリーを守りながら和に洋が溶け込み絶妙なバランスで統一されている労作です。

シュローダー邸 外観

「シュローダー邸」
設計 ヘリット・T・リートフェルト(1888-1964) 1924年竣工
敷地 オランダユトレヒト

 写真からも判るとおりオランダのモンドリアンの絵画を立体にしたような建築であり、オランダの前衛芸術運動デ・スティールの理論を具現化した近代建築の金字塔と言える住宅です。夫を亡くしたシュローダー夫人と幼い3人(女2人、男1人)の子供のための小住宅です。

 リートフェルトは家具職人の子として生まれ、若い時は家具を作っており、オランダの新しい芸術や建築の革新運動に興味を持って学んでいました。1917年にレッド アンド ブルーチェアーをデザイン制作した人と知られ、改装にも仕事の手を広げていたころの最初の住宅で、デ・スティールを代表する設計を行いました。 

2階内観 天井のラインが可動ウォールのレール
1階 平面図
2階 平面図 オープンなワンルーム
2階 平面図 クローズな4部屋

 今回、注目するのはその二階部分であります。シュローダー夫人はプライバシーを保ちながらも外の眺めや自然に接することのできる二階を居室として、三人の子供と親しく接し、成長を見守りながら暮らすことを望みました。
 リートフェルトは時間を掛け夫人と協議を重ね、計画を進めました。その結果当時のヨーロッパでは珍しいスライディングウォールにより二階を一室から四室へと変化させることとなるフレキシブルなプランを完成しました。外部の三つのバルコニーを含め、ヨーロッパ初と言ってよい「一屋一室」の生活空間を創造したのでした。

 近代建築の創成期にこれらの素晴らしい設計の例がありながら、日本ではそれ以降、内に暮らす家族の関係を真剣に考える設計の継承が行われなかったのは残念なことです。

 あって当たり前なことは、大切だと意識されず、長い時間を掛け西洋化の波の中に呑み込まれて消えてしまうのでしょうか。

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