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湘南の家−Ⅰ

立体的ワンルームのある家
 
 もう、だいぶ前の設計です。夫婦と小学校低学年の姉妹 4人のための住宅です。
 
 与えられた条件は土地と予算、*1 子供が帰ってきて自分の部屋に入っても気づかないような家の構造ではないこと。 *2 化学物質過敏症の夫が普通に暮らせる家であること。でありました。
 
 土地と予算の条件から、必要な床面積を得るには3階建てにすることが決まりました。また、建物の構造は、木造で3階建ても建てられますが、防火の制限上、窓が大きく取れないため鉄骨造としました。
 
*1の条件は、家の中央に階段を配置して階段室とせず、階段がどこからでも見える設計にして、オブジェ化し、上り下りする子供の存在を認識させることとしました。
 2階は居間とダイニング並びに階段をワンルームとし、3階の子供スペースを個室化せず階段と居間上部の吹抜けと一体化して2階3階を立体的ワンルームとしました。
(Instagram:8028.arcanova / 湘南の家の写真と平面図 参照)
 
 日本人の家族関係も、もちろん対面して話すことが大切ではあります。しかし、それだけではなく、視界に何となく存在したり、気配を感じて繋がる集合としての家族が日本の特質であります。(他人をおもんばかる日本人の習慣はその辺に起因するのだろうか?)   
 その家の中で子供は日本人として健全に育ち、家族は平和に暮らせる。(襖や障子で仕切られた日本家屋で培われた日本人の暮らし)
 
 個室が連なり独立性の強い個人の集合としての西洋型の家族は個人の強い性格と、会えばハグしてあいさつする和やかな関係の両極端からできあがっている。両方のバランスの中で生活が成り立っている。組積造の建築による家の合理的な結果といえるのだろう。木造軸組み構法による伝統的な日本の家族の在り方とは大きく異なる。
 
 子供の動きや様子を感じることのできる家の形、常に和やかな関係が築くことのできる家の形を追及することがこの家造りのテーマでありました。もちろん、20年前のことですから日本と西洋の対比も漠然としていましたし、障子と襖の代わりになるデザインのモチーフ探しは難しかったといえます。1924年にできたユトレヒト(オランダ)の「シュローダー邸」(G.T.リートフェルト)のような天井まである移動間仕切りを使うには空間の整理が難しいし、経済的負担も多くなります。
 
 最終的には3階も間仕切りのない子供スペースとなり、居間の上部吹抜けと一体の形になりました。立体的なワンルームができたわけですが。床暖房は設置しましたが暖房時の熱環境のコントロールは難しいものとなり、経済的負担も多くなりました。(床暖房をこまめに点けたり消したりして経済的に暖房をしたとのことです。)

 この環境の中、子供は時には個室が欲しいと言うこともあったそうです。しかし、二人とも優秀な大学に進み、性格も穏やかに成人しました。もちろん、ご両親の子供に対する気遣いは並々ならねものがあったと思います。

 子供達が学校を卒業するまで居間に4つの机を並べ生活していたようです。

(化学物質過敏症のことは Ⅱ で書きます。)

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