ダイヤモンド
友達に、ダイヤモンドを買った。
ダイヤモンドなんぞ、自分にも人にも、一生買わないと思っていた。
思い浮かべるダイヤモンドは何十カラットもある、ウン十万円の代物であったこともあるが、それ以上に私はありきたりが嫌いなのだ。
芸のあるプレゼントをしたい。
だが、ふらっと立ち寄ったアクセサリーショップでそのピアスを見た時、目が離せなくなった。
今ならお安くお買い求めいただけますよ、というセールストークとよくわからない引力に魅かれた。
彼女とは、10年の付き合いがある。
端正な顔立ちで、無邪気。彼女は誰にでも好かれる人だったから、ぱっとしない自分を何故彼女が好いてくれるのか分からなかった。
自分は彼女が好きだったが、眉目秀麗、才色兼備な彼女に一種の劣等感も感じていたし、そんなものに悩まされている自分も嫌であった。
「親友」とか「仲がいい」という言葉を、彼女から直接もらったこともある。
それなのに信じきれていなかったことも事実で、彼女が自分以外に笑う姿に変に妬いたりした。
こじらせていた。私を一瞬で置いてきぼりにしたのは、彼女の「ニコイチ」だった。
体育祭の実行委員をやった時のこと。彼女と私、最後に担任が買ってくれたハーゲンダッツの味を選ぶ権利が「功労者」である私たちにあった。
『大した仕事もしていないのに申し訳ない』と、グズグズしていたら彼女は「ニコイチだから!」と私を呼んだ。
そんな言葉はありきたりでサムいと思っていたが、彼女がクラス全員の前でニコイチと公言したのが嬉しくて、泣くかと思った。
この人を信じていようと思った。
彼女は私が好きなのだと、わかった。
彼女にプレゼントするのはダイヤモンドのピアス。
芸がなくとも、店頭でこのダイヤモンドを見たとき、彼女の耳にサラリとなじむ様を確かに見た気がしたのだ。
自分の体裁よりも相手のことが思い浮かぶ、ニコイチな相手だから。