師走の恋人たち
以前、「あなたの歌声はまるで魔法のよう」と言われたことがある。嬉しい反面、しょせん恋する統合失調女の戯言だろうという気もして、素直に感謝を受け取れないでいた。彼女は私に断薬を勧められて、その通りにし、彼女が私との時間を夢見ていたであろう12月の終わり頃に「私、おかしくなっちゃった。メリークリスマス」と言って、それ以降、音信不通になった。彼女は元気にしているだろうか。
思うに、言葉それ自体が魔法である。タイミングさえ噛み合えば、言葉は本当に奇跡を起こす。私は言葉の魔術師だし、言葉にはいつも真剣なので、きっと私の言葉が良くも悪くも彼女に奇跡を残したのだろう。そうして彼女は堕ちていった。
彼女は東大卒の文学少女だった。私より年は幾分上だったが、いつまでも文学を愛してやまない正真正銘の文学少女だったと思う。そのことを私に見抜かれた彼女は、変われない自分が悔しいと言っていた。私の方は、単純に、彼女の姿を美しいと思えなかったため、好意を受け取ることができなかった。
だが、それでも、彼女とやりとりをした短い時間は、やはり私にとっても意義深いものだったように思う。私は一人の人生を燃え上がらせ、そして台無しにしたのだ。
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