たびのはなし①

父親が独身時代に買ったという深夜特急を読み始めて、わたしの頭はこれまでの(決して多いとは言えないが)旅中に起こった出来事でいっぱいになっている。

言葉を綴るのが好きなのに、旅中はそれが妙に億劫に感じられて、いつも心の中にしまってしまう。でも、こんな出来事があったというのは、しばらくしたら忘れてしまうのではないかとも思う。

だから思いついた順に適当に記していくことにした。

一人旅の時、私は交通機関をいつもとても迷う。長距離バスはまだいいが、中短距離の移動、1人でタクシーは怖い。しかし一般的なバスの乗り方やおりるべき駅が分からなかったりする。
だから専ら、徒歩。とにかく歩く。
私が先進国を旅した経験が浅いのもこの理由の一つであると思う。

モロッコのマラケシュに滞在した時のこと、私は日帰りでエッサウィラという港町に日帰りで行くことにした。

エッサウィラまではバスで約3時間。バスターミナルまでは普段使うことのないタクシーを、同じ宿に泊まっていた女性とシェアした。

エッサウィラでの出来事はまた別で書こうと思う。

その帰り道、エッサウィラからマラケシュのバスターミナルへ到着。しかし、どうやって宿まで帰ろう。

バスターミナルにはタクシー運転手がたむろしており、盛んに「マダム、タクシー?タクシー??」と声を掛けてくる。

流しのタクシーならまだしも、このように客を出待ちしているタクシーの運賃は相場よりずっと高い。私は来た時以上の代金は払わないと決めていた。しつこく声をかけられるので、「いや、いい」と断ると「幾らだ?」といってくる。その値段を伝えると、「それは無理だ」といってくる。どうやら1人の運転手によると朝の値段と夜の値段は相場が違うという。真偽は不明だが。

振り払ってとりあえず歩こうと思って歩き出しても、「こっからは遠い、歩くなんて無理だ」といってくる。

確か夜の7時ごろになろうとしてた。辺りは暗くはないが、日が落ちかけていた。アラビア語とフランス語ばかりの町で、日が落ちてから1人でふらつくのは流石にこわくなり、タクシーに乗ろうかと思いなおし、運転手と再び交渉を始めた。しかしやはり高い。

そんなやりとりが続き、困っていると急に後ろから肩を叩かれ「follow us」と言われた。

みると白人の3人家族の父親が困っている私を助け出そうとしてくれたようだった。
「向こうにバス停がある。そこから町の中心まで帰れるよ」そう言って、ブーブー言っている運転手たちを残して私を連れ出してくれた。

結局、途中でバンの運転手に声をかけられ、バスで行くよりも便利だということでそこに相席させてもらうことになった。

声を掛けてくれた父親が助手席に、私より若いくらいの女の子と、母親と思われるが母親にしたら若すぎる気もする女性と私が並んで後ろに座った。

フランス人だったか、ドイツ人だったか思い出せないが(こう言う細かいことを忘れてしまうのはとても寂しい気分だ)、英語圏の人では無かった気がする。しかし父親の英語は非常に流暢だった。

父親は以前にも一度仕事でモロッコには来たことがあるらしく、今回はホリデーで家族で来たということだった。

しばらくすると中心まで戻って来て、バンを降りた。運転手に運賃とチップを渡してバンを離れた。

助手席に座っていた父親がまとめて払ってくれたので、「いくら?」と聞くと「要らないよ」と微笑んでくれた。お金には困ってなさそうな家族だったし、「いや、でも払います」という英語も咄嗟に出てこず、結局払ってもらってしまった。

「私たちはここに泊まるから」といって別れを告げられた。"Have a good day"と別れ際に言われたのは今でも覚えている。もう夜なのになあ、なんて心の中で思ったからだ。笑

多分彼らにとってはタクシー代と対して変わらず、私の分を払ってくれたからむしろ損をしている気がした。
ただただ、私が得をしただけのことだが、とっても心温まる出来事だった。

私も貧乏旅行から脱せるようになったら、あんな気遣いを出来る旅人になりたいものです。

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