暗闇のドライブ

僕はその日、暗闇をひとり車で進んでいた。何故なのか、何処なのか、そんなことはどうだっていい。

どこに向かっていたのか?そんなのはどうだっていいと言っただろう。僕自身わからなかったと言えば納得してくれるか?

それでもとにかく進むしかなかったんだ。
だってそんな場所じゃあ立ち止まってじっと待ってたって何も変わらない。
他人に助けを求めようにも、自分の居場所も目的地もわからないようじゃ誰も助けに来れない。
後進したって結局いつかこの道を前進することになる、一本道だからね。

見えるのは自車のヘッドライトが辛うじて照らす範囲の一本道数メートルのみ。でも止まらない、後戻りしないと決めたならその見える範囲を進むしかない、そうだろ?

そんなわけで、どこから来てどこへ行くのか、自分がどこにいるのかもわからないまま、ただ見えている道だけを時に颯爽と、時に恐る恐る、進み続けていた。

ある時、暗闇の先に白く明るい四角がみえた。もう少し近づいてみると、それはガソリンスタンドのようだった。

よかった、ひとまず目的地をあのガソリンスタンドにしよう。
これまで通り見える範囲の道を細々と地道に進んでいたらたどり着いた。
もしかしたら道を無視して直進すればもっと早くたどり着いたのかもしれない。
でもいいんだ、僕に急ぐ理由はない。

ガソリンスタンドの明るい光の下で停止した。
車を停めたのは何時ぶりだろうか。
「このガソリンスタンドは安心できそうだ」という気持ちが車を停めた。

問題はそこからだ。僕はもう一度車を走らせるのが億劫になってしまった。
そりゃどうしようもなく続く暗闇に再度乗り出してつぎの目的地がいつ見えるのかもわからないまま走り続けるなんて、できるならやめたいよね。
さっきまでは無心で走っていたけど、ガソリンスタンドを見つけてしまった僕にはもうできないよ。

じゃあこのガソリンスタンドで一生過ごすのか?そんなことはない。
だってこのガソリンスタンドは冷蔵庫があるのみで無人だし、その他はガソリンを入れるのと用を足す以外の設備は無いようだからずっといても仕方がない。
それはわかっているんだけどね、それでも僕は動きたくなかった。

そういうわけでしばらくぼーっと過ごしていると、冷蔵庫の食料で腹は満たせるし暑くもなく寒くもないこの場所に一切不満はないのだけど、だんだんと退屈な気持ちが大きくなり当初の億劫な気持ちを追い越した。
ようやく僕はまた車を走らせることにした。

ヘッドライトは相変わらず一寸先を照らし続けていた。
その見える方向へ、僕はまた同じように地道に進み続けている。
だってそうするしかないんだって、もうわかってくれるだろう?

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